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☆パンツ聖戦☆
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 俺の住んでるアパートから高校までの通学路、古びた神社の境内の脇には、大きく立派な桜の木が生えている。
 樹齢はもうすでに何百年にもなる、美しい桜の木だ。
 家族の住んでいる町からだいぶ離れた、この町のアパートに住んでいる理由は、ここが俺の生まれ育った場所だから。でも、それ以外にも理由がある。子供の頃、曖昧だけどここに住んでいた俺は、よくこの神社に訪れた記憶がある。
 今日は高校の入学式の日、それまでまだ時間があるので、何となくこの神社にお参りに行こうとふと立ち寄ってみると、神社の境内の脇にある桜の木の下に、人影を見つけた。俺は、なぜだかその人影が気になって、近くまで寄って行ってしまった。
「貴方には私が見えるのですね!」
「うわっ!」
 桜の木の下に佇む人影に、突然そう声をかけられる。不意を突かれる形でそう言われたので、思わずびっくりして、声を上げながら尻もちをついてしまった。
 人影が目の前まで歩いてくると、俺はようやくその姿をはっきり見ることが出来た。大きな桜の木の影から現れたのは、綺麗な桜色の、厳かな雰囲気さえ感じさせる着物を着た、この世の人とは思えないほど美しく可憐な美少女だった。
 白く透き通る陶磁器のような肌に、キラキラと煌く瞳、頬と唇はほんのり桜色で、それなのに髪は対照的に少しも光を返さないほどに黒く、艶めいている。
 例えるなら、彼女の背後に見える凛と咲き誇っている大きな大きな、桜の樹の精が、突如自分の目の前に現れたかのように感じた。
 遠い記憶に重なり、デジャブを感じる。いつか、同じ場所で桜色の着物が美しい、穏やかな微笑みを浮かべる美しい女性を見たような気がする。朧げで、ひどく曖昧だし、顔だってはっきり思い出せないけど。
「あ、貴方は……」
「私は、木花咲耶コノハナサクヤと申します」
 彼女は呆けて、唖然としている俺の言葉を遮るように、優雅に、華やかに、艶やかに、自己紹介をし始めた。
「初めまして、私、神様を行っているものです」


 1


「貴方には、神である私が見えるのですね!」
「えっと……そうなるんですかね?」
 正気を取り戻した俺が咲耶の問に、とぼけるように答えると、パァッと言う擬音が似合いそうなほど顔を輝かせて俺の手を強引に取り、無理やり握手をしてきた。そして、ブンブンと両手を上下に振り下ろす。よほど嬉しいのか、俺の顔を凝視しながら、近づいてくるので、思わず顔を背けてしまう。
「よかったぁ! ずっと私のことが見える人を探していたんです! でも、全然見つからなくて……諦めかけていた時に、偶然貴方が私の方に近づいてくるので、もしかしたらって思ったんです! 本当に、本当によかったぁ……!」
 なんだそりゃ……、神様も大変なんだなと、心のなかで思いつつ、半信半疑で彼女の話を聞いてみることにした。はっきりって、怪しさ全開なんだけれど、可愛いし、いい香りするし、高校デビューってことで、ここで知らない女の子とお近づきになっておくのも、悪く無い。ちょっと電波入ってるけど、むしろそこが個性になっていて、話してて楽しいかも。俺はそう思った。
「お役に立てて光栄です。申し遅れました、俺は新井にい 御言みことって言います。この春、高校生になったばっかりの、高校一年生です! よろしくお願いしますね」
 出来るだけフレンドリーに、笑顔をいっぱいに振りまきながらそう言うと、咲耶は俺の顔を見ながらブツブツと小声で何かを呟いている。心配しつつ、『どうかしました?』と尋ねると、彼女は急にパッと笑顔になって、『ぜんぜん大丈夫ですよ』と答えた。
「早速ですが、御言さん。貴方は今から私の分身です!」
「へ?」
 俺はいきなり、咲耶から私の分身宣言を受けた。訳が分からず固まっていると、咲耶は扇子を取り出し両手に持ち、何やら俺には聞き取れない言葉で、歌いながら踊り始めた。
 すると、さっきまで大人しかった風がざわめき、桜の木から花びらが舞い散る。俺はその幻想的な光景にしばらく酔いしれた。そんな俺の様子を気にする様子もなく、咲耶はそっと俺の額に手のひらをかざす。
「これで、貴方は私の現世での分身になりました。これから暫くの間、よろしくお願いしますね」
「あっ、どうも。よろしく……お願いします?」
 こうして俺は、咲耶の分身になってしまったようだ。しかし気を休める暇なく、咲耶は『これから実言さんには、私の代わりに大事なことをしてもらいます』というと、ゴソゴソと着物の袖の裾から何か取り出す仕草をし始めた。
「あっ! その前に御言さんには今から、女の子になってもらいますね」
「へ?」
 咲耶はまるでごく自然に軽く、言い忘れてたと、言わんばかりのニュアンスでそう言うと、袖からどこに隠してたんだと言いたくなるほど大きく物騒な、ハサミを取り出した。
 咲耶の行動もそうだけど、いきなり物騒なものを取り出してきて、急に訳の分からないことを言い出してきた咲耶を見て、俺は思わずマヌケな声が出てしまった。
「それってどういう――」
 俺がそう言いかけると、咲耶は突然俺のイチモツ目掛けてハサミを振りかざした。突然の咲耶の行動に呆然として、立ち尽くしてしまう。
 ハッと我に返り、俺は突然の咲耶の行動に驚きつつ、自分の息子を守るために、咲耶から一歩下がって両手を息子を守るように覆い被せた。
「な、何するんだよ!」
「だから、今から御言さんに女の子になってもらうんです」
「だから、それが意味がわかんないんだって!」
「詳しく説明している暇はありません。とにかく今は、女の子になってください御言さん!」
「だからやめろって! なんでその物騒な物俺の方に向けるの!? それで一体俺のナニをナニする気なの!?」
「あっ、これですか? これは神器エダキリバサミと言ってですね――」
「だからそれ、ただの枝切り鋏だろ! 危ないからこっち向けんなって言ってんの!」
 涙目になりながら、咲耶の執拗な俺のイチモツを狙った猛攻を避けた。それでも、咲耶はその可憐な美少女の姿からは想像もできないほど、荒々しいハサミ裁きで俺のイチモツを狙うことをやめない。
 ふとした拍子に足を取られて転けた隙に、俺は咲耶にマウントポジションを取られてしまった。美少女にマウントポジションを取られるなんて、それなんてご褒美なの? と言いたいところだが、状況が状況だけに素直に喜べない。
「はぁはぁ……さぁ、覚悟してください。今から御言さんを女の子にしますからね……」
「何でちょっと興奮してるんだよ! 俺にはそういう趣味はないぞ! って……あっ、だ、だめ、やめっ……ああ、アッーーーーーーー!!!!!!」
 私、新井御言は今日から女の子になりました。

「実はですね、御言さんには神々の戦いに、私の代わりに参加していただきたくて」
「へーそう」
「つまり簡単に説明すると、神々による人間を介して行う代理戦争と言う奴なんです!」
「へーそう」
 咲耶は俺に向かって今、俺が巻き込まれてしまった状況について説明している。しかし、そんな咲耶の説明は、俺の耳には入らない。なぜなら、そんなことよりも重大な問題が、俺に降りかかっていたからだ。
「でもさ、それって俺となんの関係があるんだよ? あの、ヘンテコな枝切り鋏で俺のイチモツばっさり持ってかれたと思ったら、気がついたら女の子になってたよ。可笑しいよね? 髪だって肩まで伸びてるし、声は高いし、オマケに股はすーすーするし。あぁ……すーすーするのは当然か。だって俺、咲耶に俺の大事なイチモツをハサミで切り落とされたんだもの!」
 俺の悲痛な叫びはトイレの中で木霊した。ここは、私立桜ノ宮高等学校。俺が今日入学する予定の高校の一階、高校一年生の男子トイレの個室の中に、俺と咲耶はいる。あれから、何とか高校には着いたものの、人の目に出る勇気が無く、入学式の時間が迫っているのにも関わらず、こうして男子トイレの個室に引きこもっていたのだ。
「思わず男子トイレに入ったけどさ、どっちに入ればいいのか一瞬迷ったよ。可笑しいよな? 俺、男のはずなのに」
「傷心している場合ではありませんよ、実言さん!」
「誰のせいだと思ってるんだ!」
 俺の悲痛な抗議も虚しく、咲耶は淡々としている。ゴソゴソとまた何やら着物の袖から何かを取り出そうとしているようだ。もう切り取るものなんて、残っちゃいねえぞと心のなかで悪態をつきつつ、横目で咲耶の方を見てみると、かなり奥の方にあるのか、さっきよりも深く袖の中に腕を入れているのが見えた。『あ、あったあった!』と咲耶は言うと、何かを取り出し俺の目の前に出してきた。
「今からこれを美琴さんに着けてもらいます」
 咲耶はそう言って、一枚のパンツを見せてきた。そうだ、あのパンツだ。女性がスカートの下に履いているとまことしやかに囁かれている、あのパンツだ。真っ白で綺麗なパンツで、中央の上部には可愛らしいピンクのリボンが、アクセントのように付いている。
「え? なにコレ?」
「パンツです」
「知ってるよ!? 何で俺が、そのパンツを着なきゃいけないのかって話をしてるんだよ!」
「御言さんには、今からこのパンツを履いてもらって、神々の戦いに参加していただきます」
「何でだよ!」
「それがですね……話すと長くなるというか。それが、この聖戦のルールとしか言いようが無いんですよ」
 咲耶はめんどくさそうな表情でそう言った。一番めんどくさいのは、俺の方なんだよと突っ込みたくなった。
「いいから説明しろ!」
「分かりました……。そうですねぇ、あれは今から二千年前――」
「要点だけまとめてくれ!」


