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雨は夜に雪になる
◇あと6日

 真黒(まっくろ)と言っていい夜空から、しんしんと粉雪が降り注いでアスファルトを白く染めていく。
 僕は足跡の付き始めた地面を踏み締(し)めて、早くもイルミネーションで輝き始めた街を歩いていた。
 あと一週間でクリスマス。
 彼女イナイ歴十六年の僕は、着実に一人クリスマスの記録を伸ばしつつあったのだけど、今年遂に記録保持者を卒業する事が出来たんだ。
 そう。僕にも彼女が出来た。
 名はユキエ。
 クラスメートが珍しく遊びに誘ってくれた集まりの中にいた。
 クラスの女子の友達で、学校は別なんだけど、皆とは顔馴染みのようだった。
 よくやけた肌に茶色に染めた髪。くりくりした目に大きな胸。くびれた腰にスラリと長い足。
 それらを惜し気もなくさらけ出し、どんな相手にも明るく接した。
 もちろん僕にも。
 都合良く二人になった時にダメ元(もと)で告白したんだ。
 当然のように断られると思っていた僕は完全にパニックに陥(おちい)ってしまった。
 それがつい先日の事。
 未(いま)だに信じられない僕は、夢でも見ているのではないかとフラフラ流されるように初デートに出てきたのだけれど……。
『ごっめ~ん。急に外せない用が出来ちゃってさぁ』
 こういう時、外せない用って何? とか問い詰めちゃいけないとモノの本で読んだ事がある。
 焦るあまりに一度もデートせずに破局……、とかいかにも僕らしい結末だ。
 ここは男らしく懐の深い所を見せなくては。
 彼女は人気者なんだ。そもそも僕なんかがデートの約束を取り付けるだけでも奇跡なんだ、と早くもカップルで賑わう白い街を一人歩く。
 こうしていると、やはりあれは夢だったんじゃないだろうかと思う。
 彼女が欲しいと思い詰めるあまりに、僕の脳は空想の彼女を作り出してしまったんではないだろうか。
 よく小説やドラマなんかで、主人公が話していたのは現実には存在しない幻だった……、なんてオチがあって、「ファンタジーだなぁ」と笑っていたもんだけど、正直今は笑っていられない。
 いよいよ僕もそっちの世界に仲間入りか?
 いや、むしろ空想なら何したっていいんじゃないか? と半ば開き直って通りを歩く。
 繁華街のほぼ中心に位置する広場には大きな樹が立っている。
 この街のランドマークであり、クリスマスには電飾で飾られるんだ。
 毎年ここへ来るのが通例だった。
 待ち合わせに使われそうなものだけど、ベンチも何もないせいかあまり人がいるのを見た事がない。
 今回は「ごめんね、今年は一緒にいてあげられなくて」と樹に謝っている姿を何度も頭の中でシミュレーションしたのだけれど……。
 いや、今日はクリスマスまでに初デートを済ませようとしただけだ。
 僕がクリスマス当日初デートだと、きっと飲まれてしまうだろう。
 最悪、当日本番でもいいさ。忙しい彼女もさすがに当日はすっぽかさない。
 などと思いながら樹に近づくと、先客がいる事に気が付いた。
 それは少女。ユキエとは対称的な清楚な感じのする、美しい少女だ。
 病的なまでに色が白く、腰まで届く長い髪も心なし色が薄く見える。
 何より雪が降る季節だと言うのに夏のような軽装だ。
 その服も生地が薄いのか肌が透けて見えるような気がする。
 そんな美少女が樹の前に立ち、てっぺんをじっと見つめていた。
 雪の妖精でも見たようにしばらく呆けていたが、はっと我に返る。
 周りに行き交う人は皆彼女が見えないかのように避けて歩いていた。
 そりゃそうだろう。物(もの)の怪(け)の類でなければ完全にアブナイ人だ。どちらも近づかないに越した事はない。
 僕は白い息を手に吐きかけながら、通行人と同じように何も見なかったように通り過ぎた。


◇5

 次の夜。
 昨日に増してクリスマス気分で盛り上がる街を一人歩いていた。
 今日は昨日の埋め合わせデートだったんだけど……と先程中身を確認した携帯電話を握りしめる。
 今回も彼女は来ない。
 いわゆるドタキャンというやつだけど、そもそも僕は待ち合わせをするという事がない。今までドタキャンされた事すらなかったんだ。
 これからは大手を振って周りの友達のように「ドタキャンされちゃってさぁ」などと言えるじゃないか。
 なんて思いながら賑わう街を歩いてみるけど、ホント言うと少し心が寒い。
 何の気なしに昨日と同じルートを歩いていた僕は、広場が見えた所で足を止める。
 そこには昨日と同じようにあの少女がいた。
 まさかずっと立っていたわけじゃないだろうけど、一体何をやっているんだろう。
 ぼんやりと眺めていると、少女はこちらに気が付いたように微笑みかけ、また樹の上を見た。
 あまりに普通の笑顔だったので、僕は少し警戒を解いて少女に近づく。
 少女に忍び寄るみたいに後ろから近づき、彼女の視線の先を窺(うかが)った。
 樹はかなり高いので、よくは見えないが何もない。
 クリスマスには電飾されるけど、今はただ少し雪を被せた葉を繁らせているだけだ。
 何か動物でもいるのかな、としきりに目を凝らすが動いている気配もない。
 首を伸ばしていると少女が振り返り、僕に場所を空けるように横にズレた。
 あ、いや。そんなつもりは……、と思ったけど僕の為にわざわざ空けてくれたのに悪いか。
 それに、そこからなら何か見えるのかもしれない。
 僕は少女の隣に立ち、同じように樹の上を見る。
 やはり何も見えない。むしろ角度がより上になって見難(みにく)いくらいだ。
「何があるの?」
 僕は思わず聞いた。
「見えない?」
 少女は宙を見つめたまま応える。
 何が見えるんだ? と必死に目を凝らすが何も見えない。
「何も見えないよ。何かいるの?」
「妖精」
 妖精……、を探そうとしてハッと少女を見る。
 やっぱりアブナイ子かな……、と彼女から少し離れる。
 というより、こうやって通行人をからかっているんだろうか。
 訝しげに少女を見るが、彼女は気にした様子もなく樹の上を見つめている。
「人は死期が迫ると妖精が見えるようになるんだよ。キミに見えないなら、それはいい事よ」
 この子にはその妖精とやらが見えて、死期が迫っていると言うんだろうか。
 確かに病弱そうではあるけれど、この寒い中平然と外に立つ少女に死期が迫っているようには見えない。
 むしろもう死んでいて、僕が幽霊を見ているんだとした方がまだ真実味があるくらいだ。
 または僕が夢を見ているのか。
 これ以上変な事を言われる前にこの場を去りたかったが、話しかけておいて突然立ち去るのも変な感じだ。
 何か一言残してから去るのがいいんだろうか。でも何と言えばいいんだろう。
 それにこのまま立ち去って明日の朝事件になっていても後味が悪い。
 居心地悪く少女に視線をやるが彼女は一心不乱に樹の上を見つめている。
 少女の体に雪は付いていない。つまり出てきてそう間もないと言う事だ。
 きっと近くの店の子か何かで、そのまま出て来ただけなんだろう。
 僕がここに立っているから、彼女も戻るに戻れないのかもしれない。
 ここは何も言わずさっさと立ち去るのが親切と言うものだろう。
 僕は足音を立てないように数歩下がって踵を返すと、そのまま何も言わず立ち去った。


◇4

 翌日。
 寒さにさほど変わりはなかったけど、僕は上着を一枚多めに着て家を出た。
 もちろんユキエとのデートに行く為だ。
 今日はもう待ち合わせの広場近くにいるらしい。すっぽかされる事はないだろう。
 今は学校の仲間と買い物の最中なんだそうだ。
 それが終わり次第……、なんだけどそのままカラオケになだれ込んで盛り上がってしまったからもう少しかかる、と今連絡があった。
 僕は携帯をしまうと、自然に昨日と同じルートに歩を進めた。
 そこには雪のように白い少女がいた。いつものように樹の上を見上げている。
 僕は手を冷やさないようポケットに入れて彼女に近づく。
「飽きないね」
 そう話しかけると彼女は驚いた風もなく首だけをこちらに向ける。
「あなたもでしょ?」
 幽霊や幻覚などでは有り得ない、屈託のない笑顔で応えてきた。
 確かに得体の知れない少女に毎日話しかけているんだ。
 僕も暇人に見えるんだろう。
 実際暇なんだし。
「待ち合わせでね。彼女が来るまで待ってるんだ」
「ふーん。彼女いるんだ」
 少女が心なし冷めた調子で言う。
 これだ。この初めての感覚。相手のこの反応を何度夢見た事か。
 心なし残念そうに見える彼女だけど、なら僕に彼女がいなければ結果が変わるかと言えばそんなわけはない。
 それを僕はよく知っている。
 彼女がいない男より、いる男の方がモテるんだ。
 少なくとも僕の周りではそうだった。
 僕は僅(わず)かばかりの優越感に浸りながら彼女に話しかける。
「風邪引かないの?」
「……どうせ、私はもうすぐ死ぬから」
 僕は何も聞かなかったように沈黙する。
 妖精が見える者は死期が近いとか言ってたっけ。
「妖精さんって、どんな姿してるの?」
 僕は携帯をいじりながら他人のように距離をあける。
「うーん。一定じゃないんだよね。見る人によって姿は変わるの」
 少女は樹の上を見たまま眉根(まゆね)を寄せて言う。
 曖昧(あいまい)な言い方だな。本当に見えるんなら自分の見た物を言えばいいだけなのに。
 そんな事を突っ込んでも悪戯にイジメているだけみたいじゃないか。
「具合が悪いんならもう帰った方がいいんじゃない?」
「? 体は平気だよ? 病気とは限らないもの。事故かもしれないし」
 ならそれは凍死じゃないかな。
 少女の様子に自分の事を話していると言う感じはない。
 こういう子はきっと長生きするよ、と広場を離れようとした所で携帯がメールの受信を告げた。
 僕にメールしてくるのはユキエしかいない。
 携帯を開いて文面を確認する。そして僕の周りだけ空気が重くなったような気がした。
『ごっめ~ん。男の子達と盛り上がっちゃってさぁ。あなたもこっち来る?』
 男友達と一緒なのか。
 いいよ。楽しんでおいで、とメールを返して携帯を閉じる。
 浮気じゃない。僕も誘ってくれてるんだから。
 でもまだ一度もデートしていない相手だ。向こうの仲のいい友達集団の中に混ざって一緒に楽しめるほど僕は社交的ではない。
 きっと一言も喋れず、ユキエの心象も悪くなるに違いない。
 こうするしかないじゃないか。
「何? フラれたの?」
 少女が悪戯っぽい笑みを張り付けて言う。
「違うよ。僕が断ったんだ。向こうから来いって言うもんだからね」
 ふーん、と笑う少女は明らかに信じていない。
「そ、そっちこそ。彼氏はいんのかよ!」
 子供かよ……、と我ながら思ったけど、つい口から出てしまった。
「いるわけないでしょ。私は次のクリスマスを迎えられないんだよ」
 あーそうですか。
 この子相手に真剣になってもバカみたいだ。
 僕は一枚多く着込んできた上着を脱ぎ、少女にかけた。
 驚いた目で見る少女に構わず、僕は広場を後にする。
 必要以上に厚着した為か内側に汗を掻いた。
 それが急に外気に晒(さら)された為か寒さを感じたが、振り返りもせずに歩き続ける。


