おっさんとクリスマスと私 |
モニターには事務所が映し出されていた。 事務所にいるのは厳つい顔をした若い男たちと、天然パーマの中年の男。 若者たちは金の計算で忙しそうだが、上座に座る中年は暇そうにウィスキーを傾けていた。中年がなにやら大仰な動作で若者を指差すと、周りにいる腰巻たちが肩を揉んだり、タバコに火をつけたり、ウィスキーを交換したりした。 後ろの壁面には家紋が金ぴかの額縁に飾られている。関東でも武闘派として知られる高山組の家紋だ。 男たちは突然、カメラの方角を見やった。このモニターの死角に入っているが、どうやら誰かが入ってきたらしい。子分が荒々しく近寄る。 男がカメラの視界から消えた瞬間。 血まみれの男が後方に吹き飛ばされた。 その場にいる全員が思わず腰を挙げる。 男がモニターに姿を現した。 手前にいる若者が、抵抗する間もなく首を切りつけられた。 VTRには音声こそ流れないが、悲鳴が聞こえそうなシーンだった。 戦う気構えと準備が出来ていないヤクザなど、暗殺者からすれば赤子同然だ。 男たちはまるで糸の切れた操り人形のように、次々と床に倒れこんだ。 暗殺者は血まみれになった事務所をぐるりと見まわると、まだ息のある男にナイフを突き立て、事務所の奥へと歩いていった。 問題となるシーンは、わずか20秒あまり。 男が姿を現してから男たちが倒されるまでの時間だけなら、おおよそ10秒ほどしかかかっていない。 VTRがそこで巻き戻された。 「どうかね、荒巻君」 男は若者を省みていった。 荒巻尊は行儀の悪い恰好で椅子に座っていた。周囲を取り巻く正装の男と比べると緊張感に乏しい。退屈なのか、あくびをしそうになった。 「信じがたい事実だが、高山組に侵入したのはこの謎の暗殺者ひとりだけ」 暗殺者が刃物を振り下ろす、その瞬間でVTRが停止された。 身長は他のヤクザと比較して190センチほどの長身。 黒いジャンバーと作業ズボンという地味な出で立ちで、フルフェイスヘルメットで顔を隠している。 暗殺者が再び動き出す。瞬く間にヤクザの命を掻っ切った。 「動きから見ると、古武術の素養があるようだな」 暗殺者は瀕死の若者にとどめを刺し、事務所の奥へ姿を消す。 「この後、2階にいた11人の構成員をわずか5分あまりで皆殺しにして、事務所に火をつけた。全ての作業を含めても10分とはかかっていないだろう」 初老の男は疲れきったかのように顔色が蒼白かった。 「私はこの稼業を長年やってきた。その間いろんな殺し屋を見てきた。だがこの腕といい、人を人とも思わぬ非人間性といい、これほどの凄腕を私は知らない」 しかし荒巻と呼ばれた青年は茶をすすりながら平然と画面を見ていた。 「まさか、臆したのではあるまいな」 荒巻は苦笑いした。 「まさかでしょう、新田警視殿。この私が恐れるものといったら、トイレの花子さんぐらいなもんですよ。あ、この煎餅も食べていいですか」 新田は黙って菓子皿を突き出した。 「この男については、もう面は割れている」 荒巻に顔写真を突きつけた。憮然とした中年男が映っていた。 「暴力団の組で囲われているヒットマンで、名前は宗像登。自衛隊員の宿舎に時限式爆弾を仕掛けたこともある、極右の構成員だった男だ」 静寂な会議室に、新田のだみ声と、煎餅の割れる音だけが響いていた。 「もといた右翼団体を調べたらわかった。こいつはあまりにも過激な運動をするんで組織にもいられなくなったらしい。そこを組が骨を拾ってやったそうだ。ちなみに拾ったのは広域指定暴力団・山門組の傘下、太田組だ」 荒巻は手の煎餅の粉を払うと、 「で、どうしてそこまでわかっているのに逮捕しないんですか」 「それができたら、とっくにやっとるわ!」 新田は机を荒々しく叩いた。 「この映像を見てわからないのか? この男には並の警官じゃあ歯が立たんのだ。しかもこのご時世だ。ひとりでも警察に犠牲者がでれば、どんな影響があるかわからん」 「まあ、それはともかくとして、私に依頼したいことってなんです。事実殺ですか、それとも社会的抹殺?」 新田と部下の刑事たちは無言のうちに顔を歪ませた。 ここは警察署の一角。並みの犯罪者なら自身の言動に気を使う。 警官もそれを根拠に居高々と振舞えた。それを無分別に踏みつけて平然としている若者に、男たちが好感を持つはずはなかった。 気の荒そうな者がひとり、荒巻に睨みつけて何かを言おうとした。 新田は首を振ってそれを制した。 「事実殺だ。どこの馬の骨とも知れん男を社会的に封じたところで何の利益にもならん。後腐れなくやってしまってくれ」 「わっかりました、警視殿。すぐ仕事にかかりますよ」 目の前の書類の束とDVDをバックに詰めこんだ。 「上の方々にもう一度確認しておいてくださいよ。前金は半分、残りは成功報酬だって。例の口座は変わってませんから」 若者は出て行った。途端に部下たちは新田に詰め寄った。 「警視、本当にあんな奴でいいんですか」 「あんな若造に頼まなくても機動隊に出動を要請すれば」 「いや、だめだ。選挙も間近な今ごろに、不穏な事件が全国に流れたら、困る先生がいらっしゃるんだよ。それは避けなくてはならなんのだ。お前たちがあの小僧を嫌うのもよくわかる。俺もあんな得体の知れないやつなんて使いたくない。だがな、うっ……」 部下たちがいっせいに後ろを顧みた。 荒巻がすぐ後ろに張り付いていて、男たちはわっと尻込みした。 「あのぅ、お邪魔してすいませんけどねぇ、忘れモンがあって」 「忘れ物? いや何も残しちゃいないと思うが……」 「いえ、そうじゃなくて、お金ですよ。オ・カ・ネ」 荒巻はニヤニヤしながら手を突きだして、 「ほら、車代ですよ。この僕を歩って帰らせるつもりですか」 男たちはやや動揺しながら自分の財布を取り出し、やれ今は五千円しか持ってないとか今月は苦しいんでとか言い出したが、やはり払うほかなく、全員が出せるぎりぎりの金額を荒巻に貢いだ。 その日は、東京には珍しく粉雪が舞っていた。 街を行き交う人々は寒そうに、それでも浮かれたような表情で歩いていた。 今日はクリスマス。街のいたるところで色とりどりの電飾が輝いていた。 それにまるで無関心なそぶりで歩く男がいる。 暗殺者・橘一樹。 普通に歩いているように見えるが、わかる者が見れば、水面を滑るような淀みのない体移動に気がつくはずだ。 それもそのはず。剣道・柔術などあらゆる格闘に通じた殺しの熟練者だ。 裏の仕事を請け負う彼だが、普段は周囲から疑われないようにアルバイトもこなす。挨拶を交わす近所のおばさんには、普通の優男としか映らないだろう。 アジトは都内の駅の、すぐ近くにあった。 その建物は15階建ての高層マンション。その8階。その一室に仲間4人で住んでいる。 自宅の扉に手をかけると、すでに鍵が開いていた。 玄関に、女性物にしては大きなハイヒールが脱ぎ捨ててあったので、彼はそっと扉を閉じた。 案の定、廊下には黒いコートが脱ぎっぱなしになっていた。その先を見ると女物の衣服が洋間へ続いていた。 洋間(ドアは開け放たれていた)では、肩まで伸ばした長髪を綺麗に伸ばした美女が、半裸のままで床に転がっていた。ほどよく大きな乳房が、横になっても自身の存在を誇示していた。確認するまでもなくルームメイトの近藤ユウキだ。 その寝姿を見ても橘に欲情が湧いてこないのは、橘がユウキのことを異性として見ていないためと、彼女が股を大開きにして歯軋りをしているからだろう。橘は毛布をかけてやった。 「う、ううん……」 ユウキは目をこすりながら、 「小夜ちゃん? 小夜ちゃん帰ってきたんか」 「小夜子は今頃大学だろ」 「あ? ああ、橘か。水飲みたい。汲んできてぇ」 橘が水を渡してやると、一気に飲み干して、 「ああ、生き返った」 ゲップを豪快に放つ。橘は目を顰めて顔を背けた。 「また飲み会の帰りか?」 「うん? まあね。けど最悪。ろくでもない奴が多かったなあ。おまけにただでさえ少ない当たりをごっそり餓鬼どもが掻っ攫っていてって……なんでウチに声かけへんのや!」 それには無視して橘は台所に入っていった。 「仕事が入ったそうだ」 「げぇ、もうかい。橘はワーカホリックやなあ」 ユウキに服が投げかけられた。 「何言ってやがる。お前だって借金がそうとう残ってるんだろ。小夜子にも今日は大学を早引きして来いって言ったから、もうすぐ来る。それまでに飯でも食っとけ」 ユウキはぼうっとしながらも、舌打ちをして、へいへいとやる気のない返事をした。 それからまた数十分後、荒巻が帰ってきてユウキと一緒に遅めの昼食をとった。 橘はさきほどから神経質そうに腕時計をちらちら見ている。最後の一人が姿を見せないのだ。 「ユウキ、ちょっと小夜子の携帯にかけてくれ」 「しゃあないやろ。この雪じゃどこも道は混んでるって」 「ちぇっ、今回は期限が限られているから、時間を守れっていったのに……」 「あ、あの……」 眼鏡姿の小柄でほっそりとした身体の少女が、ドアから遠慮がちに顔を出していた。 同姓が嫉妬するほどの綺麗な黒髪を肩まで伸ばした、肌の白い美少女だ。 黒縁のメガネがやぼったいが、ごく一部の愛好者にとっては、それがまたいいと好評である。 「遅いぞ、小夜子!」 橘の叱咤が飛ぶ。 「時間厳守はいつも言ってるだろう」 「すいません、道が混んでたものですから」 和久井小夜子は橘に何度も頭を下げながら、ユウキのそばに座った。 「気にせんでええわ。ほんま自分が仕切ってるつもりでいるんやから。どうせ簡単な依頼なんや、学校が終わってから召集をかけてもええのに、偉そうに早引けさせおって。なあ?」 小夜子は困ったような顔で微笑んだ。地獄耳の橘はユウキを睨みつけ、 「何か言ったか?」 「別にィ」 橘はひとつ咳き込んで、茶封筒からDVDを取り出した。 「さてと、これはすでに荒巻も見ているが、念のためにもう一回見てもらおうか。