2


 一年四組と書かれた教室にいそいそと入ると、俺は十四番の席へとそそくさと座った。
 一年四組、十四番。これが俺の席だ。高校生としての実感が少しずつ自分の中に湧き上がると同時に、体に感じる大きな違和感に動揺したりもしていた。
「御言さん。よく似合っていますよ、その制服」
「ああどうも、見え透いたお世辞をありがとう……。ていうか、何で俺が女の子のパンツを履いて、しかも女子の制服を着なきゃいけないんだよ!」
「それが、聖戦のルールなんです」
「何でだよ!」
 そう言いつつ、俺は自分の体を見渡した。俺は胸元の小さな桜の花びらの校章が可愛い、ヒラヒラのスカートが実に優美な、女子高生の制服を身に纏っている。体も女の子なら、格好も女の子。まさに、今の俺は心以外、ピッチピチの女子高校生という訳だ。
 どういう訳か、咲耶は女子高生の制服も持っていたらしく、パンツも履きつつ、ついでということで半ば無理やり女子高生の制服を着させられてしまった。そうだ、あの憎き枝切り鋏をチラチラ俺に見せつけながら、着替えさせられたのだ。あんた本当に神様かよと、思わずツッコミそうになった。
「それに、何で神様が日本の高校の制服を持っているんだよ! おかしいだろ……」
「そ、それは……! た、たまたまなんです! 本当にたまたまで、別に一度高校生の制服着けてみたかったとか、要らなくなった制服をお願いして貰ったとか、そういうんじゃないんです!」
「この制服、私物かよ……」
 この際、どうやって女子高生の制服を手に入れたのかとか、他の高校の制服も持ってるのかとかは置いておく。というか、怖くて聞けない。
 なんなんだよこの神様。
「ちなみに、俺の隣にずっと立ったままでいるけどさ」
「はい!」
「はい! じゃなくて……。貴方立派な不審者ですよ? 高校っていうのはね? 基本的には、生徒と教師だけしか入っちゃダメなの、関係者以外立入禁止なの、ハイスクールステューデントオンリーなの。ドゥユーアンダスターン?」
 ま、俺としては警察に捕まってくれた方がいいんだけどさ。
 俺の親切な忠告を、ウンウンと頷きながら咲耶は黙って聞いていると、急に俺に向かって全力でウインクをしてきた。ついに、頭がおかしくなってしまったのかと、俺が恐れおののいていると、咲耶は目の前に人差し指をつきたて、左右に振って『チッチッチ』と言った。少し、イラっとした。
「私は神様なので、普通の人には見えません! えっへん!」
「……ああ、そう」
 勝手にしろ、と心のなかで悪態をついて、思わず机の上に突っ伏した。
 もうやだ、早く家に帰りたい。せっかくの高校デビューが、気がついたら新たな世界にデビューしちゃってるし、頭が可笑しくなりそうだ。
 そう言えば、さっきからクラスメイトが少しずつ教室に集まり始めているのに、誰も咲耶の方を見ようとしない。無意識にやってるのか、それとも意図的になのか分からないが、何だか咲耶の方を避けているようにも見える。ついに、席が全て埋まっても、誰も不自然にその場に立っている咲耶に対して、声を上げることは無かった。
 まさか、な。ふと、咲耶の方に目を配ると、俺の視線に気づいた咲耶はドヤ顔で俺の顔を見返してきた。何か、すごくムカついた。
 ふと、視線に気が付いて振り返る。一人のクラスメイトの女の子が、ジットリと俺の方を見ていた。黒髪は長く、前髪が目にかかってよく顔が見えない。俺が彼女の方を見返すと、サッと顔を背けた。一体、何なんだ……。
 ホームルームは淡々と終わり、ついに出席番号と名前を担任の先生に呼ばれ、自己紹介をする時間になった。一番から順番に番号を呼ばれ、立ち上がり、新しいクラスの仲間達に自己紹介をする。本当なら何のことは無い、一連の行動だけれど、今の俺にとっては最悪だ。ついに自分の番号を先生が呼ぶと、明らかに動揺した表情で先生は俺の方を見ている。
「出席番号十四番、あれ、君……」
 先生が次の言葉を出す前に、俺はすかさず立ち上がり、畳み掛けるように自己紹介をした。焦りすぎて席から立つときに、膝が机の角に当たったので、痛くてちょっと涙目になってしまった。
「新井御言と申します。皆さんよろしくお願いします」
 それだけ言うと、すかさず俺は自分の席に座る。そして、まるで何事もなかったかのように振る舞った。それが、今俺の出来る唯一の行動だ。先生は教卓の上にある俺の写真と、今の俺を交互に見返しながら、動揺している。無理もない、そこには『男だった』俺の写真があるんだろう。だが、今ここにいるのは『女の子』になった俺だからな!
 暫くの間、俺と写真を見返すと、急に先生は何かを納得したような顔をして、次の生徒の番号を呼んだ。
 何をどう納得したのかは分からないが、取り敢えずこの場は丸く収まってよかった。
 このまま早く時が過ぎてしまえばいいのに、そう思った瞬間だった。
 出席番号三二番、最後に立ち上がった女子生徒は、こちらの方をものすごい表情で見つめている。だが、俺が驚愕した理由はそれじゃない。その子の隣には俺と同じように、どっかの誰かさんに似たような人が見える。気のせいだと思いたいが、きっと無理だろうな。
「あっ」
 先に声を漏らしたのは咲耶の方だった。
 というか、何で今の今まで気付かなかったんだよ! と思ったが、すぐに思い直す。いや気付くはずもない、と。今のヘンテコな状況で自分の周りを冷静に見られる人間なんて、果たしているのだろうか? いや、いない。断言するね。
「見てください! 早速見つけましたよ、私以外の神様です!」
「何それ……聞いてないんだけれど」
「何言ってるんですか! これから御言さんは、あの女子生徒とパンツを取り合うんですよ?」
 思わず咲耶の言葉を聞き返す。今聞き捨てならない言葉が聞こえたような気がしたぞ。俺の勘違いであってくれと願いつつ、もう一度咲耶にさっき言った言葉を尋ねる。
「ちょっと待って。今なんて……」
「だから、今からあの女子生徒とパンツを取り合うんです。神の威信をかけて」
 なんてちっぽけな威信なんだと、心の中で叫んだ。
「しゅっ……出席番号三二番。天野陽向あまのひなたです。よ、よろしくお願いします」
 可哀想に。彼女はこっちの方をチラチラ見ながら、動揺している。席に座る時も、思わず椅子が倒れかけて、ガタッとなってしまった。
 彼女は黒縁の、フレームが太いメガネを掛けていて、長い少し茶色がかった黒髪をおさげにしている。見た感じすごく真面目そうな人に見えた。俗にいう委員長タイプのような女子高生だ。
 しかし、この状況で俺は逆に安堵している。俺以外に仲間がいたと、俺は一人じゃなかったんだ! と感動さえしていた。
 ホームルームが終わると、早速、陽向の方に向かって歩いて行った。出来るだけフレンドリーに、笑顔を絶やすこと無く、こちらには敵対の意思はありませんよ、とアピールするのだ。
「どうもはじめまして――」
 俺がそう呼びかけようとした時、俺の前を遮るようにぬっと人影が現れる。
 それは綺羅びやかで鮮やかな様々な色が折り重なった、十二単のような着物を着ている。窓から差し込む光を反射して、まるで後光が差し込んでいるように見えるほどに、美しい女性だった。
 思わず息を呑む。瞳はキラキラと輝き、肌は雪原の如く白く美しい。唇は仄かに赤く、黒髪の長髪は肩の高さで対照的に輪っか状に結ばれている。
「私、天照あまてらすと申します。僭越ながら、神を行っているものです」
 そう言い、顔の前でパッと扇子を広げた。金色の縁で彩られた、彼女の着ている着物と同じ七色の扇子だ。咲耶と同じセリフを言うに、彼女も咲耶と同じ関係者だということが、俺の中で確定した。思わずゴクリと唾を飲む。ということは、彼女も咲耶と同じ神様ってことなのか? そして、例によって彼女も俺と陽向以外には見えていないようで、周りの人は見向きもしない。
 天照は敵対心バリバリでこちらを睨みつけている。友好的な対話は難しそうだ。
「血の気が多いのは結構ですが、ここは人目も多いですし何より場所が悪い。ここは場所を移す、というのは如何でしょうか?」
「い、いや場所を移すも何も俺は――」
 俺の言葉を遮るようにさっきまで押し黙っていた陽向が、天照の名前を呼ぶ。その声には、さっきまでの動揺は微塵も感じられない。むしろ何かを覚悟したようにさえ聞こえる。
「天照、私は逃げも隠れもしないわ。それにさっきのことは、まさか同じ高校同じクラスに、いたなんて、そうそう無いことだから、ちょっと驚いただけよ」
「陽向がそう言うのであれば、私からはこれ以上何も言いませんわ」
 天照は陽向の言葉に、あっさりと身を引いた。陽向は一歩俺の方に近付くと、改めてと言わんばかりの表情で挨拶をする。
「天野陽向と申します。貴方の、敵です」