◇3

『ごめ~ん。懐かしい友達と会っちゃってさぁ』
 さすがにこれだけ繰り返されると大丈夫なんだろうかと不安になる。
『僕達、付き合ってるのかな?』
『何言ってるの。当たり前でしょ|(ハート)』
 そして――クリスマスに二人きりになる為に、今のうちに友達との遊び会を済ませてるんだからね――という追伸に僕の心は縫(ぬ)いとめられた。
 そう言われては仕方ない。
 そうだ。今のうちにいいお店を探しておこう。
 もしかしたら今僕は試されているのかもしれない。
 いざデートした時に、今まで何もせずぶらついていただけ? と幻滅されるのかもしれない。
 モノの本にも「モテる男はデキる」と書いてあった。
 つまり外見ではなくマメである事。
 これは試練なんだ。
 そう自分を納得させ、賑やかな繁華街に向かって歩く。
 しかしその為には例の広場を通らなくてはならない。
 あの少女は今日もいるのだろうか。いても今日は挨拶だけ交わして通り過ぎよう、と心に決めて足を進める。
 やがていつもの少女の姿が目に入るが、止まる事なく過ぎ去るつもりだった僕の足は自然とその動きを止めた。
 彼女は僕が昨日かけてやった上着を着ていた。 いや、正確には僕がかけてやった形のまま背に羽織ったままだ。
 そして上着には雪が付いている。
 一体どのくらいそうしていたのか、と思うほどにその層を厚く積み重ねていた。
 まさか、本当にあれからずっと立っていたんだろうか。
 さすがに少し心配になって少女に近づく。
 恐る恐る声をかけようとした所で僕は大きな溜め息をついた。
 やられた。まんまと騙されたよ。少女は雪の付いた上着を着ているが、髪や身体には一切付いていない。
 きっと僕が来るのを待ち構えて、僕が見えた所で外へ出たんだろう。
 ご丁寧にずっと立っていたように上着に雪を付けて。
 いや、始めからそのつもりで上着だけ外に出していたのかもしれない。
 どちらにしろご苦労な事だ。
 でもこういうイタズラは嫌いじゃない。
 僕は少し表情を緩めて少女に近づく。
「妖精さんはどう?」
「もう少し」
「ん?」
 何がもう少しなんだろう?
「もう少しで願いを聞いてくれるかも」
 妖精って願いを聞いてくれるんだ。
「そりゃ、よかったね。何をお願いするの?」
 何の気なしに聞いただけだったけど、少女が急に黙ってしまったので彼女の方を見る。
「……私は、死にたくないの」
 僕は片眉を上げる。
 またあの話か。もうすぐ死ぬとかいう。さすがに笑えないよ、と思っていると少女は真っ直ぐに僕の目を見る。
「私は、生きていたいの。恋もしたい。結婚もしたい。ささやかでも、幸せな家庭を築きたいの。でも、あと数日で私は死んでしまう。それまでに、妖精さんが願いを聞いてくれないと……、私は……」
 少女は涙こそ流していないが悲壮に顔を歪め、今にも泣きそうに言う。
 そのあまりの様子に茶化す事も出来ずに押し黙ってしまった。
 少女は言葉を切ったまま唇を噛んでいる。
「そ……、そっか。聞いてくれるといいね。きっと聞いてくれるよ」
 このまま立ち去る事も脳裏に浮かんだが、彼女はあまりに儚そうで不憫に見えた。
 妖精の話も一瞬信じそうになる。
 本当にもうすぐ死ぬかは分からないけど、何かを患っているのは本当かもしれない。
「妖精さんが願いを聞いてくれるって事は、妖精さんが消えちゃうって事だよ?」
「そ、そう? それは難儀(なんぎ)だね」
 どう話を合わせていいか分からず曖昧(あいまい)に応える。
「妖精さんはもうすぐ運命の尽きる人がいたら姿を見せるの。でもそれは妖精さんが相手をよく見る為でもある。そして、相手の事をよく知った上で魂を持って行くんだ」
 それじゃ死神じゃないか。もっとも、神も妖怪も人間の都合のいい解釈なのかもしれないけど。
「その死があまりに憐(あわ)れで、理不尽で、この人は死んじゃいけない、生きていて欲しいって思うような人なら、妖精さんは自分の命を与えて相手を生かす事があるんだって」
 この少女は妖精に認められる為に、悲劇のヒロインを演じているのかな。
 その為にこの寒い中薄着で立っているの? そんな事で妖精は命をくれるんだろうか。
 どんなに辛くても、自分からそんな事をする人に同情するとは思えないけど……。
「なんかの伝承? どこで聞いたの?」
 そう言うと、少女は悲しそうに目を伏せた。
「あ、いや。いいんだよ、別に。言い伝えなんて色々だよね」
 取り繕うと少女はまた樹の上を見る。
 彼女を追い詰めても仕方がない。かと言って真に受けた反応をするのもわざとらしい気がする。
 僕はやんわりと少女の思い込みを否定するように、別の伝承を語ってみた。
「僕も雪女の話なら聞いた事があるよ。人間を見初めて、最後には命を奪っていく。それだけだと恐ろしい化け物だけど、人間の方が雪女を本当に好きになって、一杯の温かさで包んでやれば、雪女は人間になれるんだ」
 少女は少しキョトンとした顔で僕を見ると、ぷっと笑い出した。
「何それ? そんなの信じてんの?」
 なんだよそれ。
 僕は少し膨れてマフラーを外し、彼女の首にかけた。
 丁寧に巻いてやるほどの義理はない。
 そのまま少し怒ったように広場を後にした。

◇2

 クリスマスイヴまであと二日。
 より一層クリスマスグッズが並ぶ街を今日も一人で歩く。
 そしていつものように、広場に少女がいた。
「今日も一人?」
 余計なお世話だ。
 僕は何も言わず少女に近づく。
 昨日かけてやったマフラーも、無造作にかけたままだ。
 上着やマフラーは雪にまみれているが、身体には雪が付いていないから出て来たばかりか?
 僕をからかうにしては手が込みすぎだ。
 きっと毎晩同じ時間に出ているんだろう。
 僕が後で取りに来るかもと思って上着とマフラーを置いて帰ったんだろうか。
 あげるつもりでかけてやったんだから気にしなくていいのに。
「フラれちゃた?」
「フラれてないよ」
 多分ね。
 さすがに僕の一人妄想だと思わないでもない。
 ユキエにとって「彼氏」なんてのは友達の一部なのかもしれない。
 周りの男は皆彼氏で、僕なんかそのうちの一人なのかもしれないな。しかもドンケツの。
「どんな人なの? 彼女」
 どんな人だと聞かれても……、よく知っているわけじゃない。
 誰もが認める美人で、明るくて、友達がたくさんいる。僕なんかには勿体なくて、真逆の世界に生きている。鏡の向こうにいる、まるで異世界にいるみたいな人だ。
 というような事を独り言を呟くように言った。
 僕自身、言った事をよく覚えてないくらい、心はそこになかった。
「何それ。まだ一度もデートした事ないの? 今までずっとすっぽかされてたワケ?」
 少女は呆れたように言う。
「それって付き合ってるって言えるの?」
「言えないかもしれないな……」
 つい口をついて出た。
 こんな女の子に弱みを見せてどうするんだ、とも思ったけど、今は虚勢を張る元気もなかった。
「電話して直接文句言いなさいよ」
 番号は知らない。メアドだけだ。
「家に直接押しかけちゃえば?」
 デートもしてないのに? 図々し過ぎるし、家も知らない。
「騙されてるんじゃないの? 本当は気付いてるんじゃないの?」
 黙りこくる僕に彼女は声を荒げた。それに僕は力なく精一杯の反論をする。
「そんな事ないよ」
「何言ってんの! こんだけドタキャンされて気が付かない方がどうかしてる。遊ばれてるんだよ」
 てっきり大笑いするものと思っていたので、彼女の剣幕に少し驚いたが、言葉の内容は許していいものではない。
「なんだよ。彼女の事何も知らないくせに」
 僕と話した時のユキエはとても朗らかで、優しかった。僕をかわいいとも言ってくれたんだ。
「分かるわよフツー」
 尚も食い下がる少女に暫(しばら)く擦(す)った揉(も)んだとやり合った。
 少女はやや疲れたように言葉を切り、溜め息をつく。
「その彼女、茶髪でよくやけてない?」
 う……、と僕は言葉に詰まる。
「胸が大きくて、これみよがしにはだけさせてるでしょ」
 そ、それは今時の女の子には大抵当てはまるんじゃ……。
「珍しく誘われた場所にいて、優しくしてくれたんだ」
 それは、さっき僕がそんなような事を言ったから……。
「途中でみんな申し合わせたように居なくなって、うまい具合に二人きりになったんじゃない?」
 僕は顔を引き攣(つ)らせて固まる。
「し、知ってるだけなんじゃないの? ス、ストーカーかキミは」
 少女はぷぃとそっぽを向くように樹の上に目線を戻す。
「この辺りじゃ有名よ。あなたツイッターとかもやってないでしょ? 友達居なくて、人が良さそうだからターゲットにされたんだよ。これだけすっぽかされてもまだノコノコ出てくるなんて。今頃彼女は男友達と一緒にゲラゲラ笑ってるわよ」
「そ、そんな人いるわけないだろ。そんな酷い事……」
 人の心を踏みにじるような、そんな事をユキエがやるはず……。
「初めて女の子に優しくされたからって舞い上がっちゃって……」
「いい加減にしろ!」
 僕は我を忘れたように大声を上げた。
「お、お前に何が分かるんだ! 彼女の事を知りもしないで。じゃあキミはウソでも僕と付き合えるって言えるの? 好きでもない相手に好きだって言えるの? 相手の気持ちを少しでも考えられるなら、そんな事できるわけないって分かるでしょ!」
「私は……」
「もう死ぬからって言うんでしょ。そんな元気で、簡単に死ぬ死ぬ言うキミの方が、よっぽどどうかしてるよ」
 僕はそのまま走り出す。
 それ以上は何も言えなかった。
 言いたい事だけ言って逃げ出したみたいになるのは嫌だったけど、それ以上何かを言おうとすれば泣いてしまいそうだった。
 僕は唇を噛んで歪(ゆが)む景色の中を俯(うつむ)いたまま家に帰った。