ユウキと小夜子はよく見ておけよ」 「へえ、なかなかおもろいオッサンやんか」 ユウキはなにが面白いのか、半笑いになって言った。 「たぶん、こいつはステロイドをやっとるな。それも相当な量の。そうでないとこの動きは説明できない」 「それだけじゃないだろう。殺し方に一切の躊躇いを感じない。たぶん3ケタくらいの人を殺しているぞ。そういう目をしている。あるいは能力者かもしれない」 能力者。 今から10年ほど前から少しずつ認知されだした新しい言葉だが、彼らは通常の人間とは異なる能力をひとつだけ、生まれた時から備え持つ新人類だ。 たとえば聴覚が人の10倍もある者。あるいは水の中でも呼吸が出来る者など。なかには人の心を読むことができる者もいるらしい。 能力者たちに共通するのは、普通の人間よりも数倍も運動能力に優れているという点だ。ただしアンフェアだという理由で、能力者であることが発覚すれば競技から隔離されてしまう。また特殊能力を備えているというだけで一般の会社からは忌避されるようで、裏社会に属する能力者は多くいるという。 ここにいる全員もそれぞれひとつずつ特殊能力を持っている。 「なんやケッタイな顔してるなあ。何が面白くて人生送ってるかわからんって顔や」 「小夜子はどう思う?」 「えっ?」 いきなり橘に振られた小夜子は、ハトが豆鉄砲を喰らったような顔をした。 「う、うーん、す、すっごい怖い人だと思います!」 「せやね」 ユウキは残念な人を見るような目で言った。 「ところで、こいつをどうしてくれって言うんや?」 「抹殺が依頼人のお望みだ」 荒巻が答えた。 「なんや、簡単な仕事やん。この人非人をぶっ殺せばいいって話やろう」 「まあ、仕事自体はそう難しいものじゃない」 橘は皆を見て言った。 「だがもうすこし踏み込んだ話をしてもいいか? 実は今回の依頼人、新田という警視でな」 「おい、ちょっと待てよ、橘。依頼人の話はユウキたちには関係ないだろう」 荒巻が慌てて止めた。 「今はそうだ。だが仕事が終った後も関係が切れるとは限らない。知っておいたほうがいいと思ってな」 「だが、しかし……」 言いよどむ荒巻に、ユウキは嘴を挟んだ。 「なんや荒巻。ウチをガキ扱いして話の輪から外そうっていうんか」 「いや、ユウキ。この世界じゃ知らないほうが身のためってのがあるんだぜ」 「そんなんウチにわかるかい。もうここまできたら聞きたいやないか、さっさと吐けや」 「いいよ、もとからそのつもりだったのだから」 「橘っ、おまえっ」 荒巻は睨みつけた。まるで親の敵を見るような目つきだが、橘には動じる気配がない。 「まあ、そう突っかかるな。難しい話じゃない。みんなの協力のおかげで当初の予想以上に暗殺家業は繁盛した。おかげで警察の幹部から仕事を受けられるまでに、俺たちは名前を売ることができた」 「警察が俺たちに殺しの依頼をするなんて、隔世の感があるなあ」 「せやな、警察が民主的だったのはひと昔前の話や。賄賂や汚職が横行して、今じゃ市民を守るはずの警察がマフィアやヤクザとお友達になっとる。世知辛い世の中になったわ」 荒巻のボヤキにユウキはうなずいた。話についていけない小夜子はただ黙っているだけだ。 「だがその副作用としてリスクが高まった」 「リスクですか?」 小夜子が橘に尋ねる。 「そう、リスク。有能な暗殺者グループにつきものの、リスクだ。具体的には報復や、口封じ。あるいは報酬目当ての強盗などだ」 「こ、怖いですね……」 「そう、とても怖い。だからそうならないためにも、前もって準備をしておきたい」 「たとえば、どんなや?」 「そう、たとえばこんなのはどうだ。 今まで通り自分たちの生活を過ごしてもいいが、すこしだけ制限をつけさせてもらう。情報の流出を防ぎ、そのうえで仕事の間だけ違う人間に顔も名前も変わってもらう。そして仕事が終わればまた元の顔と名前で生活する」 「そんなんできるんか?」 「特殊メイクだ。俺の持っている伝手のひとつに、それ専門のエキスパートがいる。そいつが携われば素性が割れないばかりか、年齢や性別が違う人物になりきることが可能だという」 「それ、どこのどいつや?」 「今はまだ秘密。そのうち会わせてやる」 「素性がわからなくても、能力で身元がバレるんじゃないか?」 荒巻はタバコに火をつけそうになったが、小夜子をちらりと見てポケットに仕舞いこんだ。 「確かに。そこは気をつけるべきだろうな。能力を使うのはターゲットの前だけ。そして使ったらターゲットはきちんと始末することが必須になるだろう。あとは?」 「仕事のたびに顔を変えなくちゃならんとは、かなりしんどいやないか」 「毎回やるとは言っていない。身バレの危険性がある時だけだ。他には?」 「うーん、ちょっとイメージがわかないって言うか、やってみないとわからないです」 小夜子は自信なさげに話した。 「心配するな。俺だってちゃんとできるかどうかは確信してない。まあ、いいようにするさ。……それで、今はこれくらいかな」 橘は皆を見回したが、ひと通り意見は言いつくしたようで、返答はなかった。 「よし、今決めておけるのはこれくらいだな。おい、荒巻」 「ああ、わかっている。小夜子、すこし出かけるぞ」 「えっ、あっ、はい……」 小夜子は、誘拐される小学生のように、肩を震わせて小さく返事をした。 「どこへ行くんや。デートか?」 「ああ、ちょっとだけドライブにな。そのついでに宗像の面を拝みに行ってくる」 都市部からやや離れた寂れた商店街。 荒巻と小夜子のふたりは大田組の幹部を載せた車を尾行して、バッティングセンター前まで来ていた。 路上に停まっているベンツをやりすごしながら玄関口を見ると、張り紙が張ってある。下手糞な字で「都合により休業いたします」。 荒巻はいったん通過してからUターンし、ほど離れた路上で車を停止させた。 「ここでどうだ? 奴(幹部)の存在を感じるか?」 「はい、大丈夫です。事務所の奥にいるようです」 それから数時間後、別のベンツが玄関近くの路肩に停まった。 「来たぞ。小夜子、確認しろ」 「はいっ」 小夜子は震える手で望遠鏡を構えた。 後部座席から出てきたのは、紛れもなく宗像本人だ。潜伏生活の疲れが出ているのか、やや青白い顔をしていて、警戒するように周囲を見回した後、玄関に入っていった。 「どうだ? 小夜子」 「はい、しっかり捉えました。存在も確認できています」 小夜子の右目が青白く光った。能力が発動したのだ。 彼女の能力は「透明な追跡者」と呼ばれる。 とある人物を追跡したい場合、能力によってその人物にマーキングする。すると、その人物がどこにいるのか、目で確認しなくても能力で察知することができる。 察知できる範囲はおよそ10メートル。 意外と狭いように思えるかもしれないが、姿をさらさずに追跡できる、とても貴重な能力だ。 「よし、また奴に接近すれば、小夜子の能力で察知することができる。これで最低限のノルマは達成した。もうここで帰ってもいいんだが……」 「何をするんですか?」 「行き掛けの駄賃だ。もうひと仕事してくるよ」 荒巻はダッシュボードから小さな箱を取り出した。磁石つきのGPS発信機だ。 「気をつけて」 声を細める小夜子に、荒巻は口角をあげると、小走りでバッティングセンターへと近寄っていく。 玄関口に、若い男が寒そうに突っ立っていた。 荒巻は彼をやりすぎるとすばやく身をかがめ、ベンツの後輪の裏側にそっと発信機を忍ばせた。 見張りが不審そうな表情で見ていたので、荒巻はわざと豪快に小銭を地面にばら撒いた。 「おっとっと。いけない、いけない」 ゆっくりとした動作で小銭を拾う。男はもう興味を失ったようで、視線をはずして煙草に火をつけた。荒巻はほっと溜め息をつき、立ち去ろうとする。 その時。宗像登と目が合ってしまった。 宗像は窓の内側で、煙草を吸いながら外を眺めていた。 世の中に疲れたとでも言いたげな、虚ろな目が印象的だった。 調査書では40代半ばと記載されてあったが、顔に刻まれた深い皺と、髪に混じる白髪のせいで、70代の老人と言われても違和感のないほどだ。 ただし殺しのプロフェッショナルと呼ばれる存在感は圧倒的なほどで、190センチの大きな身体も加味して、彼の周りには刃のような周囲を突き刺すオーラが顕現しているように、荒巻には見えた。 この男はヤバイ。 蛇に睨まれた蛙の気持ちがよくわかるような気がした。 荒巻の脳裏に、死神の影が写った。 だが、宗像はすぐに視線を逸らすと、部屋の奥へ立ち去っていく。 荒巻は大量の冷や汗が流れ落ちるのを感じながら、ゆっくりとした歩調でその場を後にした。 「大丈夫ですか? 顔が真っ青ですよ」 小夜子が心配そうな表情で出迎えた。 「ああ、大丈夫だ」 そうは言いながらも、荒巻は肩で大きく息を吸った。 「宗像登と目が合ってしまった。すこし焦ったよ」 「えっ、それって大丈夫だったんですか? バレてしまったとか」 「大丈夫。目が合ったといってもほんのわずかな間だったし、奴はオレの事にはまったく興味を持たなかったようだ」 荒巻はすぐ橘に連絡した。橘は報告を待っていたらしく、すぐコールに出た。 「オレだ。荒巻だ。仕事は済んだぜ。もうすぐそっちへ帰る」 『宗像を捕捉できたのか?』 「ああ、ついでにGPSを車につけておいたぜ。それから宗像にすぐ近くまで近寄ってツラを拝んできた」 『おい、あんまり無茶はするなよ』 「なあに、心配いらないって。それはともかくあの宗像って奴、オレの想像よりもずっとヤバイ奴だぜ。帰ったら詳しく話してやるよ」 『わかった。ユウキは今いないがたぶん居酒屋だろう。呼び戻してみるよ』 電話を切った。 「さてと、帰り際にコンビニでも寄ってくか? コーヒー買ってやるよ」 「もう、橘さんが待っているんでしょう。寄り道せずに帰りましょうよ」 「大丈夫。買い物くらいの時間はあるさ。橘たちの分も買ってやるからさ」 軽自動車を走らせた。