3


 出会ってわずか数十分で、俺はクラスメイトに敵宣言をされてしまった。何が悲しくて、同じ高校の同級生の女の子に、そんなこと言われなければならないのか。
 陽向は、黒縁メガネのフレームを右手の人差し指と親指で、摘むようにクイッと上げると、両手を自分の体の前で組んだ。キリッとした目に、ジリジリと睨みつけられると、非常に威圧感を感じる。
「ここでお互い、神衣かむいを賭けて戦い合う、それもまた一興でしょう。しかし、天照の言うことにも一理あります。それに、私は他の関係のない人間を巻き込みたくありません」
 陽向はそう言うと、教室の窓から見える大きなグラウンドを指差して、静かに提案するように言った。
「どうでしょうか? あそこなら、思う存分お互いの死力を尽くして戦い会えると思うのですが」
 別に俺に戦う意思というか、女子高生から無理やりパンツをはぎ取るなんて、鬼畜の所業を行う意思はこれっぽっちとして無い訳で。つまり、俺に端から戦う意志など毛頭無いわけなんです。そもそも、そんなことしたら犯罪です。俺は、雰囲気に流されるような人間では無い。
「陽向さん。何か勘違いしてると思うけど、俺は別に――」
「その挑戦、乗ったぁぁぁぁぁぁ!!!」
 俺の背後からけたたましく叫びながら、咲耶が俺を押しのけて陽向の前に出てきた。こいつ、やる気満々である。
 和平を申し出ようとした俺を押しのけて、咲耶は陽向へと宣戦布告したのだ。もうめちゃくちゃである。
「いいでしょう。入学式は午前で終わります。午後を告げるチャイムが鳴る前に、お互いグラウンド前に集合ということで」
「首を洗って待っててくださいよ!」
「ちょっと、何勝手に話を進めてるの!? 俺は了承してないよ! まって、陽向さん! 俺は別に陽向さんとパンツの取り合い……もとい、聖戦なんてする気は無いからね! あ、ちょっと陽向さん? 陽向さーん!」
 慌ててその場を取り繕おうとしたが、時すでに遅し。陽向と天照は完全に戦う気満々で教室を出て行った。俺は二人の背中を只見つめることしか出来ない。それもこれも、全部咲耶のせいである。
「頑張りましょうね! 御言さん!」
「頑張りましょうね、じゃねぇよ! 一体何でこんなことになったんだよ!?」
「だから、今から御言さんには神の分身として、同じく神の分身である、彼女と戦ってもらうんです! これは、神聖なる神々の戦い……そう、聖戦なのです!」
 俺と同じ境遇だと思っていた陽向は、意外とこの馬鹿げた聖戦とやらにノリノリだった。しかも、これが初めてでは無いといった口ぶりな訳だが、彼女は今から何を行うのか分かっているのだろうか? パンツを取り合うんだぞ? ズボンでも無く、スパッツでも無く、パンツだぞ? 
 いや、確かに男の俺としては、すごくこの聖戦には興味がある。
 ただ、俺は……その一時的な欲求を満たすために、高校三年間という至高にして究極の青春という時間を、棒に振りたくないんだ! もうすでに最初の時点で大きく躓いてしまったけれども、まだ、挽回できる。俺は普通に勉強して、普通に部活して、普通に恋愛する、普通の高校生になりたいんだ!
 そんな俺の悲痛な願いが叶うはずもなく、咲耶に無理やり引きずられながら、放課後、グラウンドへ連れて行かれてしまった。
「待っていましたよ」
 グラウンドに向かって歩いて行くと、陽向に声をかけられた。俺と咲耶がグランドに到着する頃には、もうすでに陽向と天照は居たようだ。他の学生が校門からゾロゾロと出て行くのを見送りながら、グランドで仁王立ちしながら待っている、ちょっと怪しげな二人組の方を見ると、シュール過ぎて少し笑いそうになった。
 今からパンツの取り合いをするんだと思うと、さらに笑いがこみ上げてくるので、何も考えないようにする。まさか高校生にもなって、見知らぬ女の子とパンツの取り合いをするとは思わなかったよ。
「神衣はちゃんと着ていますね?」
「神衣?」
 さっきから陽向が言ってる『神衣』という言葉が、何のことかさっぱりわからず、咲耶の方を見ると小声で『パンツのことです』と教えてくれた。もはや何も語るまい。無言で陽向に向かってコクリと頷くと、聖戦の火蓋は切って落とされた。
「しかし……」
 急に咲耶は難しい顔をして眉間に皺を寄せている。今更一体何が不満だというのだろう?
「天照とは……相手が少し悪いですね」
「知っているのか? 咲耶」
「はい。神にも位というものがありまして」
「ふむふむ」
「天照は神の中でも最高位に位置する程の強者……」
「ふむふむ」
「勝率は五分五分といったところですか……」
「なるほど。ところで、咲耶の神の中での位は?」
「最下位くらいでしょうかね」
「君は何を根拠に、勝率は五分五分などと抜かしやがっているわけなんですか?」
「えへへ!」
 咲耶は可愛らしく舌を出しながらごまかすように笑った。世の中の男は、その笑顔に騙されるかもしれないが、俺は騙されないぞ!
「人払いも済ませましたし、そっちから来ないのであれば、こちらから行きますわよ」
 天照はそう言うと両手に扇を持ち、大きく広げた。気が付くと何やら見たことの無い模様が、俺達とグラウンドを包み込むように、球場に取り囲んでいる。あまりにも現実離れした光景に唖然としていると、咲耶が俺の耳元で、『心配しないでください。これはただの人払いの結界です』と教えてくれた。
 ああ、なるほどね。他人から見えなくなるとか、そういう感じの例のアレね。
『天岩戸』
 天照がそう言うと、急に辺りが薄暗くなってきた。まるで夕日が時間とともに地平線に沈み辺りが暗くなるかのように、辺りは真っ暗になっていく。
 まてよ、今はまだ昼間だぞ。一体何が起こっているんだと、驚愕していると、足音だけが耳に響いて聞こえた。誰かが走って近づいてきている?
「捕まえた」
 背後から声が聞こえる。辺りは何も見えないほど真っ暗だ。しかし、俺のすぐ後ろに誰かいる、気配を感じる。間違いない。陽向は俺のすぐ後ろにいる。
 振り返る間もなく、俺は何かに躓き、転ばされ地面に仰向けに倒れた。口にグラウンドの砂が入り、じゃりじゃりして気持ち悪い。だが、そんなことを言っている場合じゃない。俺は何者かに、スカートを捲られパンツをずり降ろされそうになった。慌てて必死にそれを食い止めようと、自分のパンツを両手で握りしめる。パンツを引きずり降ろそうとしている相手が陽向だと気付くのに、それほど時間はかからなかった。
「う、うわっ!?」
「無駄な抵抗を……くっ! 貴方、中々力が強いですねっ……!」
 今まさに、俺は自分のパンツを賭けた攻防戦のまっただ中。訳も分からず、必死に自分のパンツを取られまいと抵抗する。陽向も必死にそれに応戦していた。しかし、女の子になったとはいえ、元々男だった分、純粋な力比べでは、俺の方に軍配が僅かに勝り、それが僅かな隙を生んだ。俺が抵抗して時間を稼いだおかげで、咲耶が動くことが出来たという訳だ。
『花弁之舞』
 今度は私の番と言わんばかりに、咲耶が何かを唱える。一寸先は闇の中、一陣の風が舞い上がった。一体何が起きているのか分からず、ただ自分のパンツを取られまいと必死に抵抗していると、急に陽向がうめき声を上げて、俺のパンツから手を離した。
「うっ!? なにコレ……かっ、ぺっ!?」
「陽向!? くっ……下級の神の分際で、一体何をっ!」
 闇に覆われていた辺りが、再び光を取り戻すように明るくなってくる。ようやく周りの状況が見える様になって、今自分がどういう状況に置かれているのか、少しずつ分かってきた。
 風に舞う桜の花弁が、竜巻のようにうねり、陽向の周りをグルグルと舞っていた。陽向は、顔に纏わり付く花弁を剥がそうと躍起になっている。
「わ、私だってやる時はやるんです……から……」
 そう言って咲耶は力を使い果たしたのか、パタリと地面に突っ伏した。途端に舞っていた桜の花弁は落ち着きを取り戻し、地面に舞い落ちる。
「や、やってくれたわね」
 陽向は、顔に纏わり付いていた花弁を全て剥がすと、息を荒くしながらこちらに向かってくる。
 認識を改めることにした。俺が巻き込まれた事は、自分の想像以上にヤバイことだったのだと。
 本能が全力で逃げろと警告している。迷っている暇も、考えている暇もなかった。
「う、うわぁぁぁぁぁぁ!」
 俺は立ち上がるとわき目も振らず、咲耶の方に向かって走りより、乱暴に担ぎあげて逃げ出す。今の状況で、俺に逃げる以外の選択肢は無かった。
「あっ! ちょ、ちょっと待ちなさい! どこ行く気!? 勝負はまだついてないわよ!」
 後ろから聞こえる野次を無視して、校門を走り抜ける。途中、走り過ぎる俺の方見ている女子に気が付いた。その子は、前髪が目まで深くかかっていて顔はよく見えなかったけど、口元が僅かに笑っていたのが、何故か印象的で頭に残っている。よく考えて見れば、あの時こっちを見ていたクラスメイトだったということを思い出した。何故か不気味で、俺は走っている間、後ろを振り向くことが出来なかった。


4


 火事場の馬鹿力と言う奴なんだろうか、俺は咲耶を担いだまま、ただひたすら走り抜けることが出来た。気が付くと、すでに空の上にあった日は、地平線まで傾いている。
「一体何だったんだ……あれ」
 俺は気を失っている咲耶を担ぎながら、二階建てのアパートの、二階の自分の部屋まで歩いて行く。咲耶は女の子とはいえ、気を失っている人を担ぐのは大変だ。
 ぜぇぜぇ言いながら、やっとのことで自分の部屋の前にたどり着き、右手のポケットから鍵を取り出して扉の鍵穴に差し込み、右に回す。ガチャリと無機質な音がして、鍵があいたことを確かめると、重い扉をゆっくりと引いた。
「ただいま……って、誰も居ないよな」
 俺は元々、高校生になったら一人暮らしをするつもりでいた。家族は父さんと母さんと、一つ歳の離れた弟がいる。ただ、父さんも母さんも、俺より頭が良くて、要領も良くて、愛想もいい弟の方ばかり気にしているので、俺だけ場違いな空間にいるのが、煩わしかっただけだ。
 高校生になったら一人暮らしがしたいと言うと、家族は満場一致で了承した。でもそれが俺には悔しくて、複雑な気分になった。
 このアパートから高校までの通学路には、昔良く遊んだ古びた神社がある。俺はこの神社が好きで、それが、今の高校に進学する理由の一つになっている。
 俺はまた、この神社にお参りに来たいと思っていた。小学校に進学するまで、ずっと通っていたこの神社に。ここに来れば、何かが変わるかもしれないと、そう思っていたんだ。根拠の無い自信で、唐突に決めてしまったけど、俺は後悔してない。
 ずっと昔、記憶も曖昧なほど小さい子供の頃、俺はこの神社で誰かに遊んでもらったような記憶がある。本当に朧げで、自分の妄想か何かじゃないかと思うほどに脆い記憶だけど、印象的で忘れられないんだ。でも、なぜだろう、もっと大切なことを俺は忘れている気がする。
 気を失ったままの咲耶をベットに寝かし、その横顔を少し離れた位置から椅子に座って眺めた。初め、咲耶とあの桜の樹の下で出会った時、あの頃の記憶が蘇って、俺は懐かしさを感じていた。どうしてそう思ったのかは分からないけど、それが大切なことなんだってことだけは、頭の中で理解している。でもその理由がわからず、もどかしい感覚が拭えない。
「うぅ……」
 咲耶がうめき声を上げながらよろりと起き上がった。やっと意識が戻ったらしい。
「咲耶、大丈夫か?」
「えへへ……すみません。私、気を失っちゃってたみたいで。ここは……?」
「俺の住んでるアパートだよ。多分、あの二人は撒いたと思うから、一応安心していいと思うぞ」
「もしかして、御言さんが私をここまで運んできてくれたんですか?」
 咲耶は申し訳無さそうにそう言った。俺が黙って頷くと、咲耶は『ありがとうございます』と言うと、頭をペコリと下げる。
「俺、咲耶に聞きたいことが山ほどあるんだが、取り敢えず質問していいか?」
 咲耶はまた、ペコリと頷いた。それを見計らって、俺はまずいちばん聞きたかったことを聞いてみることにした。
「咲耶や、天照とか言ってたあいつは……一体何者なんだ?」
 俺の質問に、咲耶は至極まじめにはっきりとした口調で答えた。
「私や、天照は人々が俗にいう『神様』です」
 色々言いたいことはあったが、飲みこんで次の質問をしてみる。
「聖戦ってなんだ? どうしてパンツの取り合いなんかしなくちゃいけないんだ?」
「話すと長くなるんですが……」
 俺は壁にかかった時計をチラリと見る。時刻は午後七時。
「時間はたっぷりある」
 俺がそう言うと、咲耶はゴクリと唾を飲み込み、真剣な口調で話し始めた。
「あれは今から二千年前――」
「要点だけまとめろ!」
 咲耶の話によると、神々は度々、領地や信仰を争い奪い合うらしい。信仰の強さによって神の力の大きさは変わり、領地の大きさによって神の知名度は広がる。しかし、神々が領地や信仰を奪い合うたびに、天変地異が起きていては、信仰を与えてくれる人間が減ってしまう。
「そこで神々は画期的で平和な方法を思いついたのです!」
「それがまさか……」
「そうです! 人に神衣を着せ、奪い合う。神の分身として神衣を着た人間が戦い、相手の神衣を奪い取った方が勝ち! 実にシンプルで画期的かつ、なんて平和なんでしょう!」
「なんで神衣……もとい、パンツだったんだよ。別の着るものでよかったじゃんか!」
「あらゆる着物を神々で熟考した結果、もっとも神聖な物がパンツでした」
「馬鹿じゃねーの……」
 思わず本音が漏れた。なんてくだらない理由なんだ。ん? あれちょっと待ってくれ……。腑に落ちない点がある。
「でもさ、それと俺のイチモツを切り落とす事と、何の関係があるの?」
「実は……」
 また、咲耶は申し訳無さそうな顔をして、俺の顔を見る。意味がわからず首を傾げると、咲耶は言いにくそうに目線を下に泳がせた。右手の人差指と、左手の人差し指の先を交互に合わせながらモジモジしている。何となく嫌な予感がする。
「怒らないでくださいね? 実はこの聖戦は限られた人間にしか参加できないんです」
「限られた……人間?」
「まず、神の姿が見えるには、ある程度素質のある人間でなくてはなりません。そもそも神の姿が見えず、声も聞こえないのでは話になりませんので」
「まぁ、それは何となく分かるけど……」
「本来は、神主かそれに属する方にお願いしているのですが」
「今回はたまたま咲耶の姿が見えた俺だったと」
「そう言うことです。本来、事情を知ってる人間にお願いしているので、こういう風にしっかり説明しなくても良かったのですが……」
 ああなるほど。別に陽向はノリノリだったわけではなく、最初からこういう事情を知っていたからこそ、あれほど冷静に対応出来たって訳なんだな。ああいう、真面目そうな子ほど実は、結構鬱憤が溜まってるのかもしれないと、一人で勝手な妄想をして納得していた自分が恥ずかしい。
「でもさ、それと俺のイチモツを切り落とすことと関係ないじゃん」
「うぅ……」
 再度、咲耶は申し訳無さそうな顔をして、右手の人差指と、左手の人差し指の先を交互に合わせながらモジモジし始めた。どうにもそれが、俺には何かを誤魔化そうとしているように見えて、仕方がない。咲耶はまだ何か大事なことを隠している。
「まだ、隠していることがあるんじゃないのか?」
 俺の問い詰めに、咲耶はハッとして俺の顔を見る。そして、ついに観念したのかおずおず喋り始めた。
「えぇ、実は……この聖戦に参加出来る人間は基本女性限定でして……」
「は?」
「本来は、神衣を着れるのはそれこそ、神の声を聞き、目を見る事の出来る巫女だけだったのですが……。し、仕方がなかったんです! 私みたいな弱小神は、祀ってくれた神主さんも今は亡くなり、信仰も領地も、どんどん別の神に奪われて、『奇跡』だってロクに起こせないし……そんな状況で、人探しなんて出来ず、偶然私のことが見えた御言さんにお願いするしか無かったんです……」
「お願いというか、ほとんど無理やりだったけどね」
「うぅ……すいません」
 咲耶はそう言って項垂れてしまった。俺の息子を切り取った神様なのに、流石に可哀想に思えてこれ以上何も言えない。
「本当は、戦いを避けることも出来たんですけどね」
 咲耶は項垂れたままそう言った。俺がどうしてと言う前に、咲耶は自分から語り始める。咲耶は着物の裾をギュッと握りしめ、唇を噛み締めていた。悔しそうな表情を浮かべて、今にも泣き出しそうなほど、声は張り詰めている。
「私の……領地を無条件で差し出せば、信仰だけは奪わないでやると、そういう提案でした。でも、私約束したんです。あの子と」
 そう言って咲耶はパッと顔を上げた。その顔には先程までの悔しそうな表情はなく、底抜けに明るい、まるで春の日差しに輝く満開の桜のような、眩しい笑顔があった。
「また会いに来るまで、それまでここで待ってて欲しいって。もし、私の領地を差し出せばあの子が会いに来た時、私はあの場所で待てないじゃないですか。約束なんです、絶対に私の領地は譲れません」
 咲耶は急に立ち上がり、目の前に駆け寄ってくると、俺の両手を握りしめた。細く白い指が暖かく、俺の手を包み込む。その温もりに、何故か懐かしさを感じていた。突然の咲耶の行動に何も言えず、ドギマギしていると、咲耶は懇願するように俺に向かって頭を下げてきた。
「私の勝手でこんなことに巻き込んでしまって、本当に申し訳ないと思っています。でも、どうしてもこの戦いに参加する必要があって、それには御言さんの力が必要なんです! 身勝手だとは思いますが、お願いします、私と一緒に聖戦に参加してもらえないでしょうか?」
 俺は小刻みに震えている咲耶の手を取り、握り返した。俺だって男だ。こんな美人にここまでされて、黙って引き下がれるわけがない。
「分かったよ、咲耶。ただし、やるからには絶対に勝つぞ! この街にあるパンツ、全部はぎ取る覚悟で行く。もちろん、天照にも絶対負けない!」
「はい!」