◇1

 いよいよ明日はイヴという夜、白く染まった街を歩く。
 店頭にクリスマスケーキの予約受付の看板を立てた店の前で、早くもサンタやトナカイのコスプレをした女の子が客寄せをしていた。
 僕はその中を特に急ぐでもなくゆったりと歩いた。
 心なし気持ちは晴れている。今日は相手にすっぽかされる心配はない。もう待っているはずだ。
 僕は目的地に女の子の姿を見つけると、近づいて後ろから声をかける。
「やあ」
 少女は相変わらず樹の上を見たままだが、僕が来た事が当然のように僅(わず)かに首を動かす事で返事をする。
「昨日はごめん。言い過ぎたよ」
 よく知りもしない子に対して乱暴な事を言ってしまった。
 少女は気にした風もなく樹の上を見つめたまま何でもないように言う。
「今日もすっぽかされた?」
「いや。今日は僕から断ったんだ」
 少女の言葉を信じたわけじゃないけど、今日もユキエは来ないだろうという気持ちもあった。
 それにもう明日はイヴ。今日デート出来たからと言って、何が変わるとも思えない。
 それに、こっちから焦(じ)らしてやりたいとも思った。ささやかな抵抗だ。
「じゃあ、なんでここに来たのよ」
 少女は少し楽しそうだ。
「さあ、なんでかな。習慣かも」
 僕も笑って答える。
 案の定というかユキエは『怒った? ホントごめんね。その分明日は楽しいデートにしてあげるから期待しててね』といったメールが来た。
 沈みかけていた僕の心も再び浮きはじめる。
 少女に会うのも今日が最後だ。だから昨日の事を謝っておきたかったのかもしれない。
「あの。……これ」
 僕はニット帽と手袋を差し出す。
 手袋は昨日渡すつもりだった物だ。
 少女は暫(しばら)くそれを不思議そうに眺めていたが、やがてゆっくりと手を伸ばした。
 彼女の肌が僅(わず)かに僕の手に触れ、その冷たさにギョッとする。
 凍(こご)えてるじゃないか。
「早くつけなよ」
 まるでプレゼントだな、と思ったけど彼女の手があまりに冷たかったのでそう言った。
「うん、ありがとう。でも大丈夫だよ」
「大丈夫じゃないだろ」
 僕は少しそっぽを向くように言う。
 少女は帽子と手袋を胸に抱きしめて笑う。
「もうあったかいから」
 なんだよ。僕は気の毒だと思ってお節介しているだけだ。
 願掛(がんか)けか苦行(くぎょう)か知らないけど、こんな事で願いが叶うなら、命が貰えるなら苦労はないよ。
 それに、もし明日ユキエが来なくてもここには来ない。
 少女はクリスマスまでと言っていたから、明日はいるかもしれないけど、僕は違うと思う。
 少女は明日も僕がフラれると思ってるに違いない。
 そしてトボトボやってきた僕は、少女もいない事に消沈するんだ。
 ユキエが僕を騙していると言うのなら。この子だって同じかもしれないじゃないか。
 明日ユキエが来なかったら、僕はもう誰も信じられなくなるだろう。
 でも今そんな事を考えても仕方ない。
 僕は少女の横に立ち、一緒に樹を見上げる。
 相変わらず何も見えないけど、こうして何も考えずただ空を見上げるのもいいもんだと思った。
 心が澄んでいく。
 まるで世間のしがらみから解放されて、自然に溶け込んでしまいそうだ。
 僕は上着の前を留めるボタンに手をかける。
 身体を覆う殻を破って、全てをさらけ出してしまいたい気持ちに駆られたが、ボタンを外した所で刃物のような冷たい風が身体を刺した。
 我に返り、上着の前を合わせる。
 そっと少女を見るが、彼女は相変わらずの澄まし顔で樹の上を見つめている。
 とてもヤセ我慢だとは思えない。
 もしかしたらこの子は本当に病気で、寒さを感じていないんじゃないか?
 そう考えると、途端に恐ろしくなってきた。
「あ、あの……。そろそろ屋内に戻った方がいいんじゃない?」
「どうして?」
「だ、だって……、寒いじゃないか」
 せめて上着の前を合わせるか、マフラーをちゃんと巻けばいいのに。
「どうせ明日までだよ」
 今は笑えない。
「妖精さんは、もう願いを叶えてくれたかもよ?」
「決定は明日。あした全て決まる」
 明日までこうしているつもりじゃないだろうな。
 翌朝、雪の中に倒れている少女が発見される……、というのも冗談ではなくなってきた気がする。
「とにかく、こんな事しても良くはならないよ。明日は来ちゃダメだよ。もう十分妖精さんに誠意は伝わったよ」
「心配してくれるの?」
 そりゃ心配にもなるよ。本当にこのまま死なれては寝覚めが悪い。
「さ、早く帰ろう。家はどこ?」
 少女は僕の言葉など全く聞こえてないように樹の上を見つめたままだったが、
「ねえ」
 僅(わず)かに僕の方に顔を向ける。
「明日も、ここに来てくれる?」
 いや、明日は……。
「来てくれたら……、帰る」
 そんな事言われても……。
「絶対来て。それまでずっと待ってるから」
 いつになく真剣な様子に、はっきり断る事も出来ず。僕は曖昧(あいまい)に返事をして逃げるようにその場を去った。


◇Snow. And the beginning of the Christmas.

 運命の日。
 僕にとって初めて女の子とのデートとなる日。
 そして……。
 僕は待ち合わせ場所に指定された建物を見る。
 昨日、ユキエからこれまでの詫びも兼ねてとびっきりのプレゼントを用意するとメールがあったんだ。
 建物が視界に入った時、さすがに足が竦(すく)んでしまった。
 真新しい建物の間に挟まれた、縦に長い建物だ。
 初デートにはそぐわないくらい古びて、悪く言えば汚い建物だが、何をする為に作られたのかを意識して、僕の心臓は早鐘を打っていた。
 いわゆる如何(いかが)わしいホテルと言うやつではないか?
 ユキエはもう部屋を取って中にいると言う。部屋番号をメールで伝えてきた。この番号は上の方だ。最上階かな。そこそこ豪華な割には安くて穴場なんだそうだ。
 すっかりイヴの空気に包まれ、派手な電飾で飾りたてられた街の中、僕はしばし立ち竦(すく)む。
 携帯が着信を告げたので、開いて中を見た。
 僕は唾を飲み込む。早く来るように催促する文面に、写真が添付されていた。
 それはタオルで前を隠したユキエの自撮り写真。
 僕は身体が熱くなるのを感じた。
 完全に怖じけづいてしまっている。心の準備が出来ていない。
 いくら何でも話がうますぎる。いや、それは僕が奥手過ぎるだけで、今時の娘は皆こんなものなのかもしれない。
 大体こんな写真を信用していない相手に送るか? 僕がバラ巻いたらどうするんだ? これは信じていいんじゃないか?
 そんな思いが渦巻く中、今一歩が踏み出せずにいた。
 大きく深呼吸すると少し落ち着きを取り戻す。
 あの少女なら何と言うだろう。
 一度しか会ってない男子に、最初のデートでこんな所に誘うか?
 もっともだ。そんな事は分かっている。
 だから何だ?
 ユキエが僕を騙しているとして、それでどうなる?
 僕はホテルに入り、部屋を訪ねて恥をかく。
 それだけだ。
 何を失う?
 何も。
 何を失うわけでもない。
 なら行かない手はない。行けば可能性があるんだ。僕の人生を変える出来事になるかもしれない。
 薄桃色の汚れた外装をした建物に一歩近づく。
 だがそれ以上足が動かなかった。
 広場の少女との約束はどうなる?
 ――いや、約束なんてしていない。
 それも違う。僕ははっきり断る事もしなかった。
 今日が最後だと言っていた。
 昨日の様子にただならぬものを感じたのも本当だ。
 単に僕が幸せになるのがシャクだとか、そんな感じではなかった。
 命がけの真剣さのようなものがあって、断りきれなかったんだ。
 少女の命は、本当に今日尽きると言うのも信じてしまいそうなほどに。
 確かに心配だけど、そもそも僕はあの子と何の関係もない。
 たまたま通り道にいただけの、名前も知らない子だ。
 通学路で、よく見かけるというだけの相手と変わらない。
 僕はもう一歩踏み出す。
 やはり、足というのは下半身なのだな、というのを実感しながら足が段々と軽くなっていくのを感じた。
 ぴゅう、と突然風が吹き、僕は寒さから身を守るように身体を竦(すく)めた。
 少女は……。
 広場の少女はきっと今も待っている。妖精への願掛(がんか)けじゃなく、この僕を。
 僕がユキエを信じるのなら、少女の言葉も信じなくてはならない。でないとフェアではないような気がする。
 この寒い中、ずっと広場に立って僕を待ってるんだ。
 僕がここで、これからやろうとしている事の、その最中もずっと……。
 僕は足を止めた。
 やっぱりダメだ。そんな事を考えながらでは心から楽しめない。
 回れ右して足を踏み出す。
 心ここにあらずでは優柔不断な奴と思われる。
 少女がいない事を、大丈夫な事を確認しに行くだけだ。
 なに、少しくらい遅れても文句はないさ。こっちは一週間も待たされたんだ。
 最悪破局したら少女に責任を取って貰わなくては。それでなくても、いっぱい文句を言ってやろう。
 怒ったように雪を踏み締(し)めながらずんずんと歩く。
 その時、背後で爆発音が鳴り響いた。
 驚いて振り向くと、ビルの入り口から黒煙(こくえん)が上がっている。
 あれは……、僕が入ろうとしていたホテル?
 そのビルの間に挟まれた細長い建物は、一階から立ちのぼる煙でその姿を完全に隠していた。
 入り口から煙にまかれた従業員らしき人達が飛び出すと、火の手を上げて爆発。辺りから悲鳴が上がる。
 ホテル全体を焼き尽くさんとばかりに火が勢いを増す。
 消防法が徹底されるよりも前からそこにあったような建物は、中に居る者を逃がす事無く、容赦無く蒸し焼きにする事だろう。
 僕は何が起きたのかも分からずに放心していたが、やがて消防やら警察がやって来て、辺りは騒然となる。
「いや、もう中に人はいない」
 従業員と消防とのやり取りが耳に入って我に返る。
 そうだ。ユキエ。
 ユキエは……、あそこにはいない?
 その時、携帯が着信する。送り主は……、ユキエ。
『ねぇ~、まだ~? ずっと待ってるんだよ。あっ、部屋番号間違えたかも』
 2階の番号だ。
 僕はフラフラと後ずさる。
 少女の言った通りだった。僕は騙されていたんだ。
 いや、そんな事はどうでもいい。
 ホテルに入っていたら、僕は今頃……、あの中で。
 広場の少女は何と言っていた?
 人は、死が近づくと妖精を見る。
 妖精は、その人間が生かすに値するかどうかを見極める為に姿を現す。
 そしてその価値があれば自らの命を与えて相手を生かすんだ。
 僕はフラフラと覚束(おぼつか)ない足取りで広場に向かう。
 死ぬのは……、僕だった。僕は今日、あそこで死ぬはずだったんだ。
 今生きているのは、あの少女のおかげなんだ。
 そして少女に会ったのは一週間ほど前。
 ただの偶然であってくれ。
 まるで過呼吸のように息を荒くしながら広場が見える通りに出る。
 雪が強くなってよく見えない。
 通行人は皆火事騒ぎを見に行ったのか、通りには誰もいない。
 そして段々と近づいてくる広場には……。
「ああ……」
 僕は膝を付きそうになりながら涙を流した。
 そこに少女はいなかった。
 彼女がいつも立っていた場所だけ、穴があいたように黒い土が見えていた。
 まるで今まで誰かがそこに立っていて、突然消えたかのように。
 弱々しい足取りで少女の立っていた場所に近づき、膝をついた。
「うう……」
 あの子は本当に妖精だったんだろうか。
 あれは幻で、僕の夢だったんじゃないだろうか。思えばおかしな事がいっぱいあったじゃないか。
「でも……」
 でも何で僕なんか……。何もしてあげてないのに。何もしてあげられないのに。
「ううう……」
 涙で歪(ゆが)む景色の中、少女の存在した痕跡(こんせき)が消えていく。
 僕は手を伸ばして土に触れた。
 雪が降って、少女の居た跡(あと)がなくなったら本当に幻になってしまう。
 手袋を外し、雪の付いた土を掴(つか)む。
 少女の存在した痕跡(こんせき)を消し去るまいと、しばらく無駄な抵抗を続けたが、降雪(こうせつ)は次第にその量を増していく。
 会いたい。もう一度、あの子に……。会って、せめて一言……。
 切実に願うも、やがて少女のいた形跡(けいせき)は完全に消えてしまった。
 少女がいたという証拠は、もう僕の中にしか存在しない。それも、時と共に薄れていくのだろう。幻のように。
 誰もいなくなってしまった広場で、ただ呆然(ぼうぜん)と座り込んでいたが、突然後ろから明るい声がかかる。
「おっそ~い! いつまで待たせるつもりよ」
 何なのか分からず、ゆっくりと振り向く。
「さっきからいるじゃない! 早く気付け! 寒いんだから」
 そこにいたのはいつもの少女。
 上着の前をしっかりと合わせ、マフラーを巻いて寒そうに首を竦(すく)める姿は随分と雰囲気が違って見えたが、間違いなくあの少女だった。ニット帽にも雪が降り積もっている。
 僕は何が起きたのか理解出来ずに少女を見上げる。
「え? ……あ」
「あれ? もしかしてフラれたと思って泣いてた?」
 白い息を吐きながら無邪気に笑う。
「あ……、妖精さんは? いや、妖精? あの……、キミは」
「んーなにー? 妖精? ああ、妖精さん? もしかして本気にしてたのー? ウソに決まってんじゃん。やばー、マジウケる」
 心底面白そうに笑う少女に、少し自分を取り戻した。
 雪の中に座り込んだままだったのを思い出して、慌てて立ち上がる。
「そ、そうだよ。信じたよ。悪いか!」
 病気だと思って、本気で心配したのに。
「ううん、いいのよ。あなたはそれでいい」
 少女が僕のあげた手袋をした手を差し出す。
 僕は触れていいものかと躊躇(ちゅうちょ)した。
「でも、大丈夫なの? 身体は。だって、あんな寒い中に……」
 病気なんじゃ……。
「ああ、あれ? ただの願掛(がんか)けだよ。もー二度とやんない」
 と言って寒そうに身震いした。
 僕は恐る恐る手を伸ばす。
 僕が手袋をしていない事に気がつくと、少女も片方の手袋を外した。
 手が触れる。
 温かい。幻ではない。人間の温かさ。
「何を、願掛(がんか)けしてたの?」
「もう叶ったよ」
 少女は微笑んで手を引く。
「早く行こ。寒いよ」
 どこに? というより僕は何をしにここへ来たんだっけ?
「ねえ。これって、デート?」
 半ば強引に引かれながら間抜けな事を聞いてしまう。
 少女は顔だけこっちに向ける。
「何言ってんの。もう何度もしてるでしょ」
「そっか。……そうだよな」
 僕は少女の温もりで感覚を取り戻した手で握り返す。
 でも……。
「名前も知らないんだけど」
「いーじゃんそんなの。私だって一緒だよ」
 それもそうか。
 付き合っていると確認する事が、付き合っている事にはならないように、僕らには必要ない。
 突然僕の前に現れた少女は、本当に妖精だったんだろうか。
 それが、雪女の伝承のように僕の想いで人間になったんだろうか。
 いや、少女が何者だろうと関係無い。
 僕も少女も生きている。
 それだけで十分だ。
 僕達は互いの温もりを確かめ合うように体を寄せ合い、賑やかな街へと歩いていった。
99kg mXR.nLqpUY