玄関口では見張りが暇そうにスマートフォンを操作していた。きっと携帯ゲームでもしているのだろう。あれが見張りでは、さほど神経質になる必要はなかったに違いない。 「あっ」 小夜子が不意に声をあげた。 「どうした、小夜子」 「実はまだ宗像の行方を追っているんですが、どうも彼の行動がおかしいんです。まるで何かにせっつかれた様で……、ひょっとすると、どこかへ出掛けるつもりかもしれません」 「わかった。どこかへ身を隠して様子を見よう」 いくら相手がやる気のない見張りだからといって、玄関から見える範囲で再び車を停めるわけにはいかなかった。狭い路地へ車を滑り込ませ、見張りが見えなさそうな場所で停車する。 「どうだ、小夜子」 「さっきまでと比べて、移動のスピードが増しています。ひょっとすると、バイクか自家用車に乗ったのかも。……あっ、こっちにむかっています!」 「なにっ?」 荒巻は慌てて後ろを降り返る。リアガラスのすぐ向こう側に、中型バイクに跨った宗像の姿があった。その右手には軽機関銃が。 「危ないっ、避けろ、小夜子!」 とっさに小夜子の頭を下へ押しつけ、自らも頭を下げた。 次の瞬間、機関銃特有の、連続で釘を打ち付けたような射撃音が鳴り響いた。 窓ガラスが粉砕する。 小夜子が悲鳴をあげた。 「ずっと頭を下げてろよ!」 ギアをバッグに切り替えると、車を後方に急発進させた。 二輪車がぶつかる衝撃が車内を走るも、悲鳴はあがらない。 車が急速に後進しゆく最中、荒巻は横に吹っ飛んだ宗像を見た。 彼はバイクから飛び避けながらも、軽機関銃を荒巻に向けていた。 銃口から弾丸が発射される。 幸いにも後進のスピードが勝り、弾丸はフロントガラスを突き破るだけで通り過ぎた。 自動車は二輪車を引きずりながらも大通りに差し掛かった。荒巻はギアをドライブに戻すと、対面してくるバイクをも跳ね飛ばして逃走した。 荒巻は運転しながら、割れたフロントガラスに肘をぶつけ、すべてのガラスを撤去した。 「どこか撃たれたか? 小夜子」 「だ、大丈夫です、でも、死ぬかと思った……」 小夜子は助手席の足もとで転がっていた。よろよろと椅子に座りながらも、体中にぶちまけられたガラス片を振り払っていた。 「奴はどうした? 追ってきているか?」 「え~と、あっ、後方から追っかけてきています!」 「わかった、格好悪いが仕方がない。橘に来てもらうように連絡しろ!」 「はっ、はい!」 小夜子は震える手でスマートフォンを操作した。軽自動車は細い枝道を分け入りながらも高速で突っ走っていた。そのため小夜子は携帯を思うように操作できず、通常より時間をかけたが、やがて橘が電話に出た。 「助けてくださいっ、宗像に追われているんです!」 『なんだって? 荒巻のヤツめ、しくじったか。まあいい、今すぐ迎えにいく。それまで持ちこたえろ』 「はいっ」 『こちらからお前の携帯から場所を追跡して向かう。携帯を落とすなよ。あと、出来るならH市方面へ向かえ』 「そこに何があるんですか?」 『その辺りに緊急逃走用として別のアジトを用意してある。荒巻にもそう伝えておけ』 荒巻は指示に従って進路をH市に向けた。 背後から聞き覚えのあるマシン音が。 振り返れば宗像が、あちこち傷だらけになった中型バイクに跨り、10メートル後方にまで迫っていた。 荒巻はアクセルをさらに踏み込んだ。 当然、赤信号もすべて無視して突進する。左右からブレーキ音とクラクションがけたたましくどよめいた。 後方からサイレンを響かせて白バイが追いかけてきた。 『そこの軽自動車と二輪車、すぐに止まりなさい』 警察官特有の偉そうな命令口調だ。もちろん止まれる訳がなく、無視して突っ走る。 すると再び「すぐに停まりなさい」と声を荒げる。 宗像はハエでも叩くように、機関銃の弾丸を浴びせる。 白バイ警官は全身に弾丸を受け、コンビニのガラスへ突っ込んでいった。 「あっ、可哀そう。コンビニのお客さんを巻き込んじゃった」 「言ってる場合か、舌を噛むから黙ってろ!」 急激なドラフトに、小夜子は悲鳴をあげた。 深夜遅く、ユウキは小型バイクに乗ってH市へ急いでいた。 この日もコンパに参加していて、すでに両手に余る生ビールのジョッキを飲み干していた。今夜も釣果は散々で、途中からひとりで飲み続け、意識を失い、気がつけば酒場のテーブルに顔を突っ伏して眠っていた。 携帯を見ると、橘からの着信履歴が10件以上も残っていた。連絡すると、荒巻が目標の宗像に見つかって襲撃を受けたという。ユウキは顔を真っ青にしてバイクを飛ばした。飲酒運転だが、そんなことを考える余地などまったくない。向かう途中、橘からまた連絡が入った。 『ユウキか? いまから言う病院に来てくれないか?』 「宗像に襲撃されてるんやろ。行かなくていいんか?」 『その件はもう終った。荒巻が大怪我を負ったんだ』 その後、ユウキは指定された病院へ直行した。向かったのはS記念病院。H市の駅の裏側にある大病院だ。彼女は病院の玄関先にバイクを止めると、「駐車場に停めてくださいよ」という警備員の言葉を無視して外科病棟へ走った。深夜の病室の前に、橘がひとり佇んでいた。 「橘、荒巻の容態はどうなんや?」 「ユウキか、心配かけたな。オレはどうってことはない」 病室から荒巻の声が聞こえた。ユウキは病室へ入るなり、荒巻の姿を見て嘆息した。 「……お前なあ、そういう風にはぜんぜん見えへんぞ」 荒巻はベッドに寝かされていて、頭には多量の包帯を巻き、左腕と右足首をギブスで固定されていた。 小夜子はその隣でしょんぼりした様子で椅子に座っている。先ほどまで泣きつくしたようで、瞳は真っ赤に染まっていた。 荒巻は小夜子に言った。 「本当にたいしたことはないんだ。明日の朝には退院する」 「ホンマにそうなのか?」 ユウキは疑わしげな目で尋ねた。橘は首を横に振った。 「額には刃物による裂傷。左腕には2発の弾を受け、さらに蹴りによる開放骨折。右足首はバイクに追突されて複雑骨折。胸にも拳をくらって胸骨を折っている。立派な重傷患者だ」 「なあに、これくらい。ツバをつけておけば自然と治る」 「治るか! っていうかなんやその昭和の発想は! どこのオヤジだ、お前は」 「医者が大げさなだけだ」 荒巻はやれやれといった感じで首を横にふった。 「ここの病院はがめつさでは北関東でも随一だが、担当の外科医は優秀だ。信用していいぞ」 橘はあえて説明しなかったが、S記念病院は通常の窓口とは別に、一般の病院には連れてこれない怪我人を相手にする窓口がある。ヤクザがよく鉄砲傷や刃物傷を負ってここへ運ばれてくる。橘も理事長に大金を払って、有事のときに治療をしてもらうよう根回しをしていた。 「まあ、この際は命をもうけただけでもええわ。……それで橘、宗像と接触したんやって? 詳しく聞かせてもらおか」 「ああ……」 荒巻は言葉を選ぶようかのように少し考え込んでいたが、やがて話し始めた。 「オレは横になっている間に考えたんだ。奴は人の心を読むことができるんじゃないかって」 「えっ?」 3人は目を見張った。 「どういうことや、それ?」 「というのも、オレが奴と目を合わせたのはほんの一瞬だったんだ。その後、すぐに奴は行動を始め、俺と小夜子にむかって軽機関銃を撃ってきた。つまり、目を合わせただけで、オレたちのことを、銃を使ってでも殺さなくてはならない相手だと認知したってことだ」 「荒巻、それについてもうすこし詳しく聞かせてくれないか?」 橘は身を乗り出して尋ねた。 「ああ、オレはH市に逃げる途中、何度も宗像の攻撃を受けた。だが攻撃されるだけで黙っていたわけじゃない。こっちからも隙をうかがって反撃した。知っての通り、小夜子はヤツの居場所を捕捉できる。この能力を駆使して物陰や死角から奴に奇襲をかけたんだ。だが、いずれの攻撃もまるで俺の手を読んだように、余裕をもって反撃された。それは絶対に見てから反応したんじゃない。見る前から反撃の態勢を取っていたんだ。きっとオレの心が読めたに違いない。そうでなければ未来を予測できるかくらいしか……」 「ま、まさか、そんなことが……、はっ!」 ユウキは、敵の策謀に気付いた軍師のような目つきで、橘を見た。 「どうした、ユウキ?」 ユウキは部屋の片隅に走っていくと、吐しゃ物をゴミ箱のなかへ思いっきりぶちまけ始めた。 橘は呆れたようにため息をつく。 「奴の能力については俺も検討してみる。荒巻、お前はもう休め」 病院の外では、パトカーのサイレンがひっきりなしに響いていた。やはり現職の白バイ警官が銃撃されたという事件は、世間に対して大きな衝撃を与えた。どのTV局も緊急番組を組んで報道していた。 これで事を秘密裏に収めたいという新田警視の思惑は完全に外れることになった。彼はさぞかし恨み節だろうが、橘はあまり気にしていない。むしろ警察が困るようになって溜飲をさげたほどだ。 「橘さん……」 待合室で缶コーヒーを飲んでいると、小夜子が神妙な表情で呼びかけてきた。 「おっ、俺だけ飲んでしまってすまないな。お前も何か飲むか?」 「いいえ、そんなことより私、全然お役に立てなくて、本当に申し訳ありませんでした」 小夜子は深々と頭をさげた。 「いったいどうしたんだ? 荒巻のことは別に気にすることはないんだぞ。お前にとっては初めてのことだが、荒巻はあれくらいのことはしょっちゅうなんだ」 「でも、荒巻さんがあんな怪我をするほど頑張ったのに、私はただ見ていることしかできなくて……」 「それは違うぞ、小夜子」 橘は何度も首を横に振った。 「そもそもお前が直接戦う必要はないんだ。なぜならお前の持っている能力は、どこの誰にも持っていない貴重なものだ。そんなお前を万が一にも失うことがあれば、それは俺にとってもチームにとっても莫大な損失になる。むしろお前をここまで危険な目に遭わせた荒巻こそ猛省すべきなんだよ」 「そうなんでしょうか?」 「そうだ。