5


 一夜明け、早くも高校生になって二日目の朝を迎える。昨日、俺は咲耶に全て包み隠さず話してくれと伝えた。重要な事だ。
 まず初めに、咲耶は神が起こす『奇跡』について、俺に教えた。奇跡とは、超常的な力のことで、それぞれの神がそれぞれ特有の力を持っているらしい。昨日、天照が辺りを真っ暗にした『天岩戸』や咲耶が使った『花弁之舞』がそれだ。奇跡の力は主に、信仰によって強くなるのだとか。
 そして、『信仰』と『領地』。『領地』とは神を祀る場所。多くの領地を持っているということは、それだけ多くの人間を呼び寄せ、それに伴い多くの信仰を得る。『信仰』とは、人が神を信じ崇めること。信仰の数は神の力に直結するため、神々は自分の天界での地位や名誉を守る、はたまた手に入れるため、人を自分の分身として神の加護を与え、同格とする分身の義を行い、領地と信仰を奪い合う聖戦を繰り広げるのだ。こう聞くと、人も神も根本的な所はもしかして、変わらないんじゃないのかなんて考えてしまう。
「奇跡ってやつは、あと何回起こせる?」
「そうですね。私の力では、あの一回が限界でした。すみません、御言さん。私にもっと信仰があれば、もっと奇跡が使えたのに……」
 咲耶はそう言って、申し訳無さそうな顔をする。咲耶の領地と信仰は他の神々に奪われ続け、ほとんど残っていない状態らしい。咲耶自体、戦闘向きな能力は持っていないため、何年も前に咲耶と組んでくれた分身の巫女たちは、奮闘の甲斐なく、負け続けてしまったのだとか。今咲耶に残る領地は一つ、もう後は無い。
 咲耶は包み隠さず全てを教えてくれた。焦るあまり自分を見失ってしまった、誰でもいいから神に聖戦をふっかけ、領地と信仰を守るのに必死だった、そう咲耶は言った。
「咲耶が謝ることじゃない。それに、切り札って奴は最後の最後に使ったほうが、燃えるんだ」
 俺が励ますようにそう言うと、咲耶はすがるような顔で俺の方を見る。俺は咲耶に向かって、暗い雰囲気を吹っ飛ばすように笑った。
 実際難しいことじゃない。全国センター模試で一位になれって言ってるわけじゃないんだ。ただパンツを取り合う、本当に単純なシステム。問題はただ一つ、絶対に負けられない。領地も信仰も全て失った神がどうなるのか、咲耶は教えてくれた。それは、神にとって『死』と同義だと。人々の記憶から忘れ去られ、最初からそんなものはいなかった、そういう風になるらしい。存在を否定された神は、自らの存在を保てず消える。
 そうはさせない。俺は咲耶と約束した、絶対負けないと。
 あれから、いろいろ考えた。自分なりに相当考えた。今まで生きてきた人生の中で、これほど頭を動かした事は無いだろう。考えすぎて、今、自分が女の子になっていることをすっかり忘れてしまったほどだ。具体的にいうと、トイレの仕方を何度か間違えてしまった。次からは、トイレに入ったらまず便座に座ることを意識することにする。



「ここに戻ってくるなんて、その度胸だけは認めてあげるわ。きっと貴方には恥も外聞もないのでしょうね」
 ドキドキしながら登校すると、いきなり陽向からの随分挑発的な先制パンチを貰った。俺の精神はノックアウト寸前! このまま聖戦へともつれ込むかと思いきや、授業中は至って真面目。陽向が良識的な人間でよかったと、思わず安堵してしまう。そもそも、陽向の家って確か、由緒正しき神主さんの家系って噂では聞いたことあるけど、まさか本当だったなんてな。神が隣に寄り添っている時点で、そういう関係の人だなって、咲耶からの話を聞いて分かったけどさ。普通の人に神は見えないし、俺に至っては、特殊な状況で例外中の例外だもんな。
 しかし、これは好都合。陽向がこちらをなめてくれているのなら、その隙を突いて勝利を勝ち取ることが出来る。俺には出来る、何故なら俺は陽向とは違う一般の人間で、一般の男子高校生だということだ。陽向に予想も出来ないことが、俺には出来る!
 教室の窓から淡い西日が差すと、いよいよといった面持ちで、陽向がこちらに近づいてくる。
「今度は逃しませんよ」
 陽向は俺の目の前まで来ると、強い口調で睨むようにそう言った。あまりの気迫に、背中が汗でびっしょりと濡れる。思わずゴクリと唾を飲み込んだ。天照も同じようにこちらを睨んでいる。昨日は陽向の隙をついて、とっさに逃げることが出来たけど、二度目は無いと突き付けられるような気迫だ。
「逃げるつもりは……無い」
「そうですか。安心しましたよ。それでは、昨日の聖戦の続きをあの場所で――」
 陽向が言い終わる前に、俺は仕掛けた。咄嗟に立ち上がり、陽向の目の前まで接近する。完全に不意を突かれた形になり、陽向はよろけてそのまま倒れこむ。予期していないことが起こり、焦ったのか、陽向は驚愕の表情を浮かべた。
 俺は陽向に覆いかぶさるように飛びつこうとした。しかし、急に何かに視界を奪われる。その勢いのまま俺は教室の床に、倒れこんだ。
 天照だ、天照に一瞬だけ俺の視界を奪われた。そう考えるのが自然だろう。やっぱり、そうそう簡単には取らせてもらえないという訳か。
「ま、待ちなさい! また逃げる気!?」
 俺はすぐに立ち上がると隣りにいた咲耶の手を引っ張り、逃げるように教室から飛び出した。
「逃げるぞ、咲耶!」
「で、でも……!」
「大丈夫だ! ただ、もう相手の土俵で相撲は取らない。今度はあいつらに、こっちの土俵に上がってもらう」
 ヤケになって、陽向を襲ったわけでも、怖気づいて逃げ出したわけでもない。ただ、またあのグラウンドで戦えば、昨日と同じようなことになる。そうなったら、またこっちが守る側だ。陽向だって考えてきているだろう、力ずくで神衣を取られまいとする俺に何か仕掛けてくるかもしれない。
 だったら、今度はこっちだって仕掛けさせてもらうのさ。
 人気の無い三階、南側の廊下。そこには三年生の教室があるけれど、もうすでに上級生たちの姿は無かった。けれど、この状況は俺たちにとって好都合。これで誰かを巻き込む危険性は、大分減ったはず。
 右手には、教室から出る前にドサクサに紛れて自分の鞄から抜き取った水筒を構えている。これこそが、俺の秘策。俺達とあいつらの立場を大きく変える、切り札だ。