2015年12月14日(月)02時21分 公開
■この作品の著作権は99kgさんにあります。無断転載は禁止です。

■作者からのメッセージ
テーマ「雪の妖精と少女」

 兄「じゃ、仕事行ってくるから」
 妹「いってらっしゃい。お兄ちゃん」

(山下達郎「クリスマス・イブ」で)
 兄は夜更け過ぎに、ユキエに変わるだろう

 「ユキエでーす。よろしくお願いしまーす」
 ゲイバーで働く兄。
 きっとキミはコナミ

文は内容とは関係ありません。

この度は素敵な企画をありがとうございます。より盛り立てられる事を心から願っております。

2016年01月21日(木)02時02分 99kg mXR.nLqpUY作者レス
■あとがきみたいなもの

今回指標としていたのは「スタンダード」です。
奇をてらう、ぶっとんだ……よりも普通の「小説」にする事を念頭に置いていました。
なのでラノベというよりは文学界に載っていて違和感のないような物とイメージしています。

話自体はシンプルなので「結局なんだったのか?」「どういう事なの?」という謎は完全に描写しないようにしています。
そこは読者の想像に任せています。
完全に任せているので「なんだこの話は」や「作者はアホか」という想像もその範疇に含まれます。


しかしながらこの手の作品の大敵は「先入観」。想像が先立って書かれた感想に寄ってしまう所は大きいんですね。
僕自身映画の酷評を聞いてから見た為にテーマを読み違えた事も過去にはありました。
その時はただの学生だったので何ら差し障りはないのですが、後で真の意味を聞いて感銘を受けると「ああ、なんか自分は損をしていたんだな」と思ったものです。
それは自分の認識力、想像力、視野の広さが足りなかった部分もあるかもしれませんが、やはり先入観が邪魔をした部分が大きかったと思います。
もちろんそれは愚かであるという事にはならないものです。実際自分にも世間にも理解されていない深いテーマを持った作品もまだあるかもしれません。
ただ作品を面白く、より深く知る事で楽しむ事ができるのならそれに越した事はない。

そんなわけで文章からその真の意味を読み取る事の面白さ、達成感、またはそれ自体を想像する事の楽しみというのも確かにあるわけで、
ラノベの分かりやすい物しか知らない子供達にも、その楽しさを分かってもらえたらなぁ、というのも一つのスタンスだと思うわけです。
しかも今回、前半他の人の感想が見えないですからね。こういう時にそういう試みをしない手はないと思いました。
そんなわけで人によってどう捉えるものだろうか、という試みにもなっています。

それに当たって気をつけたのは兎に角丁寧さ。
粗があっては想像の余地ではなく単に考えてないだけと取られて終わってしまいますからね。
本当は2作プロットを考えていたのですが、これ一つに集中して精度を上げてあります(あくまで一人でチェックできる範囲ですが)。
(悪戯に -> 徒に、は見落としたのではなく知らなかったのです。死ぬまで勉強だ……)

ただ捉え方の多様性がある曖昧な話ではなく、一応事の真相は存在します。

倉木 安堵
彼女イナイ暦16年の少年。
ユキエという彼女が出来たが、まだ一度もデートしていない。
内心からかわれているのかも、と疑いつつもそれを認められずズルズルと誘い出しに応じてしまう。

風間 ユキエ
男に騙されてきた過去があるので男を信用していない。
純真な男の子をその気にさせては突き落とす遊びが趣味。仲間内で何回誘い出しに応じるかで賭けをしている。
イヴに安堵を誘い出し、突然連絡がつかなくなって翌日事故の事を知り動揺する。
後日安堵はしれっと登校していると聞いて安心するが、以来トラウマになって悪戯は出来なくなる。
てっきり怒っていると思ったが、幸せ一杯の安堵を不審に思う。聞く所によると本物の彼女ができたらしい。
結局純粋な心を失わないまま幸せになった安堵がシャクで、邪魔しようと画策するが、次第に安堵の事が気になり始める。
ちなみに漢字は幸恵。

雪の少女
雪の妖精。同様の存在が雪女と呼ばれる事もある。
樹齢の長い樹から生まれた存在でもあるので広場に縛られている。
人の命を奪う妖怪だが、時代と共に雪女も変わっていて、今はもうすぐ運命の尽きる者からしか奪っていない。
(どうやって運命を知るのかは知りません。少女の目には名前の上に寿命が見えているのかもしれません)
広場に縛りつけられる事に嫌気が差していた頃、毎年クリスマスになると現れる少年の事が気になり始める。
少年は独り言のように樹に話しかけていたので、彼の純粋さは知っている。
もうすぐ少年の運命が尽きる事を知るが、あまりに不憫な運命にその命を奪う事を逡巡する。
広場を行き交う人を眺めているので世情にはそれなりに詳しい。


大まかな話は、
広場に住む妖精の少女は、よく見かける少年の運命がもうすぐ尽きる事を知る。
少年はユキエに弄ばれた挙句に事故に巻き込まれて死亡。ユキエ達も無関係を決め込んでその後誰の記憶にも残らない。
本来なら次の獲物となるはずの少年だが、その運命が不憫な為、自分が消えてしまう事を覚悟の上で少年の前に姿を現す。
最後の日、少年がホテルに入っていても事故死。広場に来ても運命から逃れてしまう。
どちらでも少女は消えてしまう。少年がさっさユキエを見限っていたら少女は彼の命を奪ったでしょう。
少女が人間になれるというのは淡い期待。そこまで希望を持っていたわけではない。
もう少しで本当に消えてしまう所だったが少年の想いで人間になる事ができた。
だが少女が人間でいられるのは一年間だけ(少年の想いの強さによる所)。
少年には正体も含め、その事を知られてはならない。

もちろんこれは一番初めに作ったプロットだというだけであって、これがそのまま正解、真実というわけではないです。

そして少女は結局なんなのか? という部分。
そこを創作しては「そんなん知るか」となってしまいますので、ベースにしてあるのは藤田和日郎さん「うしおととら」に登場する雪女です。
そのオマージュとして同じ台詞「もうあったかいから」を入れてあったりします。
ベースにしているだけで雪女なわけではありません。キャラも全然違います。