ところで、こんな所にいつまでも居続けるわけにもいかないだろう。車代は出してやるから、ひと足先にタクシーで帰れ」 「待ってください!」 小夜子は差し出された万札を押し返した。 「これから宗像を殺しにいくのでしょう? 私も一緒に連れて行ってくれませんか」 「むぅ……、よくわかったな。だが今回の騒動が幸いして、奴の居場所はもう掴んである。だからお前がついて来なくてもいいんだぞ」 「いいえ、お願いですから連れて行ってください。私のことをアクセサリーとしてではなく、チームの仲間として見てくれているなら。私もみんなと一緒に危険を共にしたいんです!」 橘は言葉に詰まった。周囲から小心で臆病者と見なされていた小夜子が、これほどの我を張ることなんて今までにまったくなかったからだ。 「ええこと言うやないか、小夜ちゃん」 廊下の陰からユウキが姿を現わした。胸元を大きく開けた白地のワンピースは異性の目を引きつけるだろうが、腰に手をあててソル○ックを立て続けに何本も飲む姿はおっさんそのものだ。 「ウチもつれていってもらうで。荒巻を傷物にされて腹を立ててるのは何もお前だけやない」 ちなみに、橘には宗像に含む気持ちなどまったくない。だが否定するのもおかしな話なので、そこはあえて触れない。 「まあいいだろう。そこまで言うなら連れて行ってやる。だがわかっているだろうな。ついてくる以上は自分の身くらいは自分で守れ。怪我をしても俺は知らんからな」 「当たり前の話をするな。そんなことより宗像の居場所がわかってるって本当か?」 「ああ、もちろんだ」 橘は耳からイヤフォンを外した。 「先ほどから警察無線を盗聴させてもらっていてな、警察もだいぶ捜索の範囲を絞っているらしい。あとは小夜子の能力で絞り込める」 「ええやろ、ウチも久々に燃えてきよった。能力をフルに使わせてもらうわ!」 ユウキは飲み終わったビンをすべてゴミ箱に投げ捨てたが、ことごとく外れて廊下に転がった。ビンはすべて、まるでカッターを当てたかのように、縦に綺麗にまっぷたつになっていた。 宗像登は46年前、地方の中核都市に一人息子として生を受けた。父親は教養のないトラック運転手で、母親は高校を中退したフリーターだった。 両親は他の親と比べてさほど教育熱心ではなかったが、よその家族と同じように、それなりの愛情を息子に注いだ。 ある日のこと、幼い宗像は父親に尋ねた。 「お父さん、どうして叔父さんやお父さんのお友達は、お父さんやお母さんのことをバカにしているの?」 父親は言葉に詰まった。学歴のなさから周囲に馬鹿にされていることは、薄々感じ取っていたからだ。息子はきっと感受性の高い子供なのだろう。父親は黙ったまま宗像を抱きしめた。 またある日のこと。宗像は道を歩くサラリーマンを指差し、 「お父さん、あの人、悪いことを考えているよ。きっと誰かを殺そうとしているんだ」 サラリーマンはぎょっとした表情をして、足早に立ち去っていった。 「なんてことを言うんだ。そんなことを言ったら駄目だろう」 「だって、あの人、悪い人だもん!」 いやいやする息子に、父親はかっとなって殴りつけた。 後日になって連続通り魔事件が起こり、犯人が逮捕された。ニュースや新聞では犯人の顔写真が掲載されたが、その男は宗像が「悪い人」呼ばわりしたサラリーマンだった。父親はぞっとする思いで息子に尋ねた。 「ほらー、ボクが言ったとおりだったでしょ」 宗像は人の心を読むことができるのだ。 その一件が発端となって宗像の特殊能力が両親に知られることとなった。両親は金になると思い、心理学者や、超常現象を専門にする学者もどきに息子を引き合わせた。 宗像はどこの席でもESP判定テストを受けた。コインを投げて裏か表を当てたり、トランプをランダムに引かせてそのカードを当てたりするお決まりのテストだ。宗像はそのテストで、合格点どころかかなり散散な点数を取った。コイン当てでも、偶然以上の成績を残せなかった。 どの学者(あるいは学者もどき)も、「お子さんはいたって普通の子ですよ」と微苦笑をして言った。宗像は、怒鳴り散らす両親に対して、「だってわからないんだもの……」と愚痴をこぼした。 宗像登の特殊能力。それは怒り・悲しみ・憂え・悪意・殺意などを文章化することなく、そのまま把握する能力だ。 まるでクジラがコミュニケーションをする際に、人には捉えられない音波を使うように、宗像は常人が捉えることができない感情の波を、そのまま受け止めることができるのだ。 ただESPテストのように、人がどんなカードを引いたかという具体的な心理までは読むことができないだけだ。 宗像は超能力者として認められなかったが、依然として人の心を読むことには変わりなかった。だから息子が金にならないと失望した両親とは疎遠になった。級友も宗像が心を読むことを知るや否や、彼を猛獣のように扱うか、あるいは遠巻きになって見ているしかなかった。 たとえばクラスの女子が「それ、おもしろーい」とはしゃぐふりをしていても、心のなかで相手を恐れていることがはっきりと伝わってしまうのだ。そんな状態では普通の友達づきあいなど望むべくもないだろう。宗像は社会からも家族からも疎遠になり、ごく自然と裏社会で生きるようになった。 そして異能力を持つ宗像は、組織から暗殺者としての素質を見出され、一から教育を受けるようになった。 組織のボスが思った以上に、宗像には暗殺の素質があった。義務教育までまったく何も習わなかった古武術をあっという間にマスターし、めきめきと実力を伸ばしていった。嫉妬のあまりトレーニングを妨害する同僚を、事故に見せかけて葬ったこともあった。実のところボスにはお見通しだったが、ボスは宗像の成長ぶりに満足した様子で、彼を咎めだてしようとはしなかった。 人の心を読み解く異能力もあってか、宗像は一流の暗殺者に育っていった。 それから数年後、とある生活破産者の夫婦を始末するように命じられた。身の丈以上の借金をして、どうやっても返済できる目処が立たないから、殺して眼球やら内臓やらを売ってしまおうというのだ。宗像にとっては欠伸のでるような簡単な仕事だったが、彼は二つ返事で了承し、ターゲットのもとへ向かった。 その夫婦は宗像の両親だった。二人は満足に食事も取れていないのか、痩せほそろえていた。彼らはもちろん成長した宗像に気付いた。そして自分たちを殺しに来たことに悟ると、憐れみを誘う声で息子に命乞いをした。 だが宗像は表情を変えることなく両親を葬った。 彼が両親を憎んでいたのか、軽蔑していたのかは他の誰にもわからない。ただ実の親を殺した彼は冷血の殺人者として裏の社会で知られるようになった。 時は数十年経て現在。宗像登は警察に追われ、とある郊外の廃工場に身を潜めていた。 廃工場は、近年の不況に乗じて太田組が法外な値で買い叩いた物件だった。もちろん快適な居住空間であるはずがない。宗像は埃だらけの工場の中で、粗末な毛布にくるまっていた。 太田組の若衆4人は、護衛の任務のために10メートルほどの場所でひとかたまりになって宗像を見張っていた。若衆が近くに寄らないのは、もちろん暗殺者・宗像を恐れてのこともあるが、人の感情を読み解く彼の睡眠を妨げないためだ。 「ロン、タンヤオ・トイトイ・ドラ3で跳満な」 「あーっ、ちきしょう。飛んだ。またドラ暗刻かよ。勘弁してくれよ!」 「しっ、静かにしろ。宗像さんが起きるだろう」 その言葉に、いっせいに静まり返り、宗像を見やった。 先ほどまで鼾をかいていた宗像はパチリと目を開き、上体を起こした。 「す、すみません宗像さん。若い奴がうるさくしまして……」 年長の男が媚びを売るような笑みを顔に張りつけたまま、宗像に近寄ってきた。 「よかったら目覚めにお茶なんかどうですか。今お湯を沸かしますよ」 そういうと、電気ケトルのコードを差し込んだ。 「そこから離れろ」 「えっ?」 男が不思議そうな目で宗像を見た。 「来るぞ」 「えっ? いったい何がで……」 男の背後にある壁が、円型に切り刻まれて、地面に崩れ落ちた。 それと同時に、男の顔と胴体が横一文字に切断された。出血がはげしく吹きすさむ。 若衆たちが悲鳴をあげる。 「とつげきー、隣の晩御飯ー。ねえ奥さん今日のおかずは何ですかー」 壁の穴からひょいと顔を見せたのはフルフェイスヘルメットを被った女だった。 ほんの数メートル先にいる宗像を見ると大げさに驚き、 「あっ、あかん。思ったより宗像が近くにいよる。逃げな(棒読み)」 宗像が軽機関銃を発射した。 女は壁の穴から逃げだした。 宗像は走って外を見やったが、目の前は別の倉庫の壁。辺りを見渡しても女の姿はどこにも見えなかった。どこか近くでバイクの走行音が轟いていた。 「そう遠くには行っていないはずだ。早く行け!」 若衆たちはあわてて外へ出て車に乗りこんだ。 宗像も外にあるバイクに跨り、夜の道を走りだす。 しばらくして、若衆たちが乗っていたベンツの様子がおかしくなってきた。 不安定に幾度も車体を揺らし、看板や電信柱に何度もぶつけた。 「どうした?」 「く、車がいうことを聞かないんです。助けて!」 嘆願もむなしくベンツは倉庫の壁をぶち破った。それでも速度は落ちず、中にある資材に突撃し、ようやく止まる。安定を失った資材がベンツの上に降り注いだ。 男たちの悲鳴が木霊した。中に乗っている者は、おそらく助からないだろう。 「これはいったい……」 宗像は驚愕しながら惨状を目のあたりにした。 緻密に計画された襲撃のようだ。 思い返してみれば、初対面の女が、それも能力者が自分の名前を口にしていたのだ。その時点で警戒すべきだった。 乗っているバイクを見下ろす。どうやらこちらには細工はしていないようだ。 「まあ、いい」 宗像は再びバイクを走らせた。 「やばーい、むっさいおっさんに殺されるー。もしくは貞操を奪われるー(棒読み)」 ユウキはバイクを走らせながら後ろを振り返った。 「あれ? 