6


「はぁ、はぁ……。やっと追い詰めたわよ」
 俺と咲耶は廊下の突き当りに立ち、陽向と天照は反対側からにじり寄ってくる。逃げ場はない。背水の陣で、俺達は目の前の敵を迎え撃つことになる。右手には水筒を隠し持って背中に隠し、完全にもう後がないという態度で少しずつ後ずさる。
 陽向たちは悠然と、少しずつこちらに向かって歩いてきた。袋のネズミをどう料理してやろうかというような、微笑を浮かべている。自分たちが追い詰めている、完全にそう思っている。
 俺達と陽向の距離は、もう一メートルも開いていない。仕掛けるなら、今しか無い! 予め、蓋を緩めておいた水筒を、陽向の足元目掛けて振りかぶる。蓋は遠心力で勢い良く飛び、中から液体が陽向に向かって襲いかかった。蓋は壁にぶつかり、プラスチックの軽い音が廊下に鳴り響く。液体は床に扇状に飛び散った。少し、陽向の靴とスカートにも掛かっている。
「きゃっ! 一体どういうつもり!?」
「陽向、ここは一旦下がり――」
 天照はそう言いかけて、突如口をつぐんだ。足元の何かに足を引っ掛けられたかのように、後ろに下がろうとした彼女は、足を滑らせて転けたのだ。
「え? 天照――」
 陽向も、天照の姿を確認しようと振り返り、同じように足を滑らせた。二人は何が起きたのか分からず、しばらく呆けている。
 俺が撒いたのは、洗剤だ。液体洗剤を水筒に入れて、ここまで持ち込んできたんだ。学校の教室、また廊下はツルツルしていて、硬い。硬い床に、水とかヌルヌルの洗剤を撒いたら、そりゃ立っていられないわけだ。
 俺はスニーカーを脱ぎ捨て、靴下も脱いだ。裸足だけになり背中を屈め、四つん這いになり廊下の突き当りの壁に足をかけて蹴りながら、洗剤まみれの廊下を一直線に滑った。中学生の頃、よくやった遊びだ。洗剤でヌルヌルの廊下は、摩擦が少ない。だから、氷の上を滑るように壁に足をかけて滑ることが出来る。
「貰ったぁぁぁぁぁぁ!!!」
 俺と陽向の差は一気に縮まる。陽向は俺から逃げようと必死に足掻くが、体が滑って思うように体を動かせないようだ。天照も同様で、その場でジタバタしている。天照が奇跡を使おうと動いた時にはもうすでに、俺は陽向のスカートの中に手を掛けていた。
「これで、チェックメイトだぁぁぁぁぁぁ!」
 完全にパンツの両脇を捉え、ガッチリと両手で掴んでいる。陽向はそれに抵抗するように体をよじらせパンツを死守しようとしたが、かえって体中に洗剤が広がって余計動けなくなる。俺は勢いのまま陽向のパンツを引き下ろそうと両手に力を入れた。
 その時、ふと背後に人の気配を感じて動きが止まる。咲耶か? そう思った瞬間、何かがおかしいことに気付く。
 咲耶が背後で叫んだ。しかし、振り返ることすら出来ない。一体俺に何が起きてるんだ?
 背後に咲耶以外に誰かいる。いや俺達の周りには、他に誰も居なかったはずだ! しかし、それが事実であると、俺は陽向の口から聞かされることになった。
「遅いわよ。危うくもう少しで、私の神衣がこんな卑怯者に奪われるところだったじゃない」
「ご……ごめんね、お……お姉ちゃん」
 俺の背後で女性の声が聞こえた。相変わらず体は眉一つ動かせないが、誰が背後にいることは確実に分かった。しかし、今の状況ではどうしようもない。
 辛うじて動かせる眼球を目一杯横に動かすと、その顔を何とか見る事が出来た。艶やかな黒髪は背中にかかるまで長く、前髪が顔に若干かかっている。陽向とは正反対ともいえる容姿だが、目元はそっくりで確かに姉妹なんだなと納得できた。
 そして、もう一つ分かったことがある。こいつは昨日、俺のことを見ていたあのクラスメイトだ。そう、一年四組の教室や、俺が昨日陽向たちから逃げるときに、校門ですれ違う俺のことを見ていた、あの女子だったんだ。最初から陽向は仕組んでいた。俺はまんまとその罠にかかったというわけだ。どういう状況でも、相手に勝つために罠をかけていた向こうが、上だった。でも、俺には悔しさに唇を噛みしめることすら出来ない。それが惨めで仕方がない。
「残念だったわね」
 陽向はそう言って自分のパンツから、俺の手を引き剥がすと、ゆっくり俺から離れていった。そして、洗剤で床が濡れていない所までくると、靴と靴下を脱ぐ。ベタベタに汚れた制服が気持ち悪いのか、苦々しい顔をしている。そして、まだ転んだままで動けない天照の両手を掴み、強引に自分の所まで引っ張ってくると、ようやく安堵したような顔をして、ため息をついた。
「ただの馬鹿だと思っていたけど……違ったわ。貴方は大馬鹿者よ」
 陽向は俺のことを見下すようにそう言った。もう少しで、後ほんのもうちょっとで、俺たちはこの聖戦に勝つことが出来た。一体何が起きたのか、それは多分、俺の後ろにいる奴のせいなんだろうけど、ああ! 腹が立って仕方がない。それと同時に、自分の神衣が奪われる恐怖を感じる。今の俺はまさに、絶体絶命の状況だ。
「貴方の敗因は、私たちが一組だけでこの聖戦に挑んでいると勘違いしたこと。貴方は気が付かなかったようだけど、私たちはツーマンセルだったのよ」
 そう言った陽向はまるで、事務的に指示を出した。
月見つきみ、そいつから神衣を奪いなさい。月詠の『影法師』で動きを封じながらね。『影』は天照の『日輪』で貴方の動きに合わせて動かすわ」
「う、うん……。フヒヒ……ありがとうお姉ちゃん」
「ただそっちには、ベタベタして滑る液体がバラ撒かれてるわ。気をつけなさい。本当に、小賢しい真似をしてくれたこと」 
 月見は、俺の背後でゴソゴソと靴を脱ぎ、靴下も脱いだ。そして、ゆっくりゆっくり確かめるようにこちらに近づいてくる。俺はそれに抵抗することが出来ず、ただ、その場で待っているしか無い。俺の神衣を奪われる瞬間を。
 何も出来ない自分が歯がゆい。絶対に負けないって、咲耶と誓ったのに!
 俺だって誰かの役に立ちたかったんだ。家族から必要とされなかった俺が、初めて貴方の助けが必要ですって言われて、必死に頑張ったんだ。それなのに……!
「私はね、たとえ貴方のようなみすぼらしい人間や、力の弱い神にだって手加減してあげることは出来ないの。由緒正しき、天野家の長女として……絶対に負けてはならないのよ。貴方とは、背負っているものが違うの、最初から」
 陽向は淡々と俺に向かって言った。天照は『日輪』を唱え、辺りをまばゆい光で照らす。光は天照を中心に放たれ、光に照らされた俺の背後を、影が一直線に伸びている。その影に合わせて、月見が近づいてきた。
 そして、月見が俺のパンツに手を掛ける。最後の悪あがきも、命乞いも、眉さえ動かせない状態では出来ない。
 悔しさの涙が頬を伝う。しかし、陽向の表情は変わらない。日輪に照らされ、後光が指しているように見える陽向の顔は、それに反して鉛のように冷たく、無表情だった。
「私と妹の神の奇跡は、表裏一体。貴方の動きを縛る『影法師』は、影を踏んだ相手の動きを一切封じ、『日輪』は光を生み、全ての存在に影を与える。そして、私たちは二人組みで、協力関係であり、血の繋がった姉妹。はじめから貴方に勝ち目は無かったのよ」
 一言も反論することも出来ず、俺は敗北した。
 神衣を降ろされ、月見に奪われる。俺は、大切な神衣を奪われてしまった。
 急に体の力が抜け、仰向けに倒れる。虚無感と、喪失感に襲われながら、辛うじて顔を横に動かし、咲耶の姿を見る事が出来た。咲耶は膝から崩れ落ち、息も絶え絶えに横に倒れこむ。
 存在を否定された神は、自らの存在を保てず消える、つまり神衣を奪われた咲耶の存在は消え、いずれ人々の記憶からも完全に無くなる。
 消えていく咲耶は、最後の力を振り絞るように体を動かし俺の方を見た。俺は、咲耶の顔をから目を背けようとした。約束も守れず、大事な神衣は奪われてしまった。全部俺のせいだ。どんな言葉で取り繕っても、俺のせいで咲耶が消えることに、変わりはない。咲耶はきっと、俺のことを嘘つきだと思っているだろう。恨まれるかもしれない。それが、怖くてたまらなくて仕方がない。
 でも咲耶は、そんな俺を罵倒するわけでもなく、憎しみのこもった目で睨みつけるわけでもなく、ただ俺の目を見て、また申し訳そうな顔をして微笑みながら、『ありがとう』と言った。もはや、声すら出せないほど弱っていたのに、俺に向かって呼びかけるように、そう言ったんだ。
 俺の目から涙が溢れる。悔しさとは違う、別の意味の涙。薄れていく咲耶という存在。俺の記憶の中の咲耶も、目の前で消えていく咲耶と同様に薄れ、消えていった。