その後の話、
ユキエと少女の女の戦いや、唯一不思議な力を持つ妖精の上司である雪兎、過去に人間となった先代の妖精の青年、などの展開とキャラクター。
その話の第一話を切り取って形にした物になります。
誤解があるといけないのですが、これは長編の一部ではなく、そのくらいを作り込んだ上で形にする事で作品に深さを出す事が目的です。
もっとも作品作りに置いては基本なんですが、要はそれに重点を置いたという事です。
作りこみによって作品に深さを感じてもらえれば幸いです。
そういう意味ではまだまだ挑戦できる部分があるんだな、というのが今回の感想です。

そして視点は少年の一人称視点なので、少年自身少女の正体を知る事は永遠にありません。
この物語はあくまで少年の目から見た世界です。

うまく事実を伏せる事で、ユーザーは自分の中で想像し、時には製作者の予想を超えて大きくなる事もある。
大ヒットする作品は例外なくそう。完璧な物語はその時面白いと思ってすぐに忘れてしまいます。
分かりやすく言うならばどれだけ同人誌が作られるか、ですね。
読者がいじる余地のない物は同人誌作りにくい。

そんな事を短編サイズでどこまでできるのか、など今思えば無茶な事をしたもんですが、
他の人の感想が気になる、というのは何より期待に添った感想です。
まさに「ネットで検索してみよう」という動機付けになるものです。

得点が入る事もよりも嬉しい感想が多かったです。

……やっぱ得点もほしいカナ


■謝辞

企画において私は点数を付ける際に、最高点30のマイナス無しを旨としております。
それは自分の読んでいない作品でも面白いものはたくさんあるわけで、読んだというだけで点数、読んでないから無得点、の不公平を少しでも緩和しようと思い低く基準を設けています。
なので「こいつ30点しか付けてねーぞ」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが私の中では最高点です。
マイナスも同様、「こいつが読みにさえ来なければ」みたいな気分は祭りとして楽しくありませんので(マイナスを付けるなら最低全作読んでないといけないと思います)。
賛否はあるかと思いますが、それをポリシーとしております。
なのですが、気がついたら全部読んでましたね、今回。

あと私は突っ込みを入れるのを楽しんでいるので、突っ込み多いのは否定的なのかというとそういうワケではないです。
本当につまらないものはほとんど何も書かないです(読んだのに書かないと言う事はないので)。

そして皆さんこの度は多数ある作品の中から本作を選んで読んで頂き誠にありがとうございます。
基本的に全部読んでいる方はお疲れ様です。

頂いた感想、ご指摘は全て受け入れるべきもので、一字一句吟味して自身の糧とする事だけはお約束します。
基本一つ一つに弁明のようなレスをする事はよしとしていないのですが、今回謎をとっちらかしているので、少しレスしてみたいと思います。
 

nice2018
pass
2016年01月21日(木)02時01分 99kg mXR.nLqpUY作者レス
■wさん

感想ありがとうございます。
そして最高得点ありがとうございます。

こんな風に楽しんでもらえたらいいな、という期待には完全に添って頂けたようで嬉しい限りです。
正直この規模の企画でここまで完全にマッチしてくれる事は稀かと思います。
今回参加して本当に良かったと思えた瞬間でした。

そしてほぼ核心を突いた分析をして頂けたようです。
ほぼ、というのは「100%です」と言ってしまってはそこで終わってしまいますからね。

一応真相っぽい事は掲載しましたが、なんだここは違ったのかよ、と思う部分もあるかもしれません。
いやいや、作者にも意地とプライドがあります。完璧に見抜かれては立つ瀬がないので後から無理やり変えたんだ、と思ってくれてよいです。
というより想像の余地を残してこその今作ですからね。
それがコンセプトである以上、「これが正解です」という事はできません。
作品という物は最終的には読者の物でありますから、wさんの思い描いた物は間違いなく真実です。

しかしユキエの解釈に関してはお見事としか言いようがない。
何気に物語上もっとも重要な役割を持っていたりします。
まず雪の少女に対してなんでこっちもユキエなのか? という所からですね。
この二人はまさに表と裏。白と黒。光と闇。善と悪。赤いキツネと緑のタヌキ。
本人達にその自覚はないですが構図としては二人で少年を取り合い、少年は実質振り回されているだけなのです。
善と悪と書きましたが、それは物語上の敵であってユキエ本人は悪人ではない。
ユキエに本物彼氏がいるわけではないので厳密には騙しているわけではない。
悪戯の常習犯で、慣れた段取りで告白させるよう仕向けたのはユキエだが、実際に告白したのは彼女ではない。
男友達のいる中に「こっちに来る?」という誘いも、少年がそういうタイプではない事を見越した上でやっている事だが、断ったのは少年自身。
実際ここで少年が行動に出ていたら、ユキエは彼の事を見直したかもしれない。
なので本人は自覚していないのですが、本当に信じられる相手を探してもいる。
失ってから少年がそれにもっとも近い存在である事を知って立場が逆転し、雪の少女と本格的に少年を取り合う展開が設定上存在します。
という感じでヤな奴なんだけどワルではない、そんな微妙な位置にいる事が重要だったりします。悪人だったら少年はただの被害者になってしまいますからね。
誘導してはいるものの、あくまで少年の意志によるものでユキエに罪はない。そんな理不尽だからこそ、リスクを背負ってでも少女は介入してきた。
そして雪の少女は以降便宜上「ユキ」と呼ばれる事になるが名は「ユキエ」です。
「もう何度もデートしてるでしょ」の台詞は事実上は広場の逢瀬の事を指してますが、少年のこれまでの行為は無駄や嘘ではなかったという事実をあげたかったのですね。


しかしコメントからヒントを得ようとは、深読みも深読み。そんなわけない。
と思ったのですが冷静に考えると、
私は山下達郎さんの『クリスマス・イブ』を聞きながら、正しくは
「ユキエに変わるだろう」のパロディ替え歌をイメージしながら書いていたのです。
実際ユキエという名はそこからとったわけですからね。
内容とは無関係と書いたのも嘘ではないですが、確かにそういう意味ではヒントになっていたかもしれない。
これは逆に驚かされました。むしろ迂闊。まさかそんな所から辿られるとは……。
挿絵に犯人描いちゃったよ気分です。


>違和感があったのは、やはり爆発でしょうか。
実は厨房で働いていたのが炎族と氷族の末裔だったのです。彼らが同時に力を使ってしまった為に水蒸気爆発を起こしてしまったのですね。(イヤイヤ
しかし残念な事にこの手の事故は現実に起こったものなのですね。

そして最後まで感想投稿を待って頂いてありがとうございます。
先入観のない状態での感想を揃えたかったですから、その意図も汲んで頂けたようです。

ありがとうございました。


■タカテンさん

感想ありがとうございます。

>現状だと結局彼女もユキエみたいに、主人公をからかっていたと誤解されかねないかなと思います。
そう受取って頂けたのならば嬉しい限りです。
裏設定になりますが少女は自分の正体を明かすわけにはいかないので、「ウソに決まってんじゃん」と無理にキャラを作っているのですね。
「あなたはそれでいい」だけが素の言葉です。

ラノベならば、確かにタカテンさんのような展開がよいですね。
しかしそうもいかないのが現実という事でしょうか。

タカテンさんのような方が増えて、私も正体を明かせる日が来る事を願っています。

貴重なご意見をありがとうございました。


■ピューレラさん

感想ありがとうございます。

>日にち順にどんどん進んでいくところが良かったです。
一日ごとに同じようなシーンが続く為に、退屈させない為のカウントダウンだったのですが、
概ね好評のようで安心しています。

余談ですが最初だけ「あと6日」なのは
数字だけだと順番狂ってるの? と思われるかもしれないとそこだけ表記を変えています。
結構苦肉の策でした。


>分かりきれませんでしたが全体的に興味を引かさない話でした。
きょ、きょ、きょ、興味持てませんでした!?

高得点ありがとうございます。


■七月鉄管ビールさん

感想ありがとうございます。

>それならば、なぜ微妙かというと、謎の少女の好意が私にはわからないからです。
それは主人公少年もわかっていないです。
少年もあと一度裏切られていたら易々と人を信用しなくなるでしょうね。
私が少年の歳ならば、相手に好意がなくても「この子僕に気あるね」と思います(ホンマカ)。

ご意見ご指摘ありがとうございました。


■テレグノシスさん

感想ありがとうございます。

>読み進めてすぐさま「この彼女クソだなぁ……」と思ってしまったので、
おお。兄弟よ!

>どちらを信頼するか、と読者を悩ませるなら、もう少し彼女サイドの文章を魅力的にしたほうが
あ。やっぱりユキエと天秤にかけるのか!? 巨乳か? 巨乳だからか?
 

nice1
pass
2016年01月21日(木)02時00分 99kg mXR.nLqpUY作者レス
■青出さん

感想ありがとうございます。

かなり確信に近い解釈をして頂いた上での貴重なご意見、ありがとうございます。

樹のイルミネーション。
最初はそれを入れるつもりでの場面設定だったのですね。
ふたりの仲に邪魔なので、電源コード抜いちゃいました。

ご意見ご指摘ありがとうございました。


■いりえミトさん

感想ありがとうございます。

どのような解釈でも正解です。
それによって受け取る気持ちのまま感想を書いて頂いてよいものです。

>ユキエの存在自体が、「酷い女だな」という感じで、いい印象がなかったこともあります。
おお。同志よ!

実は、
少女は雪の妖精なので、体は雪で出来ているのです。
それに妖精がとりついて動かしている、いわやるスノーゴーレムという奴ですね。
この雪の造形は二人の高校生によって作られたという裏設定があるのです。


■筋肉バッカさん

感想ありがとうございます。

今からでも遅くないので得点を……、って遅いのか。
今回期間後に点数入れないんじゃないか。
おのれ新投稿板め!!