追っかけてこんな。こら本当にやばい。計画が狂ってしまうわ」 バイクの爆音とともに、宗像が小屋の屋根から飛び降りた。 「うわわわー!」 宗像は頭上から機関銃の弾を雨のように降らせる。ユウキはバイクを急発進し、かろうじて回避した。 宗像がユウキを追う。いきなりバイクが何かにぶつかったように弾け飛んだ。 夜で見えにくかったが、細いワイヤーが張られていたのだ。 「ユウキ!」 建物の陰から、ワイヤーを張った張本人が手を振ってきた。 「助かったわ、橘!」 「こっちだ。早く来い!」 二人は開かれた倉庫の中へと入っていく。 宗像は膝の埃を払うと、悠然と暗闇の倉庫へ入っていった。そこで目にしたもの。 「火気厳禁」の貼り紙だった。 暗闇のどこからか、女の声が聞こえてきた。 「気ぃつけや、おっさん。ここは火薬の保管庫やで。なんでそんなけったいなのが置いてるのかは知らんがな、ちょっとでも火花が散ればドカンや。刃物がどっかに当たってもやばいんちゃう?」 目を凝らすと、辺りの棚には、山のようにパッケージが積まれていた。貼ってあるラベルは、見覚えのある火薬メーカーだった。 火薬の匂いが鼻孔をつく。あちこちで火薬が漏れ出ているのだとわかった。 「偶然か? いや、ちがう。これも奴らの計画のうちだろう。なら火気厳禁も火薬も奴らが用意したものか」 外から機関銃を掃射して倉庫ごと燃やしてもいいのだが、それだと目立って警察の捜査網にかかる恐れがあるし、なにより二人がちゃんと死んだかどうか確認ができなくなる。 ターゲットは確実に殺す。暗殺者の性質を奴らは正確に把握しているのだ。 「……まあいい。こんなところに逃げ込んだところで、かえって逃げ場を絶ったのも同じだ」 宗像は機関銃とナイフをその場に置くと、入口の扉を閉じた。これで倉庫の中は完全に闇の中に閉ざされた。 宗像にとって暗闇は脅威ではない。長い暗殺者生活の賜物で暗闇には慣れているし、ちょっとした物音でも聞き取ることができる。それに宗像は人の感情をリアルタイムで感知する能力を持っている。 能力の範囲は5メートルほど。さほど広範囲ではないが、近づけば真っ先にその存在を知ることができる。2対1だが宗像は常にもっと多くの敵と対峙している。 「待ってろよ。すぐに首の骨をへし折ってやるからな」 しかし。 宗像はいつまでたっても二人を補足できなかった。 二人は意外にも俊敏な動きを見せ、宗像の追跡から逃げ切っているのだ。 それだけではない。あたかも敵の居場所を知っているかのように、余裕をもって逃げている。 (くそ、なぜだ。なぜ俺の居場所がわかる?) 宗像は走りながらも疑心悪鬼にとらわれた。 (まさか、俺と同じ能力者か? いや、そんなことはないはず。特殊能力は指紋と同じだ。人によって持っている能力は異なる。二人とも同じ能力をもっているなど、絶対にありえない!) 猪突する宗像の足をまた何かが引っ張った。 「しまった。またワイヤーか!」 ワイヤーは強い力で上へ引っ張り、宗像を宙づりにしてしまった。 目を凝らすと暗闇から二人の男女が姿を現した。 「捕まえたか? 橘」 「ああ、捕まえた」 倉庫のライトが一斉に光りだした。 二人ともすでにヘルメットは取ってしまっていて、揃えた様に、ワイヤレスイヤフォンをしていた。 「ありがとな、サヨちゃん。もうええで」 女は誰かにむかってそう話した。 「すまんな、おっさんには何の恨みもないんやが、とある人からの頼まれごとでな。おっさんを殺すことにしたんや。なるべく痛くないように殺してやるから許してや」 ユウキは口角をあげて、ゆっくりと宗像に近づいて行った。 「ちょっと待て、ユウキ」 橘はスマートフォンを見ながら言った。 「なんや?」 「追加の注文だ。できる限り痛みを与えて殺してほしいとある」 「はあ? んなアホな。なんでそんな証拠に残るような真似を」 「新田警視がやったとは思えない。おおかた荒巻と同席した奴の中の誰かだろうが、白バイ警官がやられたので、腹に据えかねてつい送ってしまった。そんな感じじゃないか。文面を見る限りな」 「ハン、自分でやれって言うてやれ!」 「いいじゃないか。このメールは後で使える。ご希望に沿ってやろうぜ」 「ちぇ、まあええわ。おっさん、すまんが話が変わったわ。堪えてや」 「ふん、俺を馬鹿にするんじゃない」 「えっ?」 「これしきのワイヤー。断ち切れないとでも思ったか?」 宗像は片手でワイヤーを掴むと、力任せに引っ張った。 ワイヤーは簡単に千切れ、宗像は地面に降り立った。 「えっ、嘘やろ? 1トンある鉄板を持ち上げるワイヤーだぞ。そんな簡単に切れるか?」 「特殊能力じゃないな。ただの馬鹿力だ」 「言ってる場合か!」 宗像は橘にむかって走り出した。 その勢いを借りて橘の側頭部を殴りつける。頭蓋骨ごと脳髄を破壊しようとした。 だが、宗像の右手はむなしく空を切った。 そればかりではなく、素早く足払いをかけて宗像を転倒させた。 「ば、馬鹿な!」 宗像は驚愕の表情で橘を見た。彼は涼しい顔で大男が転がっているのを見下ろしている。 「おっ、やるじゃん橘!」 ユウキが声をあげた。 「ぐ、偶然だ!」 宗像は歯噛みすると、再び突進して橘に襲い掛かった。 だが何度殴りかかっても、あるいは組みつこうとも、すべて躱され、かえって手痛い反撃を食らった。 顔面や脇腹に何発もの拳を受け、膝下にも蹴りがくわえられた。まるで宗像を弄ぶかのように。 すでに体のいたるところが打撃によって真っ赤に染まっていった。 橘も武術の達人なのだ。それは宗像にもわかった。だがどうしても解せないことがある。 「なぜだ!」 宗像は叫ぶ。 「俺はお前の感情を読み解けるんだ。何をしようとしているかは事前にわかる。なのに何故攻撃が当たらない?」 「なるほどな、荒巻の言う通り、お前は人の心を読むことができるようだな。だが残念ながらその情報はすこし遅い」 「なんだと?」 「まあ、冥途の土産に教えてやろうか。俺の能力は『未来予知』。ほんの2秒後だが、目に見えるものの未来を見ることができる。お前がいかに古武術の達人とはいえ、行動を前もって読まれてはさすがに分が悪いな」 橘の瞳がわずかにだが白く光っている。能力が発動している証拠だった。 「くっ、畜生!」 宗像は歯噛みした。おそらく自身の敗北を悟ったのだろう。 やけになって飛びかかったが、やはりそれも橘は予知していた。 横にすばやく飛びのくと、懐から寸鉄を取り出し、宗像の額に打ちつけた。 「ち、ちくしょう……」 宗像はそうつぶやくと地面に倒れこんだ。 「やれやれ、ようやく終わったな。なんかこう、体中のあちこちが痛むわ」 ユウキは体をひねったり、腕を回したりした。 「ユウキ、なんかオバちゃんみたいだな」 「な、なにを! まだ二十歳そこそこの女子にむかってなんて暴言を!」 「あ、あのう……」 小夜子が遠慮がちに近づいてきた。 「今日話してくれた、これからのことなんですけど」 「え? ああ今後の身の振り方だな? 前に話したのはもういいよ。実はな、奴らの弱みになるものをさっき手に入れたところでな」 「ああ、さっきのメールか?」 ユウキは橘のスマートフォンを覗きこんだ。 「ああ、調べれば発信者を特定することができる。そして警察の権力に介入することも」 「自分の身を守りつつ、なおかつ警察の情報を得ることができるんですか?」 「ゆくゆくはそうなるだろう」 「やったな橘。あーあ、なんかどっと疲れがでてきたな。甘いもの食って帰りたい!」 「じゃあケーキでも買って帰るか。今頃きっと安くなってるころだ」 「じゃあ橘の奢りな!」 「いいよ。何でも好きなものをどうぞ」 「いぇーい! こうなったら思いっきり食うぞ! どこまで食えるか限界にチャレンジしてやる!」 ユウキは腕まくりして車に歩いて行った。橘はそれを見ながら小夜子に言った。 「小夜子、お前も気をつけろよ。女はクリスマスケーキと同じ。25過ぎたらあんな風にどっと値打ちがさがるからな」 「なんやて!」 クリスマスの夜に、ユウキの叫び声が大きく響いた。 |
藁谷拳 Awdr/kQ7Ic 2015年12月26日(土)01時55分 公開 ■この作品の著作権は藁谷拳さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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2016年01月18日(月)01時44分 | 藁谷拳 Awdr/kQ7Ic | 作者レス | ||||
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拙作に多くの方の感想を賜り、本当にありがとうございます。またお疲れ様でした。 当初の想像より多くの方に見ていただき、また真剣な感想を寄せていただき、ただただ感謝でいっぱいです。 ただ残念なことに、本当の意味での拙作を披露することになり、汗顔の至りです。 作者レスではお一人お一人にレスをするのが本当ですが、レスの内容の大半がお詫びと言い訳になってしまいそうなので、総括レスとさせていただきます。 改稿する機会があればというような内容の感想がありました。 私もそのつもりで投稿しましたが、あまりに不評なのでやめることにしました。 またこちらでお世話になるときは、小説修行を積んで今より少しでもマシになった状態で……となりますので、その時はどうぞよろしくお願いいたします。
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2016年01月17日(日)18時45分 | タカテン yRNUcsqs0o | 10点 | ||||