7


 いつの間にか忘れてしまった、幼い日の記憶が入れ替わるように蘇る。今から数十年前、俺は惹かれるように、物心ついた時からあの神社へ訪れ、いつもここにいて、綺麗な着物を着たお姉ちゃんに会っていた。
 俺は着物のお姉ちゃんのことが大好きで、俺よりも弟の方に関心のあった両親や、両親に気に入られることばかり気にしている弟が嫌で、家を飛び出した時、たまたま立ち寄ったこの神社で初めてお姉ちゃんに会ってからずっと、事あるごとにここに訪れていた。ここに来れば、必ずまたあの着物のお姉ちゃんに会える。それが俺にとって嬉しかった。
 お姉ちゃんは優しくて、暖かかった。白く美しい肌を彩るように、頬は仄かに桜色で、それと対照的に黒く輝く長髪が綺麗で、美しかった。
 お姉ちゃんは、この桜の精霊だと俺に言った。この寂れた神社と対象的に、凛と美しく、華やかに色付く桜の木は厳かな雰囲気さえ醸し出している。この大きな桜の木は、代々この神社のご神木として祀られているんだと、お姉ちゃんが教えてくれた。俺はまだ子供で、その意味をあまり理解できなかったけど、お姉ちゃんがこの桜の精霊だというのは、不思議と納得出来た。
「どうして、みーくんはいつも一人なの?」
「とうちゃんとかあちゃんは、おれのことなんて、きょうみないんだ。いつもおとうとばっかり。だから、おれは、さいしょからひとりぼっちなんだ」
「そうなんだ。それじゃ、みーくんは私と一緒だね」
「どうして?」
「私も一人ぼっちだから」
「おねえちゃんも、ひとりぼっちなの?」
「そうよ。でも、もう一人ぼっちじゃないの」
「もうひとりぼっちじゃないの?」
「ええ。私とみーくんで、二人ぼっち。二人なら、少しは寂しくないでしょ?」
「うん!」
 お姉ちゃんは本当に優しくて、そんなお姉ちゃんが俺は大好きだった。
「もうすぐここは、無くなっちゃうの」
 お姉ちゃんは、寂しそうな顔をしながらそう言った。神主の居ない、この古びた神社は近々取り壊され、ここにはコンビニが建てられるんだと、お姉ちゃんはそう俺に教えてくれた。
 俺はここが無くなるのが嫌で、駄々をこねるように、『嫌だ!』と言った。お姉ちゃんは困ったような顔をしていたけど、それでもどこか嬉しそうだった。
「どうしたらいいの?」
「どうしたらって?」
「おれ、ずっとおねえちゃんといたい! だから、ずっとここがなくならないでほしいんだ!」
 お姉ちゃんは、『そっか』と言って微笑みながら俺の頭を撫でてくれた。お姉ちゃんの手は、細くて柔らかくて、それでいて、とても暖かくて何だか不思議な気分になった。お姉ちゃんは『う~ん』と言いながら、何か考えこむように首をひねる。そして、『そうだ!』と言って、なにか思いついたように手を叩くと、俺に向かってニコニコと笑いながら、冗談交じりにこう言った。
「みーくんが、ここにお参りに来てくれたら、取り壊すのやめてもらえるかもしれないね」
「おまいりって?」
 お姉ちゃんは、神社のお参りのことについて、子供の俺に分かりやすく教えてくれた。御手洗のこと、鈴を鳴らすこと、二礼二拍一礼のこと。それから俺は毎日、この神社にお参りにやってきた。この神社が壊されないように、そしてお姉ちゃんとまた会うために。
「指きりげんまん、嘘ついたら」
「はりせんぼんのーます!」
『ゆびきった!』
「やくそく、ぜったいだよ! おれもぜったい、やくそくまもるから! おねえちゃんに、またあいにくるよ!」
「私も、絶対約束守るから。ここで、みーくんが来るの、ずっと待ってるからね」
 俺は生まれ育ったこの町から、小学校に入学するために明日、別の遠い町に引っ越す予定だった。だから、いつも遊びに来ていたこの神社のお姉ちゃんに、別れの挨拶をするためにやってきた。
 不思議な事に、俺がこの神社にお参りに来るようになってから、寂れていた神社が少し明るく、綺麗になってきた気がする。それに、取り壊してコンビニを建てる計画も、いつの間に無くなっていた。
 全てが偶然だと説明するには、矛盾があるような気がする。でも、俺がお参りに来たからという理由も、何か違う気がした。子供心に、この優しいお姉ちゃんがきっと何かしてくれたんだと、思っていた。
 ここで待ってる、そう言ってくれたお姉ちゃんとの約束を俺はいつしか、この怠惰で無機質な生活の中で忘れてしまった。お姉ちゃんの顔も、お姉ちゃんの名前も。
「咲耶……姉ちゃん」
 今更なのかもしれない。それでも俺は、約束を思い出した。お姉ちゃんはずっと、俺との約束を守るためにここにいて、ずっと戦っていたんだ。だから、今度は俺が約束を守る番だ。こんなところで床に突っ伏して、泣いている場合じゃない。俺が立ち上がらなきゃ、俺の大切な人を二度と忘れる訳にはいかないんだ!
 咲耶の存在が薄くなっていくにつれ、体も徐々に男に戻っていく。もうほとんど、俺は元の体に戻っていた。咲耶が消える前に、俺に出来ることなんてあるのかなんて、自問自答しながら、それでも俺には考えている暇なんてほとんど無いから、迷う前に体が動いた。
「え……、ちょ、ちょっとまって貴方! お、お、おとこ!?」
「お……女じゃなくて、お……男だった。フヒヒ……」
 目の前で突然男に変わった俺を見て、陽向と月見、そして天照も驚愕の表情を浮かべている。月見の隣にいる月詠の顔を見ようとしたが、顔は青い布で覆われていて表情は見えない。天照とは対照的に、青色と黒色の布の着物を着ていて、若干猫背に見える。
「うおぁぁぁぁぁぁぁ!」
 俺は獣のように叫んだ。そして、洗剤でベトベトに汚れた制服を脱ぎ捨て、仁王立ちになる。
 覚悟を決めた。どうなってもいい、だから俺の大切な人を全力で守るために、全てを捨てる覚悟を決めたんだ!
 その様子を見ていた、陽向と月見、そして天照は慌てて両手で顔を隠した。月詠も最初は無反応だったが、俺が真っ裸になると、他の三人と同じように布で隠れた顔を両手で隠した。というか、こいつは見えてるのか見えてないのかどっちなんだ。
「な、何とかしなさい月見! あいつの動きを止めなさいよ!」
「む……無理。見れないもん」
「あ、天照! 何とかして!」
「わ、わたしは人間の殿方のことはさっぱりわかりません! 直視出来ません! 無理ですわ」
「つ、月詠!」
「……」
「貴方、顔が布で隠れてるんだから、なんとかしなさいよぉぉぉ! ていうか、喋りなさいよぉぉぉ!」
 パニックになって押し合いへし合いの大混乱だ。どうやら、こいつらは男になった俺の裸を直視できないらしい。思春期の乙女だもんな! 当たり前だよな!
「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
 俺は真っ裸のまま、雄叫びを上げつつ日向の方に向かって、廊下を滑った。陽向は裸の男が、自分に向かって全速力で向かってくるのに驚いて、腰を抜かしてしまっている。俺は勢いに任せ、陽向のパンツを強引に掴む。洗剤のおかげで滑りやすくなっていたので、すんなりと陽向から神衣を奪い取ることが出来た
「い、いやぁぁぁ! だ、だめぇぇぇ!!!」
「陽向さんしっかりしてぇ!」
「ウォォォォォォ!」
 俺は陽向から神衣を奪い取り、雄叫びを上げる。陽向を心配しつつも、恥ずかしくてこっちを見られない天照と、顔を真赤にして涙目になりながら絶叫する陽向に、少し罪の意識を感じながらも、次に反対側にいる月見と月詠の方に顔を向ける。
 月見と月詠は、廊下の窓から指す夕日によって出来た影に向かって、潜り込もうとしていた。
 あいつ、そんなこと出来るのかよ。だから、俺たちに気付かずに背後に回ることが出来たのは、影の中を移動していたからなのか。それはちょっとずるいだろ。
 半分影の中に入りかけた月見に向かって、俺は更にスピードが出るように体を仰向けに一直線にして、廊下を滑る。空気抵抗と摩擦を極限まで減らす、最速のフォルムだ。だが、俺のある部分に体重が集中するため、ダメージは計り知れない。しかし、今の俺に怖いものなんて無かった。最悪、取れちゃっても俺には女の子の経験もあるし。
「ぐおぉぉぉぉぉぉ!!!」
「フヒィィィィィィ!」
 高速で近づいてくる俺を見て、月見は見てはいけない物を見るような顔をして叫んだ。そのまま恐怖で硬直している月見を捕まえ、影の中から引っ張り出す。そして、怯えて涙目になっている月見からパンツを奪い取る。月見は抵抗すらしなかった。
「ウォォォォォォ!」
「フヒィィィィィィ!」
 俺がまた雄叫びを上げると、月見は一緒に涙目になって叫んだ。そして、俺の背後から走って逃げていく。月詠もそれにイソイソと付いて行った。
 俺の神衣と、陽向の神衣、そして月見の神衣の三つの神衣を握りしめ、天高く腕を上げた。俺は勝ったんだ。今の自分は、真っ裸で女の子のパンツを握りしていて、はたから見れば間違いなく変質者なんだけれどそんなこと、今の俺にとってはどうでも良かった。
 約束を守った。俺は咲耶を守ったんだ。これでやっと、ちゃんと咲耶に話が出来る。
「お……覚えてなさいよぉ……!」
「フヒヒ……フヒィィィィィィ!」
「と、殿方のイチモツを見てしまうなんて……なんて不浄なのぉぉぉぉぉぉ!」
「……///」
 神衣を失った陽向たちが、捨て台詞を吐いて逃げていく。俺はただ、その後姿を勝者の余裕で見送った。そして、俺は笑顔で咲耶の方へ振り返る。
 しかし、そこに確かにそこにいたはずの人影は見当たらなく無機質な廊下しか見えず、俺が本当に見たいものが見えない。そこには、最初から誰もいなかったかのような異様な静けさが、俺の鼓動を早めていく。
「咲耶?」
 返事は無い。ゆっくり、咲耶がさっきまで居た場所まで駆け寄る。床に触れると、ほんのりと手のひらに伝わってくる温もりだけが、確かにここに咲耶が居たんだと、俺に伝えてくる。
「勝ったんだ。約束通り陽向に勝ったんだよ」
 返事は聞こえない。
 俺は、家族に見放されて、一人ぼっちで辛くて、唯一咲耶が俺のことを理解してくれて、本当に嬉しかった。ずっとずっと、恩返しがしたかった。姉ちゃんはいつも俺を励ましてくれて、慰めてくれて、時には叱ってくれもした。二人なら寂しくないって言ってくれて、本当に嬉しかった。
 約束を守りたかった。ありとがとうって言いたかった……ただ、それだけなのに。
「咲耶……咲耶姉ちゃん。今まで待たせてごめん――」
 その時、声が聞こえた。たしかに俺の耳に。慌ててあたりを見回すも、どこにも人の姿は見えない。声だけが聞こえる。
「咲耶!? どこにいるんだ? 生きてるのか? 消えたんじゃないのか?」
「みーくんのおかげで私、ここにいるよ。でも、残念だけどこの世界には居られなくなっちゃった。だから、今は声だけ。それも、あまり長くは持たないの」
「咲耶姉ちゃんごめんよ! 俺、ずっと忘れてた……気付きもしなかった。咲耶姉ちゃんはずっと、俺との約束を守ってくれたのに」
「ううん。私こそ、みーくんのこと気づいてあげられなくて、ごめんね? だから、お互い様だよ」
 そう励ましてくれた声は、あの頃と全く変わらない、綺麗で優しくて、懐かしい。咲耶姉ちゃんはあの頃から変わらずに、優しかった。もっと早く気付いていれば、もっと俺に出来たことがあるんじゃないのか。俺が諦めずにずっとあの神社に通い続けていれば、今とは違う結果になったんじゃないのか。
 そんな可能性ばかり考えて、俺の頭はごめんなさいばっかりで、うまく言葉が出てこなかった。ただ、溢れ出る涙が、言葉の代わりに俺の心情を表すように流れ続けている。
「また、会えるかな?」
「いつでも会えるよ。だって、みーくんと私は、二人ぼっち、でしょ?」
「うん。俺と姉ちゃんは、二人ぼっち、だ」
 返事は無かった。けど、心は繋がってる。そう思えた。咲耶姉ちゃんとの思い出は、奇妙で、バカバカしくて、でも温かくて、俺にとって凄く大切なもので、きっとこれから先もずっとかけがえの無いものになっていくんだろう。