■おとぎの国のアリスさん

感想ありがとうございます。

>最後に、おあずけを食らったような印象を受けました。
おあずけさせるの大好きなんですよ。

>これまで読んできた作品の中で、これほどまでに他の読者の方の感想が気になってしまうラストシーンもなかったように思います。
これ以上ない言葉です。

ところでおとさん(どういう略し方!?)は女性なのでしょうか。
ユキエ庇護派の意見は珍しいかと思います。
私なら
 ホテルの中にいない!? ガッデム!!
と思う所です。

それに男は目の前に美少女がいる事に答えなんて求めないです。
答えを得る事はそれを失う結果にしか繋がりませんからね。

もやもやが残って悩んで頂けるというのは何より嬉しい事です。

貴重なご意見をありがとうございました。


■つとむューさん

感想ありがとうございます。

>最大の?は、ここですね。ユキエは何で、主人公を殺そうとしたのかが謎のままです。
確かにそれは謎ですね。つまりユキエが爆破の犯人だという事ですね。
少年がホテルに入ってから爆破しなかったという事はリモートではなく時限式の爆弾という事です。
その後、メールに返信がない事で、少年が死亡したかどうかを確認したんですね。ご丁寧に証拠として適用されない文面を使うとは。
現場に足を運ばずに自信を持って相手を葬り去るとは、とんでもない殺し屋だ。
少年がそこまでの恨みをかうとは思えないので、両親に因縁があるのか?
あるいは幼少の頃に原因があるのか?
確かに面白そうです。想像は自由ですからもちろん正解です。

貴重なご意見、ありがとうございました。

>えっと、雨のシーンって、ありましたっけ?(心の中の情景ですか?)
まあ、そんなとこです。
雨が心情、状況で雪は少女の事を指しています。


■モンハンほもさん

感想ありがとうございます。
私もユキエは何度殺してやろうかと思いました。
物語ですからね。架空の人物です。
架空ですとも。
絶対架空です。


■ウサリアスさん

感想ありがとうございます。
粗食が一番。
という事でありがとうございました。


■馬さん

感想ありがとうございます。
女性視点でも楽しんで頂けたのなら嬉しい限りです。
結局人間だったのかよ、と思うのは少年の心理に限りなく共感して頂けたという事ですので私としては嬉しい限りです。

貴重なご意見をありがとうございました。


■ハイさん

感想ありがとうございます。

>丁寧にルビなどふってあり、作者さんの読者への細やかな心遣いも感じ、好感が持てました。新しい機能だー、と嬉しがってバシバシ打って、ふと見渡すとあまり使われていなくて恥ずかしくなってしまいました……。

ご意見は参考にさせていただきます。
ありがとうございます。

>昔、そういうパロディありましたよねw
これが分かる人がいるとは……w

 

nice1
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2016年01月17日(日)19時48分 w40点
こんにちは。wと申します。
『雨は夜に雪になる』読みましたので、感想を書きます。
今回の企画の出展作品の中で、本作品が一番良くできていたと思います。
いつぞやに実施された音楽企画に出してもいいような作品だったと思います。山下達郎さんの『クリスマス・イブ』を、まさに再現した作品といえるでしょう。あっちは実はこっぴどい失恋ソングですが、本作品は奇跡のハッピーエンドで良かったです。

それにしても本作品は解釈が難しい。
まずは私自身が本作品をどう解釈したか、から。

本作品を読み解く鍵は、タイトルと作者コメントにヒントがある、クリスマスの名曲のフレーズでしょう。
雨は夜更け過ぎに雪へと変わるだろう=雨は夜更け過ぎにユキエと変わるだろう
だろうと思います。
つまり、作中で主人公を試していたのはユキエではなく謎の美少女で、謎の美少女は妖精を見ていると言っていたけど実はその謎の美少女自体が妖精。謎の美少女(妖精)は、本来死ぬはずだった主人公の願いを叶えた。主人公の願いは、ユキエに会いたいということ。でもユキエが死んじゃったら主人公の願いは叶わないので、妖精は自分の命を与えてユキエの命を助けた。妖精がユキエに命を与えたため妖精は消えた。ラストシーンでは、見た目は謎の美少女で中身はユキエという生まれ変わったユキエになった。だから、生まれ変わる前のユキエとの言葉の上だけでの付き合っているではなく、今までもずっとデートしていたことになった。というふうに解釈しました。
まあ、まず、謎の美少女は雪で濡れていない上に、人肌のぬくもりも無いので、人間ではないでしょう。じゃあ妖精だ。一瞬、主人公が言っていた雪女の線も考えましたが、それだとタイトルが説明つかなくなる。そして、妖精はその人物をよく見て願いを叶えるという設定と、自分の命を与えて相手を生かす、というのがありましたし、ラストシーンだけ謎の美少女の口調というか雰囲気そのものが変わっているので、これは妖精が消えて(生まれ変わった)ユキエになった、ということでしょう。で、ラストシーンのユキエとの対比で謎の美少女が雨ということになると思います。謎の美少女が雨という直接の要素は全く無かったのですが、最初は夏のような服装をしていて、そこから主人公が上着、マフラー、手袋ニット帽と着せることによって冬の装いとなり、雪へと変わった、ということではないかと思います。
ラストシーンに登場する謎の美少女がユキエだとすると、タイトルや作者コメントの内容も説明がつきますし、作中の諸々の動きもほぼ全部問題なく説明がつきますので、部分的には作者さんも考えていないような牽強付会的な拡大解釈もあるかもしれませんが、大筋では間違っていないと思います。
いっさい深読みせずに表面だけを解釈すれば、ユキエは悪人で、主人公は最後に謎の美少女とくっついた、ということになるでしょう。しかしその場合、本作品全体がユキエはビッチという批判の文脈になってしまいます。そうなると、ユキエを諦めた主人公がすぐに謎の美少女とくっついてしまうのは、ユキエのビッチぶりを批判できないと思いますし、雨は夜に雪になる、というタイトルの意味も説明つかなくなります。そして、死ぬ運命だった主人公に妖精が命を与えた、ということになりますが、だったらどうして妖精が消えてしまわないのか。そもそも、主人公のどこに、自分の命を与えてまで生きていてほしいと思える要素があったのか。また、ユキエにだまされていたかもしれないけど、妖精伝説はだましていたんだよとも言っているわけで、だったら、あなたはそれでいい、にはならないと思います。もしこっちの解釈の方が正しいというのなら、作者さんにはそのへんのことを説明してもらいたいですね。


↓ここから、本作品の感想です。


本作において、一番味付けが難しいキャラはユキエということになるでしょう。
ユキエが完全に善人だったら、そもそもこの小説は成り立たない。主人公とユキエがふつーに付き合ってそれで終わりです。
逆にユキエが悪人であってもまずい。主人公は単に人を見る目の無いアホになってしまうし、せっかく山下達郎さんの名曲をベースにした作品でラストにユキエが出てくる展開にするのに、悪人というわけにもいかない。
なので、「見方によっては悪人のようにも見えるけど、そうでもないといえばそうでもない」、というラインにキャラ付けしなければならない。そこを上手く描いたと思います。
ユキエは、見た目や言動などがビッチギャルっぽく、そういう先入観をもって見ると、諸々の言動は悪いように見えます。しかし、先入観を排して冷静に見てみるとそこまで絶対的な悪ではなく、主人公がユキエを信じるべきかどうかで揺れ動く絶妙なレベルに描いたと思います。
会う約束をすっぽかしている部分について。
主人公が待ちぼうけするのは、山下達郎さんの曲の再現ということになります。
そもそも約束って、どんな感じの約束なのか。会いたいと主体的に言っているのは主人公の方だろう。イブ本番前に予行演習しておきたい、といったことがありましたので。そして主人公は、当日に約束を取り付けています。というのは、すっぽかされたその日のうちに明日会う約束をするような気力があるとは思えないからです。つまり、当日になってから、相手のユキエの都合をあまり考えずに会いたいと言っているわけです。それも毎日。
ユキエにだってユキエの都合があるだろうし、友達の多いユキエが友達を大事にしているのは悪いことではありません。このへんは、どちらかというと主人公の方がやや身勝手だったともいえます。
また、ユキエは全てをすっぽかしたわけではない。「あなたも来る?」と言われて主人公が断ったわけだし、イブの前日は主人公の方から「今日は会わない」と言ったわけですし。


主人公もうまく描かれていたと思います。信じる、という部分で主人公には強い個性がありました。
Jポップの歌詞では、会いたい、会えない、というのが異様に出現するというネタがありますが、本作品はまさにそういう世界でした。
ユキエを疑う気持ちと信じる気持ちの狭間で揺れる主人公が上手く描けていたので、すんなり感情移入できました。
で、ユキエを疑いこそするものの、それでもユキエを信じて待ち続ける誠実さも良かったです。
ずっと待ちぼうけをくらっているだけで何もしていないように見えてしまう主人公ですが、心理的にはすごく戦っていて、それに勝ち続けたのもいいところ。
途中で、ユキエに試されているのかもしれない、と主人公が思う場面があって、確かにユキエに試されている一面もあるのですが、それも含めて妖精に試されているわけでして、妖精から与えられる試練がなにげに厳しくて、主人公よくがんばったと思います。
きわめつけは、やはり、ツイッターやっていないでしょ、の発言。ユキエの悪評を主人公に吹き込むわけですが、その悪評の出所はツイッター。もちろん謎の美少女がユキエ本人に確認したわけでもなく、ツイッター情報以上の明確な証拠があるわけでもない。そもそもの話、ユキエという固有名詞を出さずに、やけていて茶髪で胸元が大きく開いていてという女子高生のことを言っているわけですから、ユキエ本人のことかどうかすら怪しい。そんなJKはユキエ以外にもいっぱいいるでしょうし。つまり、謎の美少女の発言は、それこそツイッターでよくあるデマ拡散そのものです。しかし主人公は、さすがに動揺はしたでしょうけど、デマに流されることなくユキエを信じて待ち続ける方を選びます。
最後にもユキエを信じるのですが、それと同じように謎の美少女も信じなければならない、という公平さを見せたのも良かったです。
ユキエにだまされていた、と思ったら、謎の美少女から「妖精伝説なんて、だましていたんだよ」と言われてしまいますが、「あなたはそれでいい」という言葉で、ようやく、ユキエのことも妖精伝説も信じ続けたことが報われたので、ほっとします。

違和感があったのは、やはり爆発でしょうか。
たしかに、いったんユキエをふっきるきっかけとしてはインパクトがあり良いのですが、普通の火災ならタバコのポイ捨てとかでもありうるけど、さすがに爆発はリアリティにとぼしいと感じました。そりゃ妖精の奇跡が出てくるような話だから爆発くらいあってもいいのかもしれませんが。

そんな感じで、解釈に悩む作品ではありましたが、でも逆に、だからこそその解釈がどうなのかを考えることも含めて、とても楽しませていただいた作品です。
これは、作者さんはどこまで計算して書いたものなのでしょうかね。計算していたならすごいけど、計算ではなく単なる偶然です、ということだったら、むしろその感性の方がすごいかもしれない。

点数は、他の作品よりは高くつけておきます。
執筆おつかれさまでした。


 

nice1
pass
2016年01月17日(日)18時37分 タカテン yRNUcsqs0o20点
拝読いたしましたので、感想を送らせていただきます。

(良かった点)
・ 不思議な雰囲気のする美少女との交流
クリスマスツリーのてっぺんにいる妖精に願いを祈る、不思議な雰囲気の少女とのやりとりに惹かれました。こういうミステリアスなところがあるヒロインってのは基本だけど魅力的ですよね。
まぁ、逆にユキエは「主人公、あなた騙されているのよ」としょっぱなからツッコミたくて仕方ありませんでしたが。

・ クライマックスの展開
ユキエからの誘いに迷いながらも、その誘惑を断ち切ったと同時にビルが爆発、死ぬべき命を妖精に助けられたのは自分だった……この展開、ベタなのかもしれませんが自分はとても好きでした。