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冬企画への参加、お疲れ様です。 拝読いたしましたので、感想を送らせていただきます。 (良かった点) ・ このタイトルなのにまさかの異能バトルもの 冒頭からタイトルを見て予想していたノリと全然違っていたので驚かされました。しかもいきなり街中でのドンパチカーレースやら、まさかの異能バトルやらと、思ってもいなかった展開に一気に読まされた感があります。 ・ 雰囲気がいい なんとなく漫画の『嘘喰い』を彷彿させる雰囲気で、個人的にとても好きです。ワクワクしました。 (気になった点) ・ どうしてこのタイトルにした? すみません、最後までタイトルと内容が一致しませんでした。いや、確かにおっさん無双で、クリスマスの夜なのですが、「私」って誰w このタイトルならせめて小夜子の一人称にして欲しかったと思います。 ・ キャラが多すぎる この枚数だとキャラが多すぎだと思います。実際、荒巻なんて見せ場は冒頭での偉そうな態度だけですよ。てか、そこで偉そうにしているだけに、あっさり宗像に大怪我(すぐに回復してしまうそうですが)させられて、完全に当て馬ですやん、彼。 また、荒巻が警視庁(?)を出てから、視点が橘に変わるのですが、ここから先の流れでちょっとキャラの把握に難が生じました(荒巻の印象もちょっと変わるし)。 長編ならばともかく、今回の企画ぐらいの枚数ならば、主人公サイドは橘と小夜子だけでいいと思います。 (自分ならこうするという無責任なアドバイス) 先述したように橘と小夜子の暗殺者コンビが、警察から依頼された無法者・宗像に立ち向かう、という話にしますかね。 最近のラノベはとにかくオレTUEEEEEEが絶対必須みたいですし、今作でもそこはしっかりと押さえられています。それでいて小夜子みたいなキャラを出すのは上手いのですが、個人的にはもっと彼女の存在を際立たせたいところ。 具体的に言えば、橘は未来予知の能力者で最強なのですが、小夜子の存在がハンデになっている、ってのはどうでしょうかね。小夜子の能力は便利ではあるものの戦闘能力がないから、橘は彼女を庇って戦わなきゃいけない。本来なら戦場に出すべきではないのだけれど、少しでも橘の役に立ちたいと願う小夜子の気持ちを断わるわけにもいかず……って感じでしょうか。 強いけれど苦戦を強いられる(でも絶対に勝つ)橘の格好良さと、そんな橘を危険を顧みずに慕う小夜子のいじましさにクローズアップすると、すごく化ける作品だと思います。 それでは失礼いたします。 執筆お疲れ様でした。
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2016年01月17日(日)07時23分 | つとむュー | 0点 | ||||
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冬企画の執筆、お疲れ様でした。 御作を拝読いたしましたので、感想を記したいと思います。 >暗殺者が再び動き出す。瞬く間にヤクザの命を掻っ切った。 タイトルから全く予想できない冒頭に、ドキドキしてしまいました。 >今から10年ほど前から少しずつ認知されだした新しい言葉だが、彼らは通常の人間とは異なる能力をひとつだけ、生まれた時から備え持つ新人類だ。 予想外の異能者バトル。 最初は楽しめたのですが、その能力とストーリー展開に「?」と感じる部分が多く、 だんだんと興ざめしてきたのは残念でした。 >察知できる範囲はおよそ10メートル。 >「さっきまでと比べて、移動のスピードが増しています。ひょっとすると、バイクか自家用車に乗ったのかも。……あっ、こっちにむかっています!」 例えば、これって10メートルの範囲をはるかに超えていますよね? >「オレは横になっている間に考えたんだ。奴は人の心を読むことができるんじゃないかって」 もしそうなら、S記念病院に逃げ込むことも読まれてしまっていると思うのですが…… >俺の能力は『未来予知』。ほんの2秒後だが、目に見えるものの未来を見ることができる。 うーん、宗像は、『未来予知』に基づく橘の感情をリアルタイムで読み取ることができるのですから、 『未来予知』のアドバンテージって、全く無いのではないでしょうか? あと、やっぱり枚数に対して登場人物が多すぎだと思います。 自分のような物覚えの悪い人間には、途中で誰が誰だかわからなくなってしまいました。 >「これしきのワイヤー。断ち切れないとでも思ったか?」 コメディだったら、こういうセリフもアリだと思うのですが、 結構シリアスな展開で、宗像も自分の命がかかっていますからねえ……。 さすがに、これは口には出さないですよね? いろいろ書いてしまいましたが、異能者バトルにハラハラさせてもらった作品でした。 能力に関する部分をもっと吟味してもらえれば、さらに面白くなったのではないかと思います。 拙い感想で申し訳ありません。 今後のご活躍に期待しています。
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2016年01月11日(月)23時16分 | 青出 | 10点 | ||||
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こんにちは。感想を書かせていただきます。クリスマス×裏社会×異能力という意表を突く作品で、楽しませていただきました。 ここが好きです ○世界観 現実の東京を舞台に、異能力を持った人間たちが織り成すバトルものでした。東京の地理が具体的に書かれているので、キャラクターたちの行動にリアリティがあって面白かったです。ヤクザものですが、異能力を絡ませることによって、ライトな感覚で裏社会の仕事を楽しむことができました。 ○キャラクターたち マンションの一室に住む異能力を持った男女たちが、それぞれ特色豊かに描かれていました。異能力も適度に制限があって上手いなあと思いました。キャラクターとしては、とくに、やさぐれユウキが好きです。『めぞん一刻』の朱美さんや、小説『ブルー・ベル』のベルのような、退廃的な魅力を感じました。 ○盛り上がり 倉庫襲撃~暗闇の中でのバトルは手に汗握る展開でした。ストーリーの中で、きちんと盛り上がりがあって、見せ場になっていたと思います。もちろん、そこにたどり着くまでの情報提示(主人公たちの性格、敵役の生い立ち)があってこその盛り上がりですので、ストーリーの緩急がよく作られていたと思いました。 ここが気になりました ○異能力について 読者が世界観に没入するために、もう少し早く「この作品世界には異能力が存在する」ことを示してもよいのではないでしょうか。はじめのVTRの内容をもっと異様なものにして、普通の人間ではありえない動き→異能力者では?→同じ異能力者に暗殺を依頼しよう、というような展開に持ち込めばいいのかなと思いました。 それから、難しい問題だと思いますが、異能力の説明を読んで、X-MENやジョジョを思い出してしまいました。この作品ならでは、というような売りがもう少しあれば、さらによくなると思います。 ○展開について いくつか疑問がありました。 ・“むしろ警察が困るようになって溜飲をさげたほどだ。”というように、橘サイドと警察の間に遺恨があるような記述が見られますが、なぜなのかと思ってしまいました。とくに背景エピソードがなければ、むしろ奇妙な友情関係とでもしておいたほうがよい気がしました。 ・荒巻を襲撃したあと、なぜ宗像はその場を去ったのでしょうか。 ・枚数的に仕方がないのですが、宗像のプロフィールは橘たちに調べさせたほうが面白いような気がします。また、ありがちかもしれませんが、宗像の子供時代を心優しい少年が悲惨な目にあったというようなことをエピソードで語って、敵として魅力的にすると、作品に情感が生まれるのではないかと思います。 ○以下、気になった文です。 “周りにいる腰巻たち”→“周りにいる取り巻きたち” “男は若者を省みていった。”→“男は若者を顧みていった。” “警官もそれを根拠に居高々と振舞えた。”→“警官もそれをよりどころに居丈高(?)に振舞えた。” “「~この僕を歩って帰らせるつもりですか」”→“「~この僕を歩いて帰らせるつもりですか」” “それには無視して橘は台所に入っていった。”→“その言葉は無視して橘は台所に入っていった。” “同姓が嫉妬するほどの~”→“同性が嫉妬するほどの~” “暗殺家業”→“暗殺稼業” “小夜子は震える手で望遠鏡を構えた。”→双眼鏡? “警察官特有の偉そうな命令口調だ。”悪いことをしているので当然では……?と思ってしました。 “一般の病院には連れてこれない怪我人”→“一般の病院には連れてこられない怪我人” “ソル○ック”→伏字にする必要がない気がします。 “宗像登は46年前、地方の中核都市に一人息子として生を受けた。~母親は高校を中退したフリーターだった。”46年前には「フリーター」という言葉はないのではないでしょうか。 “学歴のなさから周囲に馬鹿にされていること”→トラック運転手は立派な職業だと私は思いますし、大学進学率の低かった46年前ということを考えると、馬鹿にされるほどの家庭状況ではない気がするので、少し違和感がありました。 “痩せほそろえていた。”→“痩せおとろえていた。” “男の背後にある壁が、円型に切り刻まれて、地面に崩れ落ちた。”なぜドアから入らなかったのでしょうか。 “出血がはげしく吹きすさむ。”→“血がはげしく吹きすさむ(すさぶ)。” “宗像がユウキを追う。いきなりバイクが何かにぶつかったように弾け飛んだ。夜で見えにくかったが、細いワイヤーが張られていたのだ。”なぜ前を走っていたユウキははじけ飛ばないのでしょうか。 以上です。 楽しませていただきました。世界観など好きでしたので、今後のご活躍を期待しております!