「咲耶姉ちゃん。お参りに来たよ」
 咲耶が消えてから丁度一週間が経った。俺は、大きな桜が目印の、あの寂れた神社に来ている。
 あれから、俺は無事に帰ることが出来た。たまたま教室に忘れたままだったジャージがあったので、それを着て帰ることが出来たんだ。自分の教室まで戻るのに、随分と冷々としたけど、幸いな事に誰かに見られることはなかった。実は約四名に、俺の全てを見られちゃったけどね。
 陽向と月見は、あんなことがあったのに次の日には普通に登校してるし、まだ俺には神の姿が見えるみたいで、天照は俺のことを睨んでくるし、月詠は顔をこっちにずっと向けてるのでちょっと怖い。たまに陽向にも睨みつけられる。月見は……何故か、俺を見ながらニヤニヤ笑ってるので、やっぱりちょっと不気味だ。
 俺はこの神社に度々訪れて、お参りするついでに学校であったことを報告している。何だかここに来ると、いつでも咲耶姉ちゃんに会える気がして、こうして今日あったくだらないことを話していると、あの頃にまた戻ったような気分になるんだ。
「今日は、またあの二人に会ってさ――」
 そう言いかけて、ふと誰かの足音に気付く。ここに参拝に来ているのは、いつも俺だけしかいないので不思議に思って振り返った。足音の主は、やっぱりあの二人だった。
「噂をすれば……って奴か?」
 俺が苦笑いを浮かべながらそう言うと、陽向は顔を真赤にしながらこっちを睨んだ。背後には、隠れるように月見が顔を覗かせている。まさかとは思うけど、また私達と聖戦しろ! なんていうんじゃないだろうな? 
 そう思って警戒してると、陽向が口をモゴモゴさせ始める。何事かと思っていると、陽向は言いにくそうに小声で言った。
「ぱ……パンツ……」
「え? 何?」
 よく聞き取れなかったので聞き返してみる。すると、赤かった顔が更に赤くなって、まるでさくらんぼみたいになった。半分泣きながら、半分怒っているような、奇妙な表情をしながら半ばやけに俺に言い放っつ。
「いい加減に、私のパンツ返しなさいよぉぉぉぉぉぉぉ!」
「え? あれって返さなきゃダメなの?」
「当たり前じゃない! 聖戦が終わったら、お互いの神衣は返すのが当然なのよ! っていうか、男のあんたが持ってたってしょうがないでしょ!? いい加減に返しなさいよ変態! へんたいへんたいへんたい!」
「あ、つ……ついでに、私のパンツも、よ……よろしくお願いします」
  陽向は今にも泣きそうな勢いだ。その後ろで、月見はしれっと自分のパンツを要求してくる。月見って意外としたたかな奴なのか? それにしても、このまますぐ返すのも味気ないしな……どうしようか。
 そんなことを考えていると、陽向が本気で泣き出しそうだし、ここのままでは警察まで呼ばれちゃいそうだったから、俺はおとなしくパンツ……もとい神衣を返してあげることにした。もちろん条件付きで。
「いいよ。その代わり条件があるんだけど」
 困惑した表情の陽向に向かって、精一杯の笑顔で言った。
「俺と友達になってください」
 ひらひらと舞い散る桜は、まるで波のように揺れている。そんな桜を見るたびに、どこかで咲耶が俺の応援しているような気がして、そのたびに俺は咲耶と過ごした日々を思い出すんだ。
キーゼルバッハ 

2016年04月11日(月)21時47分 公開
■この作品の著作権はキーゼルバッハさんにあります。無断転載は禁止です。

■作者からのメッセージ
テーマ:春と高校生と神様

ジャンル:コメディ

 この度は、2016年GW企画開催、誠にありがとう御座います!
 企画主催のクミン様には、企画を立ち上げてくださり、お礼申し上げます。
 久しぶりにコメディを書いてみるということで、色々と手探りではありましたが、
何とか最後まで書くことが出来ました。もしかしたら、コメディらしくないところも
あるかもしれません。
 そこは、何卒ご容赦くださいますよう、よろしくお願い致します。

2016年06月04日(土)15時02分 ミチル
読了報告ー。
楽しませてもらいました♪
 

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2016年04月27日(水)23時50分 99kg20点
主人公の外見についての描写がないので、どうなったのかがイマイチ分からず、
印象では見た目はほとんどそのままで、モノが無くなっただけ。
でも相手も男だとは気付かないので元々中性的な外見なんでしょうか。

結局パンツを取り合う、という行為に深い意味が感じられない。
正直パンツだしときゃいいんだろ臭がしてしまって、シリアスな部分が引き立たない。
それならギャグに徹してもっとぶっ飛んでくれた方が普通にギャグの一つとして受け入れられる。

男のまま異例の参加、で相手は歴戦ながら男を脱がす事に躊躇して互角に戦える、
という展開の方がしっくりきたでしょうか。

 

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2016年04月27日(水)21時19分 つとむュー
GW企画の執筆、お疲れ様でした。
御作を拝読いたしましたので、感想を記したいと思います。

パンツを取り合う話でした。

>「要点だけまとめてくれ!」
>無理もない、そこには『男だった』俺の写真があるんだろう。だが、今ここにいるのは『女の子』になった俺だからな!

所々、笑わせていただきました。
面白かったです。


>俺以外に仲間がいたと、俺は一人じゃなかったんだ! と感動さえしていた。

この一文で、陽向もイチモツを切り取られた仲間だと、
ずっと勘違いしておりました。

>俺には出来る、何故なら俺は陽向とは違う一般の人間で、一般の男子高校生だということだ。

陽向は実は女の子だったことが判明したのは、終盤に差し掛かる頃でした。
(読解力が無くて申し訳ありません)
こんな読者のためにも、イチモツを切り取られることと、パンツを取り合うことを、
分けて説明してもらえたら誤解が少なくなるのでは、と感じました。


>「え……、ちょ、ちょっとまって貴方! お、お、おとこ!?」
>どうやら、こいつらは男になった俺の裸を直視できないらしい。

男の裸を直視できない、というところは面白かったです。
が、女の子同士だからパンツを取り合っても笑って見てられる、という部分がちょっとあったので、
男になったら女の子のパンツを取ったらダメだろ? と冷めてしまいました。
というか、主人公がパンツを取られたところで負けなんじゃないの? とか、
何で切り取られたイチモツが元に戻っちゃったんだ? とか、
頭がハテナマークで一杯になってしまって(これも、こちらの読解力不足が原因と思いますが)、
ラストはあまり楽しめませんでした。申し訳ありません。


枚数は、ルールが50枚までのところ68枚でした。
これは、ルールをあまり強く意識されていなかったためか、
もしくは立てられたプロットが50枚以内に収まるものではなかったのか、
どちらかだと個人的には思います。
真相がどちらかなのかは判断できませんので、大変申し訳ありませんが、
今回は点数無しでご了承いただけましたら幸いです。

いろいろと書いてしまいましたが、パンツを取り合うバトルが熱い作品でした。
拙い感想で申し訳ありません。
今後のご活躍を期待しています。
 

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2016年04月26日(火)00時07分 いりえミト30点
 『☆パンツ聖戦☆』拝読しました。


 面白かったですねー。
 おバカなコメディ作品なんですが、そんな内容に文体がよく合っていたと思います。
 テンポよく読める軽快な一人称で、読み進めるだけでも楽しい文章でした。
 特に気に入った一文は「女性がスカートの下に履いているとまことしやかに囁かれている、あのパンツだ。」でした。まことしやかじゃねえよwww

 ストーリーとしては、神同士の争いがパンツの奪い合いによってなされるという設定が非常に(いい意味で)バカバカしく、笑えました。
 後半にちょっとしんみるするシーンがあることも含めて、実にラノベらしい内容だったと思います。

 御言、咲耶、陽向、天照、月見の各キャラも、特に目新しい感じこそありませんでしたが、それぞれに個性があり、しっかり描けていたように思います。

 話の進め方が強引に感じる部分もあったのですが、(イチモツを切ったら女の子になっちゃうところとか、自分の神衣を奪われたあとに反撃するのはアリなのか?とか)まあコメディですので個人的には細かい部分はあまり気にしませんでした。

 全体としてレベルが高く、作者さんの力量の高さがうかがえる作品だったと思います。


 短いですが、以上です。
 執筆おつかれさまでした。

 

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2016年04月24日(日)13時41分 兵藤晴佳20点
 明らかに、やってることはただのセクハラですよね、この話。
 これに勿体つけてムキになれる登場人物のバカバカしいこと。
 しかし、この話を支えているのは少年の記憶の中にある年上の女性の面影と、それに対する思慕の感情です。これがなかったら、こんなに生臭くてご都合主義に満ちた作品はありません。
 
 ナニがないというネタは桂枝雀がカフカ『変身』を元に書いた落語芝居にもありますが、致命的な問題です。グレゴール・ザムザが一匹の巨大な毒虫になってしまうのと同じくらい。それを忘れて……男にとっては全存在を賭けた戦いでなければならないはずなんですが、その可笑しみがない。それがあってこそ、オチが生きてくると思うんですが。

 対決の論理も今一つでした。
 最初の対決に「あてが外れた」という要素がなければ、後半の「実は」が生きてきません。
 逆転の構図についても、 相手を引きずり込む「自分の土俵」はもうひとひねりだったかと思います。
 吸血鬼に十字架、河童に法力、魔女に法律(あるいは警察)。
 主人公は男なのですから、「男なら平気だが女にはちょっときつい」勝負が準備できなかったかと思います。

 しかし、木花咲耶姫といえば、日本神話を代表する、命はかなく誇り高いヒロイン。
 それが短い枚数の中で垣間見られて楽しい作品だったと思います。
 

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2016年04月23日(土)23時27分 たぬき nY39lNOBNk10点
女性下着を取り合うという設定が変態的で、ちょっと期待させてくれる戦闘でした。ちょっとしたスタンドバトルみたいな。
いつか男性に戻るだろうと思っていたら、予想を裏切らないお下劣バトルで少し好感を持ちます。(月見が実はむっつりスケベだったんじゃないかと勘ぐれるような表現は、個人的に好きでした。フヒヒと笑うのも良いですが、ちょっと複数回続くとくどかったかも)

性転換という題材を生かしたシーンが少なかったのはもったいない気がします。それと咲耶がもっとあざとく攻める方が、らしいというか。キリバサミで迫ったときの勢いをそのままに。

序盤、女になって授業に出るあたり、退屈な印象を持ってしまったので、その辺をコメディと織り交ぜて楽しく状況説明してもよかったかもしれません。(性転換で困る様子を見せるのに、あえてモブ男子、女子と絡ませるなど)
主人公が結構すんなり女に馴染んでいるよりも、抵抗感バリバリで恥ずかしそうにしている方がグッときます。

割合的に、戦闘がメインのようでしたが、文字数制限がありますし、敵キャラを多く出せないのが難点なのかもしれません。なんと言っても神様バトルロイヤル。であるならば、まだまだ沢山出てきそうですね。

オチにつなげる為、なのかはわかりませんが、咲耶が犠牲になったのはちょっともったいない気もしました。(正ヒロイン的な位置づけだったので)
このオチならば陽向とはもっと接点を作ったほうがいい気がします。
 

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2016年04月23日(土)23時16分 たかセカンド10点
こんばんは。
「☆パンツ聖戦☆」を読ませていただきました。