(気になった点)
・ 少女の雰囲気が最後に変わってしまった
ギャル系のユキエと、清純派(不思議系?)の少女という構図だったのが、最後に少女もギャル系っぽくなってしまっているのが残念でした。
そのため、せっかく「妖精の少女に助けられ、そのことに気付いた時には彼女はもう消えていた」という切ない展開が、どこか台無しになってしまったような印象を受けました。

(自分ならこうするという無責任なアドバイス)
少女の正体に気付き、慌てていつもの場所に駆けつけるも彼女の姿がない、彼女はやっぱり妖精で、自分を助けてくれたのか――このシーンにもっと尺を取りますかね。主人公の感情をここぞとばかりに描写し、切なさを爆発させればさせるほど、少女が再び彼の前に現れた時の喜びの衝撃が高まると思います。
また、先述したように、少女の雰囲気は極力変えないかな。
もしかしたら作者様は、少女はやはり妖精で、その力を使って主人公を助け、人間になってしまった変化を表現したかったのかもしれません。が、現状だと結局彼女もユキエみたいに、主人公をからかっていたと誤解されかねないかなと思います。
そのような誤解を生むのなら、素直に少女は妖精だったと認めてしまったほうがよかったかもしれませんね。
自分だったら……うーん、少女の雰囲気を変えずに、絶望する少年の前に現れ、「よかった。約束、守ってくれたね」とうっすら涙を流しながら抱きつかせるでしょうか。
で、その時に少年が少女の体のぬくもりを感じたり、背中に小さな羽が見えるものの、次第にその羽がうっすら消えていくといった演出で、彼女の正体をさりげなく描写します。
御作でも少女の手の温もりといった変化が書かれているのですが、その前に少女が変わりすぎているので上手く機能していないのがもったいないですね。

それでは失礼いたします。
執筆お疲れ様でした。
 

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2016年01月10日(日)20時35分 ピューレラ30点
【好きだった点その1】
日にち順にどんどん進んでいくところが良かったです。

何が起こっていくんだろう?という期待を感じました。

【好きだった点その2】
ユキエのだまし方、主人公のだまされ方

主人公の気持ち同様、読んでいて疑いもあるものの
まだあり得る、まだ大丈夫と思ってしまえるところが良かったです。
作り物の嘘っぽさが無かったというか妙なリアリティがありました。

【好きだった点その3】
ホテルの爆発事件

たぶん、死ぬ(死ぬ目に合う)のは主人公だろうなと途中で思いましたが
まさかこういう展開だとは思わなかったので
ここで更にグッと物語に引き込まれました。


妖精(?)少女が本当は何もで何だったのかは
分かりきれませんでしたが全体的に興味を引かさない話でした。

お疲れ様でした。
 

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2016年01月10日(日)19時54分 七月鉄管ビール sp5W3VdK/220点
 新年おめでとうございます。
 拝読しましたので感想をお寄せします。

 終盤までグイグイグイと読まされました。
 陳腐ともいえる状況を逆手にとって、こんだけ興味を引き続けるなんてカッコいいだす。
 ですから終盤に入り、「ドンくさい着地をしたら、かわいさ余って憎さ百倍。赤点ほうりこんでやる」と固唾を飲んで読み進めました。
 結果、私の印象は、微妙。
 ホウテルの場面はスンバらしい。刺激が強く、あれなら主人公も読み手も気持ちの切り替えが容易だと思います。
 ラストは私の予想からはずれていました。
 謎を残したままというのも私は好きです。
 それならば、なぜ微妙かというと、謎の少女の好意が私にはわからないからです。
 それにキャラクター造形に私が魅力を感じていないようなのです。主人公には感情移入しているのですが、この少女に主人公を好きになってほしいという気持ちが私に起っていませんでした
 この辺は他の方の感想が私も気になります。私の鈍さであることを祈ります。

 ありきたりな状況に趣向を凝らした力作でした。あやかりたい。
 それでは失礼いたします。
 

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2016年01月10日(日)18時16分 テレグノシス-10点
身の丈に合わない、と主人公が思ってしまうほどの彼女と、偶然居合わせた少女との物語。

主人公を携帯越しに小馬鹿にする彼女と、主人公を真正面からツンデレる少女が対照的です。
画面の言葉と、人間の口の言葉。これをどう対峙させるかがポイントだったかのように思います。
どちらを信頼するか、と読者を悩ませるなら、もう少し彼女サイドの文章を魅力的にしたほうが
よかったかな? と思います。読み進めてすぐさま「この彼女クソだなぁ……」と思ってしまったので、
最終日に主人公がどっちを選ぶのか、というところに緊張感が芽生えにくくなってしまっていました。
終盤の生命の危機に瀕する場面も、すこし非現実的過ぎて、違和感があったように思います。
彼女というキャラクターが上手く頭に入ってきませんでした。
 
一方で妖精さんを見つめる少女は、毒付きながらも主人公を影ながら思うひたむきなキャラで、魅力的でした。
最後まで捉えどころのないキャラでしたが、主人公と言葉と言葉を交わし合うことで、主人公との絆が
より鮮明に表現されていたように思います。
 

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2016年01月06日(水)23時30分 青出10点
 こんにちは。感想を書かせていただきます。しんしんと降り積もる雪のように静かに紡がれた物語で、ホワイトクリスマスの光景が目に浮かんできました。

ここが好きです
○丁寧な文章
 とてもわかりやすい文章でした。いつ・どこで・誰が・何を・したのかが迷うことなくスッと入ってきました。主人公の少年の感覚や心情の流れも違和感なく共感できるものでした。「僕」という一人称や静かな語り口も、穏やかで優しい少年の性格にぴったりだと思いました。
○明確な構成
 散々約束をすっぽかすユキエと、広場の樹の下にたたずむ不思議な少女、のふたりの女性のうちどちらを選ぶか、ということが山場になっていました。主人公がとても純粋で、ユキエを信じきっているために、最後の最後までどちらを選ぶのかがわからず、手に汗握る思いでした。章立てがカウントダウン形式になっているのも、クリスマスが待ち遠しい気がしてよかったです。
○憎まれ役ユキエ
 冒頭のユキエの描写でなんとなくいやな予感を抱いたものの、まさかあんな子だとは思いもよらず、少女を選んだ主人公によくやったと思いました。ユキエに対する嫌悪感というのがあからさまにならずに上手に描写されていて、カタルシスのある読後感を作り上げていると思います。

ここが気になりました
○前半の引き
 ユキエがもしかすると主人公を裏切っているかもしれない、という問題が出て来る中盤あたりからはグッと物語に引き込まれたのですが、前半がやや淡々としすぎていたきらいがありました。そこで、樹の下の少女が本当に妖精なのかもしれないというようなエピソードなどがあるとよさそうだなと思いました。そういった少女の神秘性に惹かれつつ、ユキエを信じていたい主人公のアンビバレントな感情を描くと、厚みが増しそうかなあと思います。物語を読み進めさせるための牽引力となる課題や謎を提示できるといいのではないでしょうか。
○樹
 作品全体として淡く美しいイメージの情景が貫かれているのですが、もうひと押し印象に残るような情景があるとよさそうだと思います。もし私だったらどうするかなと考えたのですが、樹に冒頭からクリスマスのイルミネーションを付けた状態にするかなあと思います。そして夜空と星と雪です。そういうキラキラして賑わっている街の中で、ひとりぼっちの自分と少女、というふうにすると、物語のイメージがより際立つかなあと思います。それから、ご存じだと思いますが、ヤドリギの伝承も使えそうだと思います。
○“でも何で僕なんか……。何もしてあげてないのに。何もしてあげられないのに。”
 この主人公の疑問について、はっきりとした答えが出ずに終わったのが少し気になりました。恋に理由はないと言われると、それはそのとおりなのですが……。しかし物語としては、よく知らないユキエを好きになって失敗したという経験を経て、どういった変化や成長が彼の中にあったのかを知りたいと思いました。もっと目の前の少女をしっかり見て、どういう点に惹かれてやまないのか、というようなことをエピソードで語ると、より納得感が増すのかな?と思います。
○変換ミスです。
“そんな事を突っ込んでも悪戯にイジメているだけみたいじゃないか。”→“そんな事を突っ込んでも徒にイジメているだけみたいじゃないか。”

 楽しませていただきました。これからも頑張ってください!
 

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2016年01月06日(水)22時03分 いりえミト10点
 こんにちは。
 御作『雨は夜に雪になる』を拝読したので、感想を書かせていただきます。


 きれいな作品でした。
 文章が特によかったと思います。
 流麗で落ち着いた印象の文体ですね。非常に読みやすいですし、主人公のキャラクターとも合っている一人称でした。
 その文章によって、どこか儚げで幻想的な本作の雰囲気が見事に演出されていました。

 「あと6日」からは始まって、クリスマス当日までカウントダウンしていく構成もよかったです。
 ラストもハッピーエンドできれいにまとまっていると思います。
 
 でもこのラスト、なんというか、「ユキエに騙されていることがわかったから、雪の妖精(?)の少女に乗り換えた」ように思えてしまった(事実はどうあれ、表面的にそのように見えてしまった)ので、なんだか微妙な気分になりました。

 ユキエの存在自体が、「酷い女だな」という感じで、いい印象がなかったこともあります。
 なので、ユキエは登場させないで、主人公と雪の妖精少女の純粋な出会いの物語として描いたほうが、なおよかったんじゃないかなと、私としては思いました。


 私からは以上です。
 執筆おつかれさまでした。
 

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2016年01月05日(火)19時51分 筋肉バッカ 9.WICozezU
こんにちわ。読ませていただきました。


終盤まで、街で突っ立ている少女とお話をしているだけなのですけれど、何故だか退屈せずに読めました。少女が立ち尽くしている理由を知りたいという欲求に引っ張られたのだと思いますが、シンプルな展開と描写で期待を持たせる作者さんの書き方は上手いと感じました。

気になった点です。
ラストですね。結局、少女は妖精さんではなくて、人間で、主人公となんだか良い感じになった――という風に解釈したのですが、そうだとすると、ここまでの少女の不思議さってなんだったのだろうと疑問に思いました。ただ、なんとなく私がちゃんと読めてないのか?と自信が持てない部分があるので、点数評価は控えさせていただきます。

以上です。
執筆おつかれさまでした。
 

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2016年01月03日(日)17時50分 おとぎの国のアリス10点
あけましておめでとうございます。拝読いたしました。
読後の率直な感想といたしましては―
「おっ!えっ?ほぉ、うーん…?」
こんな感じでしたね。
なにやら最後に、いきなりテーブルをひっくり返されたような…。ナイフとフォークを持って、食事の真っ最中だった私は――いきなりの急展開に、ドウイウコト??