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2016年01月11日(月)23時06分 | ピューレラ | 0点 | ||||
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全体的に、調べや知識が浅いと見受けられてしまうために 内容が幼く感じてしまいます。 たとえば「極右の構成員」 過激な右翼団体として描こうとされたのかもしれないのですが 極右としてしまうと、その言葉をよく見聞きする人たちにとっては 街宣車で運動する人たちではなく、思想家だったりその思想を持った作家さん、政治家などを 指すイメージの方が強いと思うので何か違和感を感じてしまいます。 そして橘の話し方も中学生のような感じで 殺し屋(?)というのがコメディを通り越してギャグなのか?と少し分からなくなってきてしまいます。 ところどころの言葉の使い方もあれ?と感じるところがありました。 >橘の叱咤が飛ぶ。 などがそれです。叱咤は、叱るだけではなく励ますとか元気付けることする意味合いがあるので ここで使う言葉としては不適当に思います。 >地獄耳の橘はユウキを睨みつけ の地獄耳も意味が違いますよね。 本来は、人の秘密などをいちはやく聞き込んでいることという意味です。 作者さんの言いたい感覚は分かるのですが、言葉の使い方や 本来の言葉の意味が違うものが チラホラあるため、やはり作品がそして作者さんが幼稚に見えてしまいます。 もしかしたら「それぐらい」とお感じになるかもしれませんが せっかくの面白いキャラクター、設定が勿体無いと思うのです。 【好きだった点その1】 特殊能力。 最初はハードボイルドな武闘乱闘物かと思いましたが なるほど、異能力があるのかと興味を惹きました。 【好きだった点その2】 ユウキのキャラ関西弁。 この短編内のキャラ量でも、ユウキはこの喋りで見失うことは無いですし キャラもたっていたと思います。
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2016年01月09日(土)02時08分 | 99kg mXR.nLqpUY | 10点 | ||||
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>「たぶん、こいつはステロイドをやっとるな。それも相当な量の。そうでないとこの動きは説明できない」 ステロイドをやった事はないので分かりませんが、瞬発力が上がるもんなんでしょうか? それでも説明自体は特殊能力で説明できるはず。それがないと言うならここで能力の説明があるべきでは?(能力は一つなのだから) 普通は「そういう能力か?」と疑う方が先ではないかな、と思います。 >察知できる範囲はおよそ10メートル。意外と狭いように思えるかもしれないが、姿をさらさずに追跡できる、とても貴重な能力だ。 実際かなり狭いですね。 メタルギアをやった事がある人は分かると思いますが、実際10メートル以内を姿を晒さずに尾行するのはまず無理です。普通の人間がチームワークで尾行する方が安全確実。 ここで重要なのは射程圏外に出た時に能力が解除されるか否かですが、一旦離れても大丈夫のようですね。 >「はい、しっかり捉えました。存在も確認できています」 この時点で確認できていると言う事は、マーキングの時は10メートル以内のようです。 実際車を走らせてからも宗像の動向を見ていますから、車はほとんど玄関の前に停めていた事になります。 そんな距離から人ん家を望遠鏡で覗き込む女。ホント見張りは何やってんでしょうね。 しかも走り出してすぐ近くで停車。これも補足できているので10メートル以内。 宗像は追っかけようと急いで中型バイクのエンジン掛けて走り出し、すぐ角を曲がったら「おるやんけ!!」とビックリしたでしょうね。足で走った方が早かった。 それにバイクのエンジン音がすれば小夜子でなくとも分かります。 しかし凄腕の殺し屋が軽機関銃でもって至近距離から撃ち損じるとは……。 >幸いにも後進のスピードが勝り、 何に勝ったんでしょう? 弾丸速度のはずはないし……。 >弾丸はフロントガラスを突き破るだけで通り過ぎた。 その道筋に頭があったら死んじゃいます。 >自動車は二輪車を引きずりながらも大通りに差し掛かった。 軽自動車が、中型バイクを引き摺ってるんですか? >荒巻はギアをドライブに戻すと、対面してくるバイクをも跳ね飛ばして逃走した。 それ多分関係無いバイクですよね? 大通りを走っている普通の。宗像のバイクは引き摺っているんだから自動車の後部か側面にあるはず。それに正面から跳ね飛ばしたらさすがにもう走れないだろうし。 >緊急逃走用として別のアジトを用意してある 避難用とか潜伏用とかではなく逃走用のアジトってどんなもの!? 逃走用の乗り物を隠してあるんでしょうか。 >10メートル後方にまで迫っていた。荒巻はアクセルをさらに踏み込んだ。 お互い傷ついているとは言え軽自動車で中型バイクを振り切るのは無茶です。 対向車をも躊躇なく跳ね飛ばすのに、急ブレーキかけて後部に追突させないなんて。なぜ足を奪ってから逃走しないのか。 しかしその後どうやって逃げたのかすごく気になる。その後の戦いからどうやって逃げ果せたのか? それが荒巻の能力なのか!? それともアジト? 気になるぞ逃走用アジト。何があるんだ逃走用アジト。 能力者が認知され、殺し屋が普通に横行している世界で警察はあまりに無力ですよね。 警察にこそ能力者が集いそうなものですが、無法地帯にしてはあまりに世界が普通。 街中を堂々と暴走する者が能力者でない確率は極めて低い。それがただの鉄砲の弾でやられる装備で後を追うなんてあまりに軽率、無防備。警官の遺族から責任問題で訴えられる。 >「多分、白バイ警官が死んだので、相当腹に据えかねるものがあるのだろう。こんな証拠を残すようだとな」 もうただのギャングです。そういう世界だと言ってしまえばそれまでですが。 「おっさんとクリスマスと私」 おっさんは宗像かユウキだとして、私ってどれ? 当初荒巻がそれっぽかったんですが、最後の戦いにも参加しないし、結局何の能力だったのかも分からない。 荒巻も何の能力かも分からない相手に不用意に近づくのはあまりに軽率。仲間には感知能力者がいるんですからね。しかも簡単に見つかってるし。 相手の能力を見抜いた役割くらいですが、射程範囲までは分からないはず。 最後の罠では小夜子はどこにいたんでしょうか? 10メートルの範囲ギリギリの場所から二人に位置を教えていた事になるんですが、真っ暗闇の中、音声通信だけでどうやって位置を伝えていたんでしょう? 宗像を中心にして、橘達と反対側にいたのでは小夜子からは橘達の位置は分からない(マーキングしていても距離は二十メートル離れますからね)。 橘達と一緒にいたんならそもそも通信の必要がない。ていうか一緒に行動すればいいと思うんですが。 >(くそ、なぜだ。なぜ俺の居場所がわかる?) どうして居場所を探知されていると考えたんでしょう。 要するに相手が見つからないんですよね。 火薬が充満している中に誘い込まれて、中に相手がいない。いや、逃げようよ。爆発するぞ。 音や気配で相手がいる事が分かるんなら、そりゃ能力以前の問題だ。相手にも条件は同じなんだから。 気配で位置を察知する歴戦の殺し屋と、音声で相手の位置を教えられながら逃げている者の鬼ごっこなんて勝負が見えている。 作者の中では実際にはここはああでこうでとイメージがあるのでしょうけれど、それが描写されていないので想像するしかないんですね。 そもそもの行動が軽率だと、よきにはからうより面白おかしい突っ込みに転がってしまうのが読者の心理という事です。 それ以前に殺し屋に挑んでくる時点で能力者と考えるべきでしょう。 全く同じ能力がなくても、暗視や聴力など、位置を知る能力なんてなんぼでもありそうだ。 皆に言える事ですが相手の能力を確かめもせずに軽率すぎる。 展開にリアリティがないですが、それは突っ込み所として読んでいて楽しくはあるんですけどね。 キャラクターが魅力的なので(荒巻以外)、ギミックを楽しむものではないとすれば読後感は悪いものではないです。
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2016年01月04日(月)11時32分 | モンハンほも | 0点 | ||||
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拝読いたしました。 まず最初に。ハードボイルドですなあ。クリスマスと美少女というテーマでこのような作品が読めるとは思いませんでした。 ……とは言いましたが。すいません、感想については正確な評価ができません。 なぜか。登場人物が多すぎです。誰がどのキャラでどのセリフを言っているのかさっぱりわかりませんでした。なんとなくで一読して「あ、異能系の話か」と理解した上でもう一度読んだのですが――すいません、わけわかりませんでした。荒巻って誰よ。橘って誰よ。ユウキ?小夜?もうチンプンカンプンです。ハヤカワ文庫よろしく冒頭に登場人物一覧でも付けといてください。 あと、異能系の話によくありがちなミスも見られました。能力制限についてです。異能で何ができて何が出来ないのか。作者様の中では確固たる設定があるのでしょうが読み手からしたらなんでもありじゃんと思ってしまいます。そこの記述も欲しかったです。 と、ボロクソに書いてしまいましたが、作者様のこだわりというか、熱意のようなものは伝わってきました。今後のご活躍に期待しております。お気を害されたら申し訳ございません。 拙い感想で申し訳ございません。 以上、失礼いたしました。
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2016年01月04日(月)20時43分 | いりえミト | 10点 | ||||
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こんにちは。 御作『おっさんとクリスマスと私』を拝読したので、感想を書かせていただきます。 現代版、そして特殊能力版の必殺仕事人ってな感じでしょうか。ちょっと違うかもしれませんが(そもそも私は必殺仕事人を観たことがないので、全然違ったらごめんなさい)、そんな感じのシリーズもののワンエピソードという印象でしたね。 能力の設定などは確かによくある感じなのですが、しっかり作りこまれているんじゃないかと思いました。 文章も安定していてよかったですね。読みやすいですし、前半のチェイスシーンなどは迫力があったと思います。 各キャラクターも個性豊かで、特に敵の宗像登については生い立ちも語られているなど、こちらも作りこまれている印象でした。 ただキャラの数がちょいと多いかなとも感じました、主要キャラは宗像を含めると5人、端役も新田警視殿などかなりの人数が登場するので、その分、一人一人の印象が薄くなっている気がしました。 敵の宗像は過去話まで書かれているのに、主役の4人については、それほど詳しく書かれていなので、そのあたりもちょっともったいないかなと。やっぱ、敵のことよりも主役側をもっと知りたいと思いました。 また、この枚数だと、主役が4人というのは多い気がするので、もう少し人数を絞ってもよかったかもしないと感じました。(あくまで、この作品単体で考えた場合ですが) 今回は美少女企画ということもあり、「小夜子の成長」というのが物語のポイントになっていると思います。 なので、もっと小夜子を中心にして話を進めるのもありだったかも、と個人的には思いました。 まとめとしては、文章、ストーリー、キャラのいずれもが安定していた作品だとは思います。 ただ、キャラの多さなどを考えると、連作短編になってさらに効果を発揮する内容かなと思いました。 あくまでも本作単体で考えると、キャラが多くて印象が薄くなってしまう、ストーリーに特別大きなインパクトがない、などを感じてしまったのも、正直なところです。 逆に言えば、連作短編や長編で書けば、かなり面白くなりそうな作品だと思いました。 私からは以上です。 執筆おつかれさまでした。
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2015年12月31日(木)21時29分 | ウサリアス | -10点 | ||||
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どうも、感想専門のウサリアスです。 イマイチですね。 この手のジャンルは多数の作品が紹介されているので、作中に出てくるの能力や使い方だと、捻りがなさすぎます。 また、悪役もいまいちです。冷酷な暗殺者の割には、セリフが多い、過去描写を入れて、冷酷さが半減、おまけに能力や使い方がありきたりだと、イマイチ感が増しますので、あまり喋らせないのと、能力の使い方などをもっと工夫してください。
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2015年12月31日(木)01時46分 | おとぎの国のアリス | 10点 | ||||