感想に関しまして私が思ったことを書かせていただきました。
納得のいく所だけ抜き出し、今後の執筆の糧にしていただけましたら嬉しく思います。

ギャグパートの雰囲気やせりふ回し、テンポなどが良く面白く読ませていただきました
特に、セリフのチョイスといいますか、特にラストの主人公が真っ裸のまま突撃する場面のテンションは非常に良かったです。

しかし、シリアス部分との落差が大きく、少しだけ違和感を覚えてしまいました。
もちろん、物語上シリアスはあった方が良いと思いますが、テンションの上げ下げが大きすぎるのかな? と思います。
ここは読み手個人の好みによるところも多いかな? と思います。

後、「☆パンツ聖戦☆」と言うことで、もう少しパンツに関して掘り下げてもらえたら、とっても嬉しかったです。
バトルで脱がすだけだったので、少しさみしく感じてしまいました。

パンチラだったり、見えそうで見えないだったり……。少し妄想するだけでいろいろなパンツシチュエーションが浮かんできますので、もっともっと熱いパンツエピソードを入れていただきたかったと強く感じております。

ラストは主人公の成長が見える良いセリフだと思います。

いろいろと失礼なことを書いてしまったかもしれません。申し訳ありません。

以上となります。

このたびは有難うございました。
 

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2016年04月23日(土)12時50分 シュバルツシルト-20点
男が語るパンツを脱がしあう話、はそれだけ聞けば気持ち悪いもの。
戦いにもリアリティが感じられない(戦闘描写という意味ではない)。

 

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2016年04月21日(木)21時35分 w30点
本作品を読みましたので、以下感想です。
今回の企画では、自作以外の全作品のタイトルと作者コメントと冒頭をチラ読みして、面白そうなものから読んでいきました。
本作品は、冒頭の良さでいえばトップ3に入っていました。
そして、自作以外13作のうち12作(1作は途中で挫折)を読了した結果、冒頭が良かった3作がそのまま上位3作だったと思います。

ということで、面白かったです。ひじょうにくだらないし、ばかばかしいのですが、それこそが少年系ラノベの楽しみどころだと思いますし。
内容はそんな感じですが、よくよく見てみると、ちゃんとした技術力に裏打ちされているからこそ、だということが分かります。
まずは冒頭の引き込みが良いです。主人公とメインヒロインをわかりやすい形で早めに提示していますし。ただ起こったことや行動をなぞるだけではなく、情景の描写もしっかり入っています。その後の展開のテンポも良く、それを紡ぎ出すだけの文章力の高さもあったと思います。
冒頭で主人公とヒロインが出会うだけでなく、いきなり主人公が女の子になってしまうばかばかしい展開もインパクトがあって良かったです。
そして、その後やることが、まさかのパンツの奪い合いとか。
そんな中で、主人公の家庭的境遇と、主人公とヒロインが昔会っていた、という設定の開示も良かったです。
この尺の短編ですし、あまり深刻すぎる家庭環境を設定しても描ききれませんので、これくらいの悩みでちょうど良かったと思います。それに関する主人公の心境も良く描写されていました。
主人公とヒロインが昔あっていた、という設定はよくあるパターンだとは思いますが、全体がうまく行っている作品の中ではそれなりに効果的な王道だと思います。これが、全体がつまらない作品の中でそれをやっていたりしたら、単なるご都合主義にしか見えなくなるところですが。
山場のバトルシーンも良かったです。バトルといってもやっている内容はパンツの奪い合いでアレなのですが、優勢劣勢が二転三転とするので、バトルとしては盛り上がったと思います。
ということで、全体的に楽しく読めました。が、問題点としては、やはり内容が内容だけに、女性読者は弾いてしまうように思います。といっても、少年系ラノベ自体が、萌えとか微エロを全面に押し出して男性向けとして特化する形で発展してきたものなので、開き直って女性読者を弾いてしまう、というのも戦略の内かとは思います。
また、ラストについては、少し物足りなさもありました。戦っていた敵と友達になろう、とあっさりいうのは読者の感じ方により善し悪しだとは思いますが、メインヒロインが消えたままになるのは驚きました。ありきたりではない、という意味では良いのですが、メインヒロインが良いキャラだっただけに残念な面もあります。
だったらじゃあどうするのがいいのか、と言われると困るのですが。ご都合主義で復活されてもなんだかなあですし。
なんかとりとめのない感想になりましたが、楽しく読ませていただきました。
執筆おつかれさまでした。


 

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2016年04月20日(水)02時11分 おいげん0点
御作拝読させて頂きました。
早速感想を述べさせて頂きたいと思います。

◆良かった点
①疾走感
 やってることは、傍から見るとすげーくだらないことなのですが、それを笑に昇華させるだけの勢いがありました。作者様が選ばれたコメディというジャンルに相応しい、ノリと勢いだったと思います。

②設定
 信仰と領地をかけた戦いという設定が面白かったです。こういった独自解釈等は、創作の醍醐味だと思います。生き生きとしてキャラが動いている様子が良く分かりました。

◆気になった点
①擬音或いは台詞
 昨今有名になっている「アッー!」や「フヒヒ」が目につきます。特に後者は些か乱用が過ぎたかと思いました。効果的なタイミングで、もしくはギャグに没頭している中で使用するのであれば、充分かと。

◆総評
 気軽なテイストで進行し、多少の無茶振りも許される流れを創りあげたのはお見事でした。
 次回作も期待しております。
4/20 おいげん

 

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2016年04月18日(月)22時52分 ハイ10点
こんにちは。
読みました。



●文章

もう少し頑張って欲しかったです。
時間がなくて見直せなかったのか、意味が通らない文や、同じ単語が繰り返し出てくる文などが前半に集中してました。
話そのものはなかなかに面白かったので、これはもったいないです。


●ストーリー

面白かったんですが、惜しいです。
後半の途中までは良かったんですが、ラストには結局サクヤが……なので、読者的には、そこは明るく終わって欲しかったかなと。
や、サクヤがまたいいキャラだったので、余計にラストシーンにいないのが残念で……。



●キャラ

サクヤがすごく良かったです。
その他は……さあ?w

私的に気になったのは、サクヤ出すなら、イワナガヒメ絡めた話でも良かったんじゃないかな、と。
敵が天照やツクヨミじゃバランスがとれないような気がしてどうも……。



では、執筆お疲れさまでした!
 

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2016年04月27日(水)22時17分 たてばん L2TtHY/jcg10点
 執筆お疲れ様です。
 拝読しましたので、思ったことや気になったことを残します。

 《文章》
 すっきりしていて読みやすかったのですが、

 >はっきりって、怪しさ全開なんだけれど
 脱字と

 >俺は新井『御言』って言います。
 >『これから『実言』さんには、
 >「今からこれを『美琴』さんに着けてもらいます」
 名前の書き間違いがかなり多かったです。
 句読点の場所も変な区切りが多かったので、もっと推敲すると良くなると思います。

 > 振り返る間もなく、俺は何かに躓き、転ばされ地面に仰向けに倒れた。口にグラウンドの砂が入り、じゃりじゃりして気持ち悪い。
 振り返る間もなく転んだら俯せになりませんか?
 他にも
 > 半分影の中に入りかけた月見に向かって、俺は更にスピードが出るように体を仰向けに一直線にして、廊下を滑る。空気抵抗と摩擦を極限まで減らす、最速のフォルムだ。だが、俺のある部分に体重が集中するため、ダメージは計り知れない。
 俯せにならないとある部分に体重は集中しませんよね。このようにやたらと仰向けが多かったです。

 >右手には水筒を隠し持って背中に隠し
 表現が被っているので、
『右手に持っている水筒を敵に悟られないように、敵の目を睨み付けながら、ゆっくりと背中に隠した』みたいな感じで、詳しく書くとそれらしいシーンになると思います。
 下手な描写ですみません。

 あとは、月見が現れたシーンなのですが、
 > その時、ふと背後に人の気配を感じて動きが止まる。
 とあるのですが、実は月詠の力で体の動きが止まってたとの描写がかなり後にあります。
 このままだと、恐怖で体が動かないのだと勘違いしてしまうので、
『後ろに誰がいようが関係無い。ここでパンツを脱がせれば僕の勝ちだ! しかし、僕の体は指一本動かない。まさか後ろにいる奴が何かしたのか? 僕は目を見開き眼球だけを横に動かした』
 のように、何故体が動かせないのか、という次に繋がる描写が欲しかったです。

 《設定》
 かなり斬新で面白いと思います。
 主人公とヒロインの過去と今の繋がりも良いと思いました。

 日向と月見は同じクラスのようですけど、双子ですか?

 あと、人払いの結界が張れるなら、屋上でも廊下でもバトルできるのではないのですか?

 《構成》
 物語の本筋の説明やバトル、最後の主人公補正の力での勝利、しっかりしていて良いと思いました。
 ただ、個人的には勝利したならラストはヒロインを登場させて欲しかったです。

 《総評》
 設定は良いので、文章を落ち着いて推敲すれば格段に良くなると思います。
 ギャグに相応しい素晴らしい設定で面白かったです。

 未熟者の身でいろいろと口出ししてすみません。
 企画参加お疲れ様でした。では、失礼します。
 

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2016年04月18日(月)18時32分 七月鉄管ビール xn8ZkIqS3k10点
 つかみはOKでした。
 状況のバカバカしさも楽しませていただきました。

 非常に損をしている作品だと思います。
 枝切りバサミ関連の生々しいエグミが作品にマイナスに働いているようにみえます。
 ギャグとして最初の一撃は面白かったのですが、設定上のことですから終始負の影響がありました。

 コメディーからシリアス部への接続が上手くいっていないようにも思えます。
 あまりシリアス描写が心に響きませんでした。
 どうすれば良いのかはわかりません。無責任ですみません。
 心を揺らされなかったのは私だけもしれませんので、そうだったらすみません。

 今さらですが、私の意見は一般性がないことが多いです。割り引いて吟味してくださると幸いです。

 最後に。
 出そろったキャラクターたちは今後を期待させるものでした。
 特にフヒヒな子。なんか好きです。もっと活躍してほしかったなあ。
 執筆おつかれさまでした!
 

nice291
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2016年04月16日(土)23時12分 ピューレラ0点
こんばんは。

【気になった点】
>そんな俺の様子を気にする様子もなく

こちらは「様子」

>俺がそう言いかけると、咲耶は突然俺のイチモツ目掛けてハサミを振りかざした。突然の咲耶の行動に呆然として、立ち尽くしてしまう。
 ハッと我に返り、俺は突然の咲耶の行動に驚きつつ、自分の息子を守るために

こちらは「突然」
というように同じ言葉が、連なりすぎているように感じます。

聖戦に参加できる人というのが
神様が見える神主さんかそれに属する人とあるのに女性限定とある、よく分からなくなります。
しかもその後、巫女だけだったとも出てきて余計に、混乱します。
最初から巫女としておいた方が良かったのではないでしょうか。

【好きだった点その1】
パンツを奪い合うという設定。

純粋に面白そうと感じます。

主人公は男の子のままの方が相手側の羞恥心も勝って面白かったのでは
ないかなと思いました。
 

nice263
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合計 13人 130点

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