すごく丁寧に少女と主人公の関係が描かれていましたし、カウントダウンの切迫感もありまして、いい感じで読み進んでいたのですけど。最後に、おあずけを食らったような印象を受けました。
これまで読んできた作品の中で、これほどまでに他の読者の方の感想が気になってしまうラストシーンもなかったように思います。
他の方は、どう受け止められておられるのかと…?
とどのつまりは、三角関係なわけですし。主人公を煙に巻き続けるユキエは、すでに読者の敵役となっていますよね。結論は決まっている。ここまではOK。

問題はまさに、ここからなわけでして……。
はっきり言いますと、唐突にまとめ過ぎたのかなぁ…という印象です。
やはりホテルの爆発というのが、しっくりきません。この流れであれば、まずはユキエの救出へと赴いて欲しいところ。そこで真実が判明しても、主人公には彼氏としての義務を果たしてほしかったですね。そして、はっきりとユキエに別れを告げる。ただ、ユキエはホテル内にはいないとのことですので、救出しようにもできないわけなんですけどね。散々弄ばれていますので、読者の溜飲を下げるような展開がほしかったです。
その上で、少女の下へと走らせてほしかったですね。

少女=妖精というのが、おそらく最大の伏線なんだと思います。ですが、それだと最後に実体化した理由がまるでわかりません。途中のやり取りにありました、マフラーやら上着に積もる雪の描写によって、少女がこの世の者ではない。
このことが暗示されているために、余計に整合性をどこに求めればよいのかと悩んでしまいます。

読み込みが浅い?それとも、なにか勘違いしているのかな?

少女が、ごく普通の少女だった?だとすると、妖精の効果とホテル火災の因果関係が成立しなくなる?主人公が助かったのは、単なる偶然?この年最後の、強運発動?

実は、主人公が妖精?だから、少女は死なずにすんだの?
それとも、ユキエが妖精なのか?なんかもう、思考がどんどん迷走していく……。

なんだかまとまらない感想となってしまいましたが、私からの感想は以上となります。
後ほどまた立ち寄らせていただいて、他の方のご意見、解釈などを拝見させていただこうかと考えております。評価は、あくまでも現時点のものとお考えください。
執筆お疲れ様でした。
冒頭からずっと丁寧な描写であっただけに、超展開とのギャップがあり過ぎたのかもしれませんね。雰囲気はとてもよかったです。

 

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2015年12月30日(水)22時17分 つとむュー10点
冬企画の執筆、お疲れ様でした。
御作を拝読いたしましたので、感想を記したいと思います。

>相変わらず何も見えないけど、こうして何も考えずただ空を見上げるのもいいもんだと思った。

読みやすく、すごく雰囲気のある作品でした。
特に上のシーンは、個人的にはとても気に入りました。


>妖精は、その人間が生かすに値するかどうかを見極める為に姿を現す。

主人公は、クライマックスで、雪の中の少女が妖精だったのではないかと思い当たります。
自分も主人公と同化して読んでいたので、はっとなりました。
この部分は、とても良かったと思います。
が、ラストで少女の正体がうやむやにされていたのは、少しモヤモヤとしたものが残りました。


>その時、背後で爆発音が鳴り響いた。

最大の?は、ここですね。
ユキエは何で、主人公を殺そうとしたのかが謎のままです。
ちなみに自分は、ユキエは美人局をしようとしていたんじゃないかと思いながら読んでいました。


>都合良く二人になった時にダメ元で告白したんだ。

主人公がユキエに告白した、ということも、色々とモヤモヤとしたものが残ります。
もし、ユキエが告白するように仕向けたとしても、主人公は簡単に告白するでしょうか?
なぜなら、本作では主人公はとても奥手な高校生として描かれているので。
告白したのであれば、ずっと昔から思いつめていて、
清水の舞台から飛び降りるような気持ちで告白したのだと思われます。
でもそうならば、雪の中の少女に簡単に心がなびいてしまうことが、個人的には納得できませんでした。

>一度しか会ってない男子に、最初のデートでこんな所に誘うか?

うーん、やはり一度しか会っていないのに告白した、という設定は無理があるように思います。
ユキエから告白された、という設定の方が、よりリアリティがあるかもしれません。


>『雨は夜に雪になる』

えっと、雨のシーンって、ありましたっけ?
(心の中の情景ですか?)

いろいろ書いてしまいましたが、とても雰囲気のある作品でした。
爆発や告白に関して納得ができる内容であれば、もっと良い点を差し上げていたと思います。
拙い感想で申し訳ありません。
今後のご活躍に期待しています。
 

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2015年12月30日(水)11時31分 モンハンほも20点
拝読いたしました。

惜しい!というのが御作の感想です。先に断っておきますと、読んでいてラストはどう結ぶのか、という興味が尽きませんでしたし、締め方に不満もなく楽しく読めました。
言い方が難しいですが、読み終わって満足感はあったのですがカタルシスも欲しかったとでもいいましょうか。悪女なユキエに対するザマアとか、少女とユキエが実は関係していたとか、ユキエがラストに絡んで欲しかったなーと思いました。
他にも、けっきょく少女は何者なのとか、細かいところをつつけば粗は出てくるのですがそれを指摘するのは野暮ってもんでしょう。
短めの感想になりましたが、面白かったということをお伝えできれば幸いです。

拙い感想で申し訳ございません。
以上、失礼いたしました。

 

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2015年12月29日(火)18時25分 ウサリアス-10点
 どうも、感想専門のウサリアスです。

 感想としては、テンプレ感が強く、展開も読めたので、いまいちですね。
 もう少し捻ると良かったと思いました。
 

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2015年12月28日(月)23時49分 馬 SGA7bLSsMA20点
本作を拝読していて、自分にはいろいろと分かり得ない男の子特有の心情などが散りばめられている印象でした。
主人公の性格的に今の若者特有の何かに関りたくないという感じと、かなりぶっきらぼうですけど最終的にはコートや帽子、手袋などを渡していってしまう、という、一段落ごとに見せる「冷たさ」「不器用な優しさ」の対比があって「優しさ」がどんどん雪の様に読者の心に残っていくような感覚でした。その部分に、独り者だった主人公自身が凝縮されているんだろうなと。
半分以上は同じことを繰り返す日々だったのですが、そのせいもあってか、ホテルで部屋に行くか行かないか、の場面の後での出来事はいきなり過ぎて心がざわついたのと、そこから一気に話が先に行った部分は、物語自体に緩急が生まれて事実引き込まれました。
しかし違和感に思ったのが、女の子の最後に見せた性格。なんでしょうか。元々神秘的な感じだったので、てっきり私としては少女の幽体離脱が病室から樹木のもとまでやってきたのかな、と思っていた部分があったので、生身だったの? と驚きました。常識的に考えて脂肪分が男子より多くて寒さに少しは強いと言われる女にしても、そこまで寒さに耐えられるわけもないし、風邪を引くと思うんです。がたがた震えもせずに雪のなかで佇んでいたのに、願がいくら強いとしても、最後の「あー寒い!」という描写を見ると、一週間の願掛けで平然としていのたは不自然だなと。
きっと、諦めずに優しくしてくれる奇特な男の子とめぐり合えますように、との願掛けだったんでしょうけれど、それはまたそれで、若いなりにそこまでして自分の身を呈してまで誠実な若者を求めたくなるほど、過去に何かあったのか、それを逡巡しながらずっとはるか高くを見上げ続けていたのかと思いました。
そして本作を拝見して「起承転結」ってこういうことなのか! と思いました。
私は本気で構成の枠作りと起承転結が苦手です。いくら描いてもどの自作にも無いです。
それに引き換え、貴公の作品は「起承転結」がある。これぞ緩急、「転」で一気に「おお、」と引き込ませるまでの緩やかさ作り、その技術なのかと。
最後に少女、現れて良かった、と思いました。(あまりの口調変化に当初、恋人なのか少女なのかぱっと見は分からなくなりましたが)今思えば、まるで空元気的に「やっほー!」と明るく登場したことが、現代っ子の主人公と等身大でいられる女の子だったからなのかなと、安心させる要素を含ませていたのかもしれませんね。それまでが浮世離れした(まるで妖精の様な薄手の)様相だったんですから。
それにしても、結局主人公の男の子は純粋だったんだろうなと思います。一週間も男好きにしか見え無い恋人を待ちつづけ、信じ続け、諦めを感じつつも少女とそれまでを過ごす。
私としては、このまま少女との関係が良くなればと思いながら経過を見ていたので、恋人が最後まで邪魔しなければ良いな、と思ってしまっていました。それに恋人の素行が一段落ずつにだいたい一行ぐらいで縮小・凝縮されて出番が抑えられていたのも、文全体を見ても二人の間を全く邪魔した感じを持たなかったので、その辺り上手だなと思いました。それにしても、遊び人といえど恋人名義の子の命の方は無事で変に安心。ちょっと実際会ってもその騙してきた子に「いやもう話し掛けないで下さい」と私なら言っちゃいそうだけど。
構成自体がストレートだったので実に読みやすかったです。恋人が出来た。女の子とも出会って、恋人を待つ期間親交を深めた。彼女に裏切られてしまったけれど、出会った女の子と仲良くなれた。
読後感は二人が夜空と樹木を見上げている日々が脳裏に残されていて、それが逆に良い感じで記憶に残っています。

とてもドキドキハラハラさせられました。
執筆お疲れ様でした。

 

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2015年12月28日(月)21時56分 ハイ s7d/2ml3o.10点
冒頭の綺麗なイメージに惹かれて拝見いたしました。

●文章について
全体に文章が流麗かつ、瑞々しさにあふれていたと思います。
また、丁寧にルビなどふってあり、作者さんの読者への細やかな心遣いも感じ、好感が持てました。

●キャラ
テンプレートながら、うまく組み合わせることでそれぞれの魅力、またはいやらしさをうまく引き出していたと思います。ただ、読者によってはやはりテンプレの域を出ないと感じる人もいそうかな、と思いました。

●テーマの消化
雪の妖精とのことでまあ話に絡んでいなくもないんですが、なんだかちょっと弱いかな、と感じました。

●ストーリー
作者さんの書きたいとするところはよくわかりました。
少女漫画の読みきりでこういうのありますよね。
ボーイミーツガール的な。
けれど、今作の場合ではユキエが存在することにより話の焦点がややぼやけているように思えました。
いや、話の山としてユキエはいるとは思うんですが、そこからすぐ駄目だったから少女に切り替えるってのもなんか違うような気がして……。いや、わからなくもないけど、じゃあ主人公の恋心ってなんだったの、と。
すいません、たぶん私の好みの問題ですね。
私的には、この話なら火事で呆然としているところに少女のほうから現れて、少女のほうから積極的に告白する流れにして、付き合う付き合わないをもう少し曖昧な結末にしたいかな。

好き勝手言いましたが、私からはこんなところです。
ちなみに、

>「ユキエでーす。よろしくお願いしまーす」
 ゲイバーで働く兄。
 きっとキミはコナミ

●昔、そういうパロディありましたよねw

「兄は夜更け過ぎに、ユキエに変わるでしょう~♪」

……失礼いたしました。

それでは、共に上げていきましょう!
 

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合計 14人 180点

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