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拝読いたしました。 読後の率直な感想といたしましては―― 「うーん…わかるようで、わからん――」 申し訳ありません。このような感想でした。 勝手な憶測で申し上げますと、今作品は無理矢理圧縮されているのではないでしょうか?どこか、つぎはぎだらけのイメージがあります。開示したものの、拾われていない設定や、要素がそのまま放置されて終わってしまったような…? おそらくは、原稿の枚数制限が大きく影響しての結果ではないかと、推測します。 明らかに、50枚では収まり切らない内容ですよね。なんとか50枚以内に収めようと苦心されたのではないでしょうか? かく言う私自身は、かつて同じような経験をしています。読みながら、どこか共感めいたものを感じてしまいました。 50枚って、描けるようで描けないんですよね。 登場人物は、読者からしっかりと認識されるレベルまで描きこもうとすると、よほど精錬された文章でないかぎり4人が限度だと思ってます。3人だと無難な線でしょうか。 このことが予めわかっている状態で描き始めますと、無用な描写を避けながら執筆を進めますのでどうにか収まります。逆に、流れのままに執筆をしますと、大幅な改稿、削除、尻すぼみ、急展開、いずれかの結果になりがちだと思っています。 今作品に登場する人物は、敵役も含めて5人。 この時点で作者様が設定された内容は、大きな壁にぶち当たっていることになりますよね。 実際のところは私にはわかりかねるのですが。読んでいて?となった箇所も、作者様の手元にある完全版の原稿には、きちんと記されているのかもしれません。 この辺りの判断が付きませんので、思ったことをそのまま残していきたいと思います。 今企画に挑戦されるにあたり壁となったのは、先に述べた通り、「登場人物の多さ」と「設定の複雑さ」にあると思えました。どちらかを優先すべきなら、「設定」とくに作品の肝である「能力者」で決まりでしょう。荒巻と橘はどちらか一人で、橘を残す方がいいんじゃないでしょうかね? それと、場面切り替えの回数も減らしましょう。切り替えのたびに状況説明が必要になりますので、無駄に執筆量が増えます。 事実―― 「大丈夫ですか? 顔が真っ青ですよ」 小夜子が心配そうな表情で出迎えた。 偵察?を終えた荒巻が、小夜子と合流するシーンですね。 どこで合流したのかの描写がないために、いきなり車で走り出されてしまいますと、「ええっ!?」ドウイウコト??と、混乱してしまいます。 それと、もう一つ―― 「とつげきー、隣の晩御飯ー。ねえ奥さん今日のおかずは何ですかー」 壁の穴からひょいと顔を見せたのはフルフェイスヘルメットを被った女だった。 ラストシーンの一幕。バイクに乗ったユウキが、突如登場するシーンです。 どうして、ユウキではなく女と描写されたのかがよくわかりません。そもそも、メットで顔の見えない状態で、どうして一目で女と認識できるのか? 加えて、ユウキの人物描写が少ないために、読者のユウキに対するイメージもあやふやなんですよね。口調もあまり女っぽさを感じませんから。→よくわからない。などと、なってしまいます。 終盤で、敵役宗像の語りのシーンがありますが、むしろ主人公サイドの人物描写をして欲しかったですね。振り返ってみますと、今作品の主人公は誰だったのでしょうかね?→よくわからない。 描きたいですよね。気持ちはすごくよくわかるんです。宗像を描写することで、作品に奥行きのようなものが加味されますから。 ですが、50枚という制限の中では、描く内容にも優先順位が必要なんですよ。 これは、一度でも経験しますととても勉強になります。もし初めての経験でおられましたら、ぜひ次回作で活かしていただきたいと思います。 最後に、設定上不要だと思えたもの。 エピソードに盛り込まれながらも、回収されなかったもの。登場しなくても、特に問題とならなかった部分のお話ですね。 まずは―― 「特殊メイクだ。俺の持っている伝手のひとつに、それ専門のエキスパートがいる。そいつが携われば素性が割れないばかりか、年齢や性別が違う人物になりきることが可能だという」 警察からの口封じ対策を講じるシーンです。 最後の最後で触れられはしますが、無理矢理回収した感が強かったです。むしろ、最大の見せ場であるラストバトルの余韻が、台無しになってしまっている気もします。 ついでにお話ししますと、序盤で登場した主人公たちの拠点。高層マンションの八階とありましたが、いっそのことさびれたボロアパートでもいいんじゃないでしょうか?引き払う際に、身一つで逃走しやすいような気もします。殺し屋が、家財道具をイチイチ引越しして回るというのも…。ユウキなんかは、露骨に愚痴ってそうですしね。キャラ造形する際に、見直してみてはいかがでしょうか。 続いては、コレですね―― 「ああ、ついでにGPSを車につけておいたぜ。それから宗像にすぐ近くまで近寄ってツラを拝んできた」 後半の部分はのちに繋がっていきますが、GPSはまったく機能していませんでしたよね。宗像は、終始バイクで襲撃して来ますし。 重箱の隅をつつくようで恐縮なのですが。 ラストバトルにおいて、宗像のアジト、隠れ家かな?に、あれほどまでに仕掛けが講じられていたのも、やや不自然に思えました。演出上のことだとは思いますが、あのような策を講じるよりも、能力者同士のバトルを前面に押し出すべきではないでしょうか。その方が、読者に与えるインパクトも大きいと思いますよ。最大の見せ場のはずですからね。 すみません、思いついたままに勝手なことを書き連ねてしまいました。 もし、改稿されるようなことがあれば、参考になさっていただければ幸いです。 執筆お疲れ様でした。 私も勉強中の身です、お互いにがんばりましょう。
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2015年12月30日(水)17時23分 | 鷲飼ゲル YGyum30nrk | 0点 | ||||
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作者さんへ 作品を拝見しましたので、感想を延べさせていただきます。 最初に、テーマについては作者さんがメッセージ欄で懸念を表面しておられましたが、今回の条件を充分に満たしていると思いますよ。 おっしゃるように本編との絡みは薄く見えましたが、私が読んだ限りではマイナス要素にはなりませんでした。 本作を読むきっかけとなったのは「クリスマスと美少女」というテーマです。 実は私も企画に投稿しているのですが全く同じテーマを使用しているので、本作に興味を惹かれた次第です。 さて作品そのものの感想ですが、作者さんの紹介通りバイオレンスなアクションが展開されていましたね。 冒頭の事件発生・調査・ラストの戦闘という流れが力強い表現で描かれていて、三人称を基本とする語り口は作品の雰囲気にとても合っていると感じられました。 また、アクションシーンでは先の展開が読めず、次にどうなるのかと思いながら読むことができました。 けれども残念だったのは、描写不足による分かりにくさを感じたり、言葉の使い方が間違っているのではないかと思われる箇所がやや多く見られたことです。 違和感を覚える引っかかりに何度も遭遇してしまうことで今ひとつお話に乗りきれず、結果として作品が本来持つであろう勢いや迫力を楽しみきれませんでした。 色々と決めつけたような物言いをしてしまいましたが、これらはあくまで私個人の感想ですので作者さんの取捨選択を是非になさって下さい。 ※参考までに以下には一部ですが、私が読み進めていて引っかかりを感じた箇所を記載しておきます。 作者さんに役立つ部分があれば幸いです。 ◆言葉の間違いではないかと思われる箇所の例 >腰巻 → 「取り巻き」のことですかね? >家紋 → ヤクザなら「代紋」 >痩せほそろえていた → 痩せ衰えていた、痩せ細っていた ◆間違いではないが、違和感を覚えた言葉や用語の例 >全ての作業を含めても10分とはかかっていないだろう 警察関係者の台詞なら「犯行」の方がしっくりくる印象です。 >剣道・柔術などあらゆる格闘に通じた殺しの熟練者だ。 例にあげられた剣道や柔道が殺人術ではないため、説得力に欠ける印象。 ◆描写不足で分かりにくさを感じた箇所の例 >男がカメラの視界から消えた瞬間。 この視界から消えた「男」が誰なのか分かりにくかったです。 おそらく子分の一人だと思うのですが、直後に暗殺者の「男」が登場するので紛らわしい印象です。 >荒巻尊は行儀の悪い恰好で椅子に座っていた。 どんな恰好なのかイメージしづらかったです。 ここを明確に描写しておくと場面をすんなりイメージできる上に、キャラクター性を感じ取やすくなるのではないかと思いました。 <例> ・椅子に浅く腰掛けて、ふんぞり返る(ヤンキーっぽい) ・足をテーブルの上に投げ出している(ワイルドな感じ) ・デスノートのLみたいに椅子の上にしゃがむ(変人風) >ユウキはバイクを走らせながら後ろを振り返った。 >ユウキはバイクを急発進し、かろうじて回避した。 ユウキがバイクを停止させた描写がないので、「急発進」を見て「すでに走ってなかったっけ?」と疑問に感じてしまいました。 「急加速し」なら、しっくりきます。 以上です。
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2015年12月30日(水)02時07分 | ハイ s7d/2ml3o. | 10点 | ||||
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拝見させていただきましたので、感想をおいていきます。 まず、気になった点や良かった点を見ていきます。 >「ほら、車代ですよ。この僕を歩って帰らせるつもりですか」 ●誤字かと思います。 >彼女の能力は「透明な追跡者」と呼ばれる。 とある人物を追跡したい場合、能力によってその人物にマーキングする。すると、その人物がどこにいるのか、目で確認しなくても能力で察知することができる。 ●これ、ハンターハンターですよねw 寂しい深海魚(ウインクブルー) >(まさか、俺と同じ能力者か? いや、そんなことはないはず。特殊能力は指紋と同じだ。人によって持っている能力は異なる。二人とも同じ能力をもっているなど、絶対にありえない!) ●んー、能力者がいる世界で暗殺者をしているのに思考の幅が狭いんじゃないでしょうか? >『未来予知』 ●実はどんな能力が出てくるのか楽しみにしていましたが、宗像さん以外の能力はどれも既存の作品にあるものばかりだったので、その点がちょっと残念でした。 もっと実験的なばかばかしい能力が見たかったですね。 ●文章 おおむね過不足ありませんでした。 ●キャラ 読みなれたり、人数が限定されている状況だと混乱しなかったんですが、一室にみんなが揃っての会話の場面はかなり混乱しました。ほぼみんな初出でしたし。 ユウキや小夜子はわかりやすいんですが、橘と荒巻がちょっときつかったですw キャラ的にもユウキと小夜子は立っていたと思うんですが、橘と荒巻の違いをもっと強調して欲しかったように思います。 ●テーマ そうですねw まったくと言っていいほど関連性がなかったですね。 ●ストーリー この枚数でアクションをするなら、まあこれが限界なのかな、という感じでした。 けれど、私としてはこういう挑戦作的なものも読みたかったのでそれなりに楽しませてもらいました。 ただ、私的には宗像を袋にしたような感じでいまいち盛り上がらなかったように思うので、枚数的にも、もう少し人数を絞って展開を練られたほうが良かったように思います。 あるいは、冒頭での警察との取引の場面とかを削ればもっと良いアクションが出来たんじゃないでしょうか。 この点、もったいなかったと思いました。 あとは……タイトル、もう少しなんとかなりませんでしたかw 見返すと「おっさんとクリスマスと私」とありますが……私ってユウキさんだったんでしょうか? ちょっと読んだだけではわかりませんね、これ。 それでは、執筆お疲れ様でした。 共にあげていきましょう!
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2015年12月29日(火)22時51分 | 筋肉バッカ 9.WICozezU | 10点 | ||||
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こんにちわ。読ませていただきました。 殺し屋さんたちのお話しですね。メイン四名のみなさん、個性があって良かったです。宗像もなんというのかラスボス感が出てました。どこか大人っぽい雰囲気漂う異能バトルものという印象を受けました。 気になった点です。 メイン四名の関係性、殺し屋仲間という情報以上のものがなかったのでそのあたりの説明があればよかった気がします。 それと、宗像とのラストバトルは橘さんのチート能力スゴスとは思ったのですが、中盤まで強キャラ然としていた宗像が結構あっさりやられてしまったので、味気ないとも思いました。宗像の見せ場というと、表現が適切ではないかもしれませんが、もう少し粘ってから倒されて欲しかったです。 テーマはぶっちゃけギリギリの関連性かなと思いますw 本当に最後だけなんで。まぁ、参加者がいてこその企画ですし、私は楽しませてもらったからいいのですが、人によっては?な人もいるかと。 以上です。 執筆おつかれさまでした。
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合計 | 12人 | 